ニューサイエンテイスト(UK)
2002年11月28日
エンマ・ヤング
訳 河田昌東
BSEは予想以上にCJD(クロイツフェルト・ヤコブ病)を発生?
マウスを使った新たな実験によれば、BSE感染肉を食べると変異型ヤコブ病だけでなく従来型のヤコブ病も発生させるかもしれない、という。従来型ヤコブ病は孤発性ヤコブ病(sCJD)とも言われ、遺伝的に偶然発生し、イギリスの牛でBSEが発生する前から存在していたが、変異型ヤコブ病(vCJD)は狂牛病が人間に感染したものだとこれまで信じられてきた。
最近特にイギリスでsCJDが増加しているが、これは調査や診断技術が進歩したための新たな発見と考えられている。しかし、今回の驚くべき新たな発見は、これらの新規発病の増加が実際はBSEにリンクしているという示唆を強く与えるものだ。
この新たな研究は、BSEの感染源である異常プリオンをマウスの脳に注射した。このマウスは遺伝子組換えで人間のモデルに変えられ、CJDに感染性を持つ。予想通り、マウスの何匹かが発病しvCJD特有の異常プリオンタンパク質分子が出来た。しかし、他のマウスはかつて人間に見られたsCJDに特有の最も普通の三種類の異常プリオンタンパク質を作っていた。
「この発見は重要な潜在的意味がある」と英国ロンドンのMRC(医学研究センター)プリオン研究グループのリーダー、ジョン・コリンジは(専門雑誌)EMBOジャーナルの論文に書いている。「この結果は、BSEのプリオンに感染した人間のあるものは従来型のヤコブ病と区別がつかない臨床症状を起こす可能性を示す」と彼は言う。
BSE感染肉を食べて人間が何人発病するかという予測モデルは、人口あたりのvCJD発生数の観察に基づいている。しかし、もしBSEプリオンがsCJDも起こすとなれば、このモデルは人間の最終的な死亡者数を低く見積もっていることになる。これまで、vCJDによる死者数は英国で117名である。
堅調な増加
年間のsCJDによる死者数はvCJDによる死者数を上回っている。2001年の英国の死者数はsCJDが53名、vCJDが 20名である。 変異型ヤコブ病が最初に発見された1995年の死者数はvCJDが3名、sCJDが35名だった。
sCJDの登録数が確実に増加してきたのは検出精度があがったからだとされてきた。「我々が予想しているのは、増加の割合、絶対数ではなく割合の増加、がBSEによるものだということだ」とコリンジは言う。
スイスでは、1990年から2002年までに大陸ヨーロッパとしては最も多いBSEが発生しているが、この期間にsCJDも倍増している。しかし、実際どれだけのケースがBSE感染に由来するのか知るのは困難だ、とコリンジは言う。二つの病気は症状が同じで、BSE感染マウスで見られたsCJDの分子タイプは狂牛病が発見される前の人間のプリオン分子タイプとは区別がつかない。
これはプリオン病に感染した肉を食べてsCJDになった、という最初の研究ではない。2001年3月に、フランスのチームが、永年羊のプリオン病として知られてきたスクレーピーのある株が、マウスにsCJDと同じ脳の障害を起こす、という発見をしている。これは、人間のsCJDもケースによってはスクレーピーに感染した羊の肉を食べたことが原因だったかも知れないことを示唆している。
原論文は: The European Molecular Biology
Organization Journal (vol 21, p
6358)
28 November 02