大学と企業の癒着に対して戦ったバイテク・コーンの批判者は
カリフォルニア大学を首になるかもしれないと懸念
サンフランシスコ・クロニクル
03年3月23日
訳 河田昌東
産学共同に対する新たな問題を提起する騒動の中で、学者達はバイテク企業批判の中心になってきたカリフォルニア大学バークレー校の助教授が、通常どおりこれまで2回行われた在職期限延長の審査で公正な意見聴取が行われるかどうか懸念している。
秘密聴聞会を垣間見せてくれる論争は、1989年に論議を呼んだバイテク企業ノバルテイス社とバークレー校の植物微生物学部との研究協力に反対のリーダーだったイグナチオ・チャペラ助教授に関するものである。
農業バイテクの批判者チャペラはまた、1998年にメキシコの野生トウモロコシのゲノムに組み換え遺伝子の断片が見つかったという論文を書いた研究者でもある。この騒動の発端となった発見は、組み換え作物が在来種を汚染し、生物多様性を減少させる可能性を示唆した。この科学雑誌は後日チャペラの研究方法をバイテク推進の科学者らが批判したため、同研究論文を撤回した。現在キャンパス内外のチャペラの仲間達は、9名の聴聞委員会メンバーの一人でバークレー校のジョスパー・リン教授がノバルテイス社や他のバイテク企業と緊密な関係を持っているので、助教授の聴聞を公正に行うことは出来ないだろうと言っている。「我々が話し合っているのは、あからさまな利害衝突の問題だ」とトロントのヨーク大学の科学史家デービッド・ノーブルは言う。ノーブルはバークレー校の総長ロバート・ビンダールに最近手紙を書き、リン教授に関する異議申し立てをした。その手紙のコピーがクロニクル紙に送られてきた。
長い間、産学共同研究の批判者であったノーブルは、リン教授が1995年にアカシア・バイオサイエンスというバイテク企業の共同設立者であることに注目している。新聞記事を引用してノーブルが言うには、アカシア社はリンが取得したバイテク特許の一つをノバルテイス社の作物特許部門に提供している。利害関係問題に答える、とクロニクル紙記者に会う約束をしたが、リン教授は、バークレー校当局が同教授に対して在職期限延長の決定は、個人的な問題も含んでいるので決定過程の秘密が守られなければならない、と彼に言ってから現れなかった。「ジャスパーには隠すような事は何も無い」とバークレー校のスポークスマンのジョージ・ストレートは言い、彼はリン教授の特許提供疑惑とチャペラ助教授のケースの状況に答え「こんなことは過去には無かったことだ」といった。チャペラが大学とノバルテイス社との合意に対し(聴聞会で)遠慮の無い反対を述べたとすれば、彼の在職期限問題は恐らく先例を破ることになるだろう。
大学との取引の5年目の最後の年に、ノバルテイス社(同社の農業部門は現在シンジェンタ社と呼ばれている)は大学に2500万ドル(約30億円)寄付し、その見返りに同社がスポンサーとなった研究結果からもたらされる発見に対してある種の権利を持つ、という契約に同意した。
ノバルテイスの取引は停止
産学協同の批判者たちは、ノバルテイスの撤退は大学の独立の侵害だという苦情に対する見せかけだと言い、同契約は2000年3月のアトランテイック・マンスリーの「kept
university(取り込まれた大学)」という記事でバークレー校があからさまなスポットライトを浴びたバークレー校を今後も養うものだ、という。バークレー校の前自然資源学部長だったリチャード・マルキンは昨年5月チャペラの在職期限延長を提案した。マルキンはこの衝突を非常に心配したので、大学の在職期限聴聞委員会を主催する副総長のジャン・ド・フリースに対し、リンに関する懸念を電話で伝えた。マルキンは、ド・フリースに対し、リンがノバルテイスとの合意を監視するために作られた二つの委員会の一つに所属していることを話し、その結果リンはチャペラのケースで自分自身を守らなければならなくなると示唆した、と言った。「もし君があらゆる衝突を避けようと望むなら、ノバルテイスとの契約に最もあからさまに反対している者の在職期限聴聞会で何も望むべきでない」とマルキンは言う。しかし、バークレー校のスポークスマン、ストレートは、リンに関するいかなる利害の衝突も心配に及ばない、なぜならチャペラの在職期限聴聞はすでに4ヶ月毎に2回行われており、委員達がチャペラの所属学部の追加資料を待っている状態だから、といった。「彼ら(予算委員)はそのことはまだ何も考慮したことは無い。(チャペラの在職期限を)認めるか認めないか彼らが決める状況にはまだなっていない」とストレートは言った。
在職期限問題をさらに複雑にしているのは、チャペラの研究が遺伝子組換えコーンが野生コーンを汚染したと証明したのかどうか、彼が自分のデータの説明を間違えたかどうか、で科学的論争が起きたからである。バークレーや他の研究機関のバイテク科学者達はチャペラの発見にすぐに疑問を発し、昨年4月ネーチャー誌に対し「再検討の結果(チャペラの)原論文の出版が適切だと判断する証拠は不十分であった」、と編集長に異例の謝罪をさせた。それ以来、バイテク科学者達はチャペラの発見を支持するか、しないかで二つに分かれている。