組換えを促進するcahマーカー遺伝子

(シアナミド・ヒドラターゼ遺伝子)

 

マルシア・ウッド

1998年7月

訳 山田勝巳

 

作物を遺伝子組み換えしたいと考えている研究者は常にマーカーとして使える遺伝子を探している。 現在の限られた選択にcahという遺伝子が加わりそうだ。 これはネブラスカ州リンカーンにある農業調査サービスの遺伝学者J・トロイ・ウィークスによる。

 

ウィークスと生物工学技術者は、強力な害虫や病気に抵抗性を増すような優良な特性を植物に持たせるために、研究中の遺伝子をこのマーカー遺伝子と組み合わせた。 このマーカー遺伝子は、研究者にとって新たな有用性のある遺伝子を持つ細胞だけをわかるようにできる。 不要な植物組織は、除外して、有用そうな組織に努力を集中できる。 これを実験室の苗木とし、更に温室栽培用に育てる。

 

 このウィークスと同僚が試験しているマーカー遺伝子は、シアナミドという薬品に耐性を持たせる。 用途の広いこの化合物は、一見矛盾した使い方が出来る。 環境に優しい肥料であると同時に特定の状況では、除草剤や殺菌剤にもなる。 ウィークスの実験室ではシアナミドを最初の2つの用途のために実験している。 cah遺伝子は、植物組織のカルスの固まりをペトリ皿の中でシアナミドを尿素肥料に変換する。 普通の状態では植物はこれは出来ない。 ペトリ皿上ではcah遺伝子を持ったカルスは、他の黄白色カルス組織と違って直ぐに緑がかってくる。 その後、このカルスは、正常な芽と根を発生する。 cah遺伝子のない細胞は、茶色っぽく見え、何本か短い根を発生することもあるが、生き残らない。 しかしcahを持つ細胞は、シアナミドで育成されると盛んに生育する。

 

更に、このカルスには直ぐ出る違いの他に、研究者はcah遺伝子の有無を早く、簡単に安く検定出来る。 他のマーカー遺伝子のように危険な薬品を使わなくても良い。

 

この遺伝子はどこから来て何をするのか。

 cah遺伝子は、通常土壌中のカビから得られる。 ウィークスは、2つの点でこの遺伝子の可能性を認めている。 この細菌はシアナミドを植物に有用な肥料に変える。 この細菌がいないとシアナミドは植物に栄養を与える代わりに、植物を殺してしまうことがある。

肥料として使う場合は、シアナミドを植物が発芽する前に撒く必要がある。土壌菌がこれを尿素に変えて植物が使えるようにするのである。 これをする微生物にはミロセシウム・ベルカリア(Myrothecium verrucaria)菌も含まれる。 cah遺伝子は、カビからの借り物である。 cah遺伝子はこの遺伝子を持つ組み換え植物細胞にシアナミド・ハイドラターゼという酵素を作るよう合図をだす。 この酵素はカビ、又は、cah遺伝子を持つ植物細胞がカルシウム・シアナミドという肥料態のシアナミドを加水分解して尿素に変える活性をもつ。 普通、カルシウム・シアナミド肥料が間違った植物に使われると、植物は黄色くなって枯死するか、良くても収量は下がる。

 

実験室では、ウィークスがcah遺伝子を麦の細胞へ、ビオブラスト/遺伝子銃で撃ち込んだ。 この銃は金の微粒子に目的の遺伝子をコーティングし、ペトリ皿にある植物の組織に打ち込む。 そして、シアナミドの入ったゼリー状の養液中で培養するのである。cah遺伝子が活性な細胞は、シアナミドを尿素肥料に変換して新たな植物の誕生となる芽と根を伸ばす。 これまでウィークスはcah遺伝子を持つ健康な麦を100本以上作り出した。 これを特許にしようとしている。

 

ウィークスは、カリフォルニアのARS西部研究センターのオリン・D・.アンダーソン、カリフォルニア大学バークレイ校のケリー・Y.・コシヤマ、ミュンヘン・ルドウィグーマクシミリアンズ大学のトニー・シェフナー、ミュンヘン大学のウルスラ・マイヤー・グレイナーと協力した。 マイヤー・グレイナーは、ドイツチームの一部でcah遺伝子を最初に発見しコピーした。

 

この遺伝子は、抗生物質や広く使われている一般的除草剤に抵抗性があるためマーカー遺伝子として有望である。

 

抗生物質耐性マーカーを使った実験室の実験では、例えば抗生物質のカナマイシンに植物細胞が曝されるとこのマーカーを取り込んでいない限り死んでしまう。 そのような植物で作られた食べ物は、腸内細菌が薬剤耐性を持つことになりかねないと懸念する反対者もいる。 バイテク技術者は、この可能性は極めて低いと見ている。

 

マーカー遺伝子が、一般市販の除草剤に対する耐性を持っている場合、その作物が付近の近縁種と交雑して除草剤耐性が移った場合、スーパー抵抗性雑草が出来かねないと反対されている。 カルシウム・シアナミドは、一般的除草剤ではないので、ウィークスはこの恐れはゼロだという。

 

穏やかな代替品?

 新しい実験で、ウィークスは、cah遺伝子を持つ植物が裸の土壌においてだけではなく、芽を出したその後も植物を傷めずにカルシウム・シアナミド肥料をもっとタイミングよく使うかどうかを判定したいと考えている。 「シアナミド肥料は、明らかに一般的な尿素系や窒化アンモニウム系肥料よりも地下水の窒素汚染の危険性が少ない。」 石灰窒素として知られるカルシウム・シアナミド肥料は1900年代初頭に出てきている。 これは石灰と石炭を加熱して作られる。

 

 

詳細は、US特許申請番号08/873,001「シアナミド・ヒドラターゼ遺伝子による麦の組み換え」参照。 

連絡は、J. Troy.Weeks, USDA-ARS Wheat, Sorghum, and Forage Research Unit, 344 Keim Hall,

University of Nebraska, Lincoln, NE 68583; phone (402) 472-9640, fax (402)472-4020,

   e-mail tweeks@unlinfo.unl.edu

 

 

戻るTOPへ