クローン化は動物に遺伝的損傷をもたらす

mサンデータイムス

02年4月28日

ジョナサン・リーク(科学部)

訳 河田昌東

 

世界中の全てのクローン動物を検討した結果、何れも遺伝的、生理的な欠陥があった。体細胞から作った世界最初のクローン羊、ドリーの共同作成者、ラン・ウイルムートが今週末、彼の研究結果を出版した。

 

彼の結果は、人間のクローン作成に批判的な研究者らの意見に一致する。イタリアではセベリノ・アンチノリ医師がクローン・ベビーで3人の女性が妊娠している、と発表している。アメリカでは、パナヨテイス・ザボス医師が2年以内に同様な妊娠を行うと言っている。ウイルムートは、彼の最近の研究でクローン人間も遺伝的欠陥をもつ危険が極めて大きいことを示唆している。これは「誰もクローンの赤ちゃんを作ろうなどと試みるべきでない」という明らかな警告である。

 

この新しい研究はこれまでに作られた世界中のクローン動物を調査した。 「クローン化に伴う様々な問題を考えると、完全に正常なクローン動物がいるのだろうか」という疑問を彼は持った。ウイルムートらが5年前にスコットランドのロザリン研究所で作ったクローン羊のドリーは、すでに欠陥を持っていることが分っていた。ドリーはテロメアが短くなった染色体をもって生まれた。テロメアというのは染色体の末端を保護しているDNA配列である。正常の羊や人間では、テロメアは老化と共に短くなっていく。テロメアが短くなると、細胞は病気や死亡しやすくなる。これは、老化に伴う病気や発ガンにリンクしている。今年初めに、ドリーは通常の羊よりも遥かに若くして関節炎を発症していることが分った。ウイルムートは、クローン羊やクローン牛などで起こる体の肥大化も含め、他のクローン動物でも通常起きている欠陥をリストアップした。例えば、クローン・マウスでは胎盤が正常の4倍もあるし、クローン豚では心臓に欠陥がある。通常と同じ量の餌を与えているにも関わらず、多くのクローン・マウスはグロテスクなまでに太り、多くのクローン牛や羊、豚は発達障害や肺機能障害、免疫機能の異常などを持っている。

 

クローン動物はまた様々な個体特有の欠陥を持つ。フランスでクローン化された子牛は一見元気そうに見えたが、白血球を作れなくなり51日目に死んだ。同様に、ロザリン研究所の科学者達はクローンの子羊を12日目に安楽死させざるを得なかったが、その原因は肺周辺の筋肉が異常に分厚くなり呼吸が出来なくなったからである。

 

ウイルムートは全ての細胞でDNAに結合し、細胞の機能をコントロールするメチル基の挙動に注目している。彼は、成体細胞のDNAのメチル化が精子や卵子のそれとははっきり違っていることを発見した。このことは、成体細胞から核をとり、卵細胞に注入する(クローン作成の手順)際に、そのDNAは精子のそれとは全く違う仕方でフォーマットされていることを意味する。彼は、これがクローン動物の遺伝子が予期しない挙動をする理由であり、人間のクローンもまたこの問題を避けられない、と考えている。

今年初めに、アメリカのアドバンスト・セル・テクノロジー社が3個の人間の胚細胞クローンを作り出したと発表したが、そのどれもが6細胞以上の大きさにまでは成長しなかったと認めた。ウイルムートの結論は「クローンニングではきっとまずいことが起こるという証拠が沢山あり、人間では起きないと信じる理由は何もない」という。

 

人間クローン化計画の研究者達は、そうした問題をきっと克服して見せると言っている。ザボス医師はその中でも最も重要な挑戦者と見られている。彼は近い将来人間の再生を試みる前に、彼らの技術を完成させるための研究所を二つ作ると宣言している。

 

(まとめ)クローン化によって起こる問題

羊:          クローン化でしばしば肥満や心臓、肺の奇形を伴う。

マウス:      胎盤が正常の4倍大きくなる。

牛:          多くのクローン牛が流死産

人間:        未知の原因で胚死亡。6細胞以上の成長例なし。

全生物種:    染色体損傷で極端な老化とランダムな遺伝子の欠陥を生ずる。

 

 

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