食品安全委員会、全頭検査見直し着手を決定 他のBSE対策も

農業情報研究所(WAPIC)

04.4.16

 食品安全委員会は15日の会合で、BSE「全頭検査」の見直しに正式に着手することを決めたという。食品安全委員会による公表は未だないので詳細は分からないが、新聞報道によれば、生後20ヵ月以上の牛に限定する案を軸に検討するということらしい。国際獣疫事務局(OIE)の小沢義博名誉顧問は、検査には精度の限界があり、多くの感染牛が検査をすり抜ける恐れがある、特定危険部位の除去が最も重要と述べたという。

 現在の検査には検出限界があり、通常は2年から8年という潜伏期間の末期にならなけらば感染は発見できない、従ってあまり若い牛の検査は無意味だということは、日本でBSEが最初に確認されて以来、当研究所は繰り返し主張してきた。だからといって、今回の決定を直ちに歓迎するわけではない。ここで改めてはっきりさせておきたいことがある。

 当所は「全頭検査」自体に絶対的に反対するものではない。検査が改良され、検出限界が下がれれば、それに応じて検査月齢は下げるべきである。感染初期の感染牛まで正確に見分けられるようになれば、当然全頭検査を行うべきである。そうなれば、検査が安全確保の手段となり得る。当所が今の段階で全頭検査に疑問を呈したのは、この限界ある検査が「安全保証」の手段と受け止められ、そのためにもっと優先されるべき基本的対策に緩みが出ることを恐れたからである。

 実際、健康な牛の全頭検査はいち早く実施されたが、あらゆるBSE対策の基本的前提となるBSE発生状況の把握に極めて重要な役割を演じるはずの「死亡牛」等の高リスク牛全頭検査の完全実施はこの4月まで延ばされた。個体識別システムとトレーサビリティーの確立も重要だが、これもずっと遅れた。この間に、高リスク牛がどう処分されたのか、その行方はどうなっているのか、公式調査もないから分からない。

 肉骨粉全面禁止措置もいち早く取られたが、遵守されているかどうかのシスティマティックな検査もない。交差汚染防止対策も未だに完全とはいえない。禁止措置も部分的に早々と解かれた。牛が本当に肉骨粉を食べていないかどうか、誰も知ることができない。肉骨粉の処理も適切に行われているのかどうか、検証がない。環境中にばら撒かれような扱いはなかったか、肉骨粉を直接扱う作業員の吸引等の防止措置が現場で万全なのか、こうしたことも不明のままである。

 特定危険部位の除去も決められたが、その範囲は適正なのかも真剣に問われているようには見えない。脊髄と同等の感染性があるとされる背根神経節(背骨)の除去が今年2月までなされていなかったことは、これを強く象徴する。同時に、特定危険部位が実際に本当に除去されているのかどうか、残存附着はないか、汚染は起きていないか、これもシスティマティックな検査がないから分からない。英国ではこれに関する調査結果が毎月報告されるが、未だに脊髄付き牛肉がほとんど毎月発見されている(例:FSA:Monthly report of Specified Risk Material and other BSE Control breaches for February 2004)。

 全頭検査の見直しだけが行なわれて、これらの基本的措置の有効な実施の検証が放置されるならば、見直しの決定も歓迎ばかりしていられないということだ。新聞報道では、食品安全委員会は、今までのBSE対策(実施)が適切であったかどうかについても検討するという。それが完成したときに、本当に歓迎すべきかどうかの判断がつく。

 最後に、仮に20ヵ月以上の牛に検査が限定されたとしても、消費者は安全性のレベルの低下を恐れる必要はないと念を押しておきたい。現在の検査がこれ以下の牛にBSEを発見する可能性はまずないからだ(今までの経験で見る限り)。BSEについては、今のところ安全を「保証」する手段はない。あるのは、安全のレベルが高いか低いかということだけだ。一般的には、上記の措置が「有効に」実施されれば人間の感染リスクは考えれられる限りでの最低限に近づき、これらに一定月齢以上の牛(つまり現在の検査で発見できる潜伏期の牛)の検査が加われば、リスクはさらに下がる余地があると考えられている。

 

 

 

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