ブラジルの次期大統領候補はGMモラトリアムを解除しないだろう
2002年10月7日
ロイター
訳 中田みち
ルラ政権は「非GMのブラジル」をめざす
もしも今月のブラジル大統領選挙で左派のルイス・イグナシオ・ルラ・ダ・シウヴァが勝利すれば、モンサントらバイテク企業は政府がGM作物の栽培禁止を継続して認めるのを見込まなくてはならなくなるだろう。
「我々は非GMという評判を立てたいのです」とルラの農業政策アドヴァイザーであるホセ・グラツィアーノ・ダ・シウヴァは言う。「そうすれば、わが国特産品の農産物市場で、GM作物を作付けしている競争相手アメリカやアルゼンチンは手にすることの出来ない価格プレミアムを得ることができます。」
ブラジルを非GMで売り出すのは、ルラの幅広い農業政策の一部だ。それによって付加価値をつけて海外のニッチマーケットを取り込み、農産物からの貿易収入を増大させることを目論んでいる。左派のWorkers Party・PT(労働党)のルラはこの日曜日に行われる最初の投票を3日後に控えた世論調査で、他の候補に大きく差をつけている。PTは最近では闘争的な小農や地方の土地を持たない労働者達とは距離を置くようになってきてはいるが、依然、彼らが地方でのPTの政治基盤の柱であることに変わりはなく、それゆえにGM作物は小規模農場に害をもたらすものだとして、強く反対しているのだ。
農業の巨人とも言えるブラジルでは、遺伝子組み換えされた作物、すなわち強力な除草剤・グリフォサートにも枯れない大豆や、殺虫毒素を分泌するコーンに対する潜在的なマーケットはバイテク企業にとっては垂涎ものだ。しかし、モンサント社と現在の政権は、この4年間GM製品の販売に対する禁止措置を終了させることが出来ずにいる。農家の多くはこのコスト削減技術を使いたがっているにもかかわらず、消費者と環境監視団体が地方の裁判所を使ってGM作物の商業栽培を阻止していすることに成功しているからだ。たとえば環境保護団体グリーンピースは、GM技術は環境と人間の健康とに潜在的な脅威を持っているとして、その技術の使用に反対している。「バイオテクノロジーに関する調査は政府の作物調査機関(Embrapa)によって続けられるでしょう。」とグラツィアーノ・ダ・シウヴァは言う。「しかし、GM技術が人間と環境にとって安全であると十分に証明されるまでは、その技術の商業利用の禁止は継続されるでしょう。」
シウヴァはUnicamp大学の農業経済学の教授であり、またPTの農業政策の立案者でもある。「我々は、この問題に目をつぶってきた現政権と違い、禁止措置を強化していきます。」と彼は言う。
禁止措置がGM闇市場を作り出す
ブラジル種子生産者協会 (The Brazilian Association of Seed Producers・Abrasem)によると、この禁止措置により、海外との厳しい競争にさらされている農家がコスト削減と収量の増加を約束してくれるGM技術を求めて闇市場にむかうため、彼らの種子業界が打撃を受けていると言う。
公式に州に認定されている種子生産者は法律によって従来の非GM大豆種子を販売することしか認められていないが、彼らは受注が激減していると言う。同協会によると、2番目、3番目の生産量を誇るブラジル南部の州の、大豆の半分以上が、GM作物が大規模に作付け販売されているアルゼンチンから国境を越えて密輸された不法なGM種子を作付けされたものと思われるという。
「GM種子を作付けるためのルールを待ち望んでいます。そうすればわが国の生産者たちは、GM技術によって利益を受けている海外の生産者と同じ土俵で競争することが出来ます。」政府のバイオテクノロジー規制機関(CTNBio)の代表、ジョアン・レニニ・ボニファシオ・イ・ソウザは言う。
ブラジル連邦地方裁判所では、数ヶ月の間禁止措置の解除について審議が行われてきた。しかしたとえ判事達がGM作物の作付けを認めたとしても、グリーンピースや地元消費者グループが上級審に控訴するだろうと見られている。
バイテク食品と作物の全面的な規制を目指す法案は約1年間も議会にかかったままで、10月の大統領選挙よりも前には投票される見通しはない。新政権がスタートする2003年までは、定足数すら満たさないかもしれない。
2001年、ブラジルでは明確な政府の規定がないために、GM作物の商業用途ではない実験栽培までも禁止された。アナリストはこれによってブラジルはバイテク企業からの直接投資を逃したことになるという。この禁止措置がなければ、バイテク企業は、この国で盛んな農業研究を担う、高い教育を受けた科学分野の人材を使って研究所を作っていると思われるからだ。