BSEの人間版はvCJDに限られない 遺伝子型で異なる型
04.11.12
人間が罹るBSEの型は一つだけではなさそうだ、しかし、一部の人はこの病気から自分を保護する遺伝子型を持つかもしれない、このようなことを示唆する新たな研究が発表された(*)。
人間版BSEで今(04年10月29日)までに亡くなった英国の146人のすべての患者はvCJDと呼ばれるタイプの病気の患者で、そのすべてが“MM”と呼ばれる遺伝子型の持ち主であった(英国人口の36%を占める)。ところが、この研究者たちによる10年に及ぶマウスを使った実験の結果は、人々のなかには、少なくとも一つ、場合によっては二つの別の形態のこの病気が存在し、これらは英国人口の半分を占める“MV”型、14%を占める“VV”型の人に感染する可能性を示唆するという。
その最も新しい実験で、研究チームは、牛のBSE、人間のvCJDを引き起こすとされる異常プリオン蛋白質を脳に注入することでマウスを感染させた。これらのマウスは人間のMM型、VV型の遺伝子を持つように遺伝子操作されたもので、MM型のマウスは、すべて人間に見られるような通常型のvCJDに罹ったが、VV型マウスの半分はまったく発病しなかった。しかし、別の半分の脳はスポンジ状になり、プリオン病特有の異常プリオン蛋白質の塊を形成した。ただし、これらの病変の分布はvCJDのMMマウスのそれとは異なっていた。
さらに、VV型の罹患マウスの脳を健康なVVマウス、MMマウスの脳に注入すると、VV型マウスに発病したものはなく、免疫性が見られたが、MMマウスは、BSEとは無関係とされる”孤発型”CJDの人間に見られるのと類似の病気になった。こうしたことは、人間では、MM型の人が、脳手術の手術具を通じてVV型の感染者から感染物質を受け取るような場合に起こり得る。だが、この場合、”孤発型”CJDと誤認されることになるだろう。
異常プリオン蛋白質は、よく“ならずもの”(rogue)と言われる。だが、ただの”ならずもの”ではなさそうだ。BSEやvCJDの病原体と見られたものが、孤発型CJDの病原体に変身した。こんな変幻自在の“ならずもの”、とても人間の手には負えない。
英国人口の半分を占めるMV型については最も抵抗性が強いと見られるが、これに関する実験は完了したものの、なおデータを分析中という。
研究者は、MM型でない人は、症候を示すことなく病気のキャリアになっているかもしれないし、より長い潜伏期間を経て類似の症状を呈する可能性もあると警告する。
今年5月、英国CJDサーベイランス・ユニットのジェームズ・アイロンサイド教授等は、遺伝子型は不明だが、およそ1万3000人の虫垂と扁桃の検査で、通常とは異なる型の二つの感染例発見を報告した(英国:予想以上のvCJD感染者が潜伏―新研究,04.5.22)。Nature News(**)によると、同教授は、オランダのMM型でない人の解剖でvCJDに似た感染の証拠も見たという。
この研究は、牛由来のプリオン病感染者が予想以上に出るのではないかという従来からの懸念を一層強めるだろう。アイロンサイド教授は、衰えつつあるように見える英国のvCJDの発生予測を変えるべきかどうかを言うには時期尚早だが、新たなCJDの株の証拠を求めて患者の脳が研究できるように、プリオン病の厳格なサーベイランスを維持する必要があると強調する。また、NewScientistに対しては、この研究はBSEが人間に一つ以上のCJDを引き起こす可能性があることを了解させると信じる、「既に孤発型CJDには少なくとも六つの異なる型があると分かっている」と言う(***)。
わが国の「リスクコミュニケーション」では、人間のBSE感染リスクは微小ということばかりが強調されるが、このような新たな知見に照らし、最低限、それが留保つきのものであることも強調すべきであろう。
*Jonathan D. F.
Wadsworth et al.,Human Prion Protein with Valine 129 Prevents Expression of
Variant CJD Phenotype,Science,Published
online 11 November 2004[DOI: 10.1126/science.1103932]
**Mice
with 'good' genes succumb to vCJD,News@nature,04.11.11
***Humans
may get different forms of BSE,NewScientist.com,04.11.11
関連情報
狂牛病関連病はvCJDだけではない、孤発型CJDにも関連の可能性,02.11.29