土壌昆虫耐性遺伝子を組み込んだトウモロコシ(MON863)に批判

 

河田昌東

 

昨年1217日、アメリカの認可に先立って厚生労働省の食品衛生部会が食品用に認可したモンサント社のMON863トウモロコシの環境への影響について、アメリカで批判が高まっている。MON863はこれまでのBt遺伝子と違い、トウモロコシの最大の害虫であるCorn Rootworm(根きり虫)を殺す毒素Cry3Bbの遺伝子を組み込んだものである。遺伝子組換えで農薬が減るという当初の主張が事実と異なり、期待したほど減少しなかったことはすでに各種のデータで裏付けられている(当HPのデータ編参照)。これは、トウモロコシの害虫被害の多くが、これまで開発されたBt遺伝子の標的であるアワノメイガ(European Corn Borer)によるもので無く、土壌害虫であるCorn Rootwormによるものだったからである。こうした経過から、モンサント社は新たに根きり虫を殺すCry3Bb遺伝子を組み込んだトウモロコシMON863を開発したものである。Bt遺伝子が標的外昆虫のオオカバマダラ蝶の幼虫を殺す、として大きな問題になったことは周知のとおりであるが、これらを含めて全てのBt遺伝子の毒素はBt植物の根から分泌され、土壌中の昆虫生態系に対する影響が懸念されてきた。MON863は初めから土壌害虫の殺傷を目的としたものであり、どのような環境影響があるか評価が注目されていた。MON863は日本が食用に認可した後で、アメリカFDAも昨年1231日にFDAが認可したが、これを栽培し市場に流通させるには、環境保護庁(EPA)の認可が必要である。モンサント社の栽培認可申請に対し、EPAは地上部及び地下の昆虫への影響が充分に評価されていない、として昨年7月に試験栽培のみを認可し、本格的な栽培認可はまだ出ていない。 EPAによればモンサント社の試験によっても、MON863の栽培畑ではCollembola(トビムシ類)が大幅に減少したことが明らかになっている。EPAにはモンサント社の認可申請に対して多くの市民団体や個人から意見が寄せられている。遺伝子組換えには賛成の立場のCenter for Science in the Public InterestCSPI)も基本的にはMON863は害がないとしながらも、モンサント社の申請書では耐性昆虫の出現に対する対策が不充分であり、そうした対策無しにはMON863は有効な手段にならない、と批判している。

ここでは、最近(02531日)アメリカのUCS(憂慮する科学者同盟)からEPAに提出された意見書(56頁)の要点を紹介する(Comments to the Environmental Protection Agency on Monsantos Application to Register MON863 Bt Corn for Control of Corn Rootworms:  Docket

#OPP-30509B, May 31,2002)

 

憂慮する科学者同盟(UCS)のMON863批判の要点

 

(1) MON863に組み込まれているCry3Bbは他のBt遺伝子を組み込んだBtトウモロコシに比べて、毒素蛋白質の発現量が極めて高く、標的外昆虫への影響が大きな問題である。

例えばすでに認可されているMON810トウモロコシに比べても、葉における毒素蛋白質は8倍多く、Bt11(ノヴァルテイス社:オオカバマダラへの影響で有名になった)の24.5倍も多い。花粉での発現量ではもっと差が大きくなる。MON863の花粉中の毒素蛋白質はMON8101240倍、DBT4185391倍もある。こうしたことから、MON863は土壌害虫を標的としながら、実際は地上部の標的外昆虫や益虫にたいして極めて大きな有害性をもつ可能性がある。 以下にMON863と他のBtトウモロコシとの毒素蛋白質発現量の比較を示す。

 

ブランド名

毒素遺伝子

メーカー

組織中の毒素蛋白質濃度(μグラム/g)

花粉

穀粒

根(成熟)

植物全体平均

MON863

Cry3Bb

モンサント

81

62

70

41

37

MON810

Cry1Ab

モンサント

10.34

0.05

0.3

 

4.65

Bt11

Cry1Ab

ノースロップキング

3.3

0.05

1.4

21

 

Event176

Cry1Ab

ノバルテイス

4.4

7.1

0.001

0.08

0.6

DBT418

Cry1Ac

デカルプ

2.04

0.0115

1.62

0.125

 

StarLink

Cry 9c

アグレボ

44

0.24

18.6

25.6

 

 

(2) 上記の表でも明らかなとおり、毒素蛋白質は害虫駆除に必要な根だけでなく、地上部の葉や花粉、穀粒にも大量に作られ、標的外昆虫にも影響を与える。

 

(3) Cry3Bb毒素は、根きり虫の駆除に必要な期間よりも2ヶ月以上長く作られ続け、他の地上、地下の昆虫の幼虫に無用な被害を与える恐れがある。

 

(4) モンサントの申請書には、根から分泌される毒素の影響について評価がなくデータが不備である。

 

(5) 上記の表にある毒素蛋白質発現データ(MON863)も極めて不充分で、葉のデータはアメリカ国内で栽培したもの、花粉データは何故かアルゼンチンで栽培したものなど、理由も無く統一性を欠いたサンプリングをしている。

 

(6) 各種の昆虫に対する毒性試験は、精製したCty3Bb蛋白質と人工飼料とで行われ、実際の植物の組織(葉、花粉、根など)では行われていない。これでは、現実を反映していない。この毒性試験も、最大濃度が、現実の葉の濃度の2倍までしか行われていない。毒性試験では少なくとも、実際の濃度の10倍までは必要である。

 

(7) フィールドにおける土壌昆虫への影響試験でも、根での毒素蛋白質濃度が減少してしまった時期(7月以降)に行われた。実際は、植付けして盛んに根が伸長している2ヶ月間が最も毒素生産が高いので、これでは土壌環境への影響試験とは言えない。

 

(8) MON863に対する耐性害虫の出現に対して何ら対策が考えられていない。Bt遺伝子に対する耐性昆虫発生は今や常識であり、それに対する対策がセットで無ければ、MON863の有効性はいずれ消滅する。

 

MON863の有効性に関する疑問などを根拠に、UCSEPAMON863の栽培認可を出すべきでない、との意見を提出している。

 

 

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