論文:American Journal of Botany (アメリカ植物学会誌)2001年 88巻、頁17041706

Bt corn has a higher lignin content than non-Bt corn

 

Btコーンは非Btコーンよりリグニン含量が高い

 

by Deepak Saxena and G.Stotzky

(ニューヨーク大学生物学部微生物生態学研究室)

 

要旨翻訳:河田昌東

 

BtコーンはBacillus thuringiensis Cry1Abタンパク質を作り、鱗翅類害虫を殺すように遺伝子組み換えされたコーンである。蛍光顕微鏡とトルイジン・ブルー染色で調べた結果、3種類の異なる組み換え遺伝子形質からなる10種類全てのBtコーンで、それぞれの親株の非Btコーンに比べて、維管束鞘と維管束を取り囲む厚壁細胞にリグニン含量が高いことが分かった。化学分析の結果、全てのBtコーンのリグニン含量は、温室栽培と実際のフィールドでの栽培とを問わず、非Btコーンの親株に比べて有意(3397%)に高いことが確認された。リグニンは植物細胞の主要な構成成分なので、リグニン含量の変化は生態学的な影響をもつかもしれない。

 

本文:省略

添付:表1、表2、顕微鏡写真

 

訳注:河田

 この論文は、遺伝子組み換えによる宿主遺伝子と細胞への予期しない影響の典型例である。実際に調べたのは、モンサント社のMON810、ノバルテイス社のBt111763種類の害虫抵抗性遺伝子を含むBtコーン10種類である。これらは何れも殺虫遺伝子Cry1Abを持つが、10種類全てのBt株で、宿主コーンの遺伝子における挿入場所は異なる。外来遺伝子(この場合Cry1Ab)が宿主遺伝子の働きに干渉するのは当然だが、挿入場所のことなる全ての株で、殺虫遺伝子の発現とは一見無関係に見えるリグニン含量が高くなったことは注目に値する。リグニンは、木質を形成する成分で、フェニルアラニンという芳香族アミノ酸(ベンゼン環を持つ必須アミノ酸の一種)を原料として、いくつかの代謝ステップを経て作られる複雑な高分子である。Bt遺伝子の導入で、リグニン含量が最低33%、最高97%も高くなった(約2倍)ことは、Bt遺伝子の導入が明らかにリグニン合成経路の遺伝子にプラスの影響を与えたことを意味する。木質成分のリグニンが増えれば、植物体は硬くなり様々な影響がでる。例えば、家畜飼料としての嗜好性に悪影響を与えよう。この論文の著者らはプラスの効果として、害虫の食害、カビや細菌の感染に強くなり、土壌にすきこまれれば腐食が遅くなって土壌改良に役立つ一方、害虫毒素がいつまでも土壌中に残留し、耐性昆虫が増えるなど土壌の生態系に影響を与える可能性があると言い、さらなる研究が必要と指摘している。Cry1Ab遺伝子の挿入で、なぜリグニンが増加するか、その生化学的メカニズムは今のところ不明である。

ところで、この研究結果は、筆者(河田)らが指摘している「GM作物同士の後代交配種の問題」に深く影響を与えるものである。今年7月、厚生労働省はほとんど実質的な安全審査をせずに、モンサントのラウンドアップ除草剤耐性コーン(NK603)と害虫抵抗性コーン(MON810)などを通常の交配で掛け合わせて作った新たな品種6種類を認可した。個別のGM種が既に安全審査を経ているので、それらの交配で出来た「後代交配種も安全」というのがその根拠である。その主張の背景には、除草剤耐性と害虫抵抗性は相互に無関係な遺伝子で、細胞内の代謝過程でお互いに干渉する可能性がない、という考えがある。二つの遺伝子が、細胞内で全く独立に働き、それがつくるタンパク質も互いに無関係に代謝過程で働いているなら、論理的にはそうした考えもなりたつ。しかし、実際には全ての遺伝子が互いに連携しあい、細胞生命の一体性を維持している、というのが最近の知見である。この論文は、第一に遺伝子組み換えがそうした予期せぬ結果をもたらすことを実証したという点で意味がある。その上、Cry1Ab遺伝子導入によりリグニン合成が盛んになるという結果は、ラウンドアップ除草剤耐性遺伝子との複合的な影響が避けられないことを意味する。なぜなら、ラウンドアップ耐性遺伝子(RR)こそは、リグニン合成の原料となるフェニルアラニンの生合成経路(シキミ酸経路という)の一員であり、RR遺伝子導入によってリグニンが増えることが既に分かっているからである。 RR遺伝子とリグニン合成の関係は、既に代謝経路上で理解可能である。RR除草剤耐性遺伝子と害虫抵抗性(Cry1Ab)遺伝子が交配によって、一つの細胞に同居(複合GM)すれば、リグニンとその原料フェニルアラニンの合成を通じてこの二つの遺伝子が互いに干渉・連関しあうことになる。厚生労働省の「互いに独立した遺伝子」という考えは明らかに間違いである。こうした外来遺伝子の相互干渉を無視し、安易に後代交配種を認可すれば、取り返しの付かない結果をもたらす危険があることをこの論文は示唆している。

 

 

害虫抵抗性(Bt)遺伝子組み換えでリグニン含量が増える(表1):温室栽培の結果

会社名

組み換え形質名

(a)

Bt+

Bt−

P

品種名

リグニン含量

(%)

品種名

リグニン含量

(%)

 

Novartis(b)

Bt11

N7590Bt

7.2±0.10

N7590

4.8±0.14

0.00001

Novartis

Bt11

N67-T4

6.3±0.25

N67-H6

3.9±0.15

0.00175

Novartis

Bt11

N3030Bt

7.0±0.22

N3030

4.4±0.22

0.00003

Novartis

Bt11

NC4990Bt

6.6±0.18

NC4880

3.4±0.27

0.00020

Novartis

Bt11

NK4640Bt

6.3±0.14

NK4640

3.2±0.12

0.00001

Novartis

Bt11

Maximizer

4.0±0.15

 

Pioneer(c)

MON810

P31B13

6.0±0.24

P3223

3.2±0.18

0.00032

DeKalb(d)

MON810

DK647Bty

6.2±0.25

DK647

4.4±0.22

0.00174

DeKalb

MON810

DK679Bty

6.6±0.11

DK679

3.8±0.10

0.00005

DeKalb

MON810

DK626Bty

6.1±0.20

DK626

3.2±0.18

0.00006

1:温室栽培された各種コーンのリグニン含量(%±標準誤差)

   Cry1Ab遺伝子を持つもの:Bt+、持たない親株:Bt−

(a) 何れもCry1Ab遺伝子による組み換え体:遺伝子の挿入場所はそれぞれ異なる。

(b) Novartis AG., 4002 Basel, Switzerland.

(c) Pioneer Hi-Bred USA, DEs Moines, Iowa 50306 USA.

(d) Dekalb % Monsanto Company,St.Louis, Missouri 63198 USA

 

 

 

 

 

害虫抵抗性(Bt)遺伝子組み換えでリグニン含量が増える(表2):フィールド栽培の結果

会社名

組み換え形質名

(a)

 

Bt+

Bt−

P

品種名

リグニン含量

(%)

品種名

リグニン含量

(%)

 

Novartis(b)

Bt11

N7590Bt

7.4±0.15

N7590

5.2±0.11

0.00007

Novartis

Bt11

N67-T4

7.1±0.22

N67-H6

4.5±0.14

0.00082

Novartis

Bt11

NC4990Bt

7.7±0.06

NC4880

4.8±0.22

0.00033

Novartis

Bt11

NK4640Bt

7.9±0.10

NK4640

4.9±0.09

0.00001

Novartis

Bt11

Maximizer

5.9±0.13

 

Pioneer(c)

MON810

P32P76

6.8±0.14

P32P75

4.8±0.22

0.00016

Pioneer

MON810

P31B13

7.0±0.04

P3223

4.9±0.13

0.00007

DeKalb

MON810

DK626Bty

6.8±0.15

DK626

5.1±0.12

0.00085

2:フィールド栽培された各種コーンのリグニン含量(%±標準誤差)

   Cry1Ab遺伝子を持つもの:Bt+、持たない親株:Bt−

(a) 何れもCry1Ab遺伝子による組み換え体:遺伝子の挿入場所はそれぞれ異なる。

(b) Novartis AG., 4002 Basel, Switzerland.

(c) Pioneer Hi-Bred USA, DEs Moines, Iowa 50306 USA.

(d) Dekalb % Monsanto Company,St.Louis, Missouri 63198 USA

 

●顕微鏡写真

訳注:トルイジン・ブルーでリグニンが

青黒く染まっている

 

訳注:リグニン部分が紫外線で青く光っている

 

A,C:非Bt親株トウモロコシ、  B,DBtトウモロコシ(Cry1Ab

A,B:蛍光顕微鏡写真(紫外線)、 C,D:トルイジン・ブルーによる木質部染色

 

 

 

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