BSEの新しい血液検査が希望を開く

――――― vCJDの検診が可能になるか ―――――

http://www.guardian.co.uk/print/0,3858,5272874-103527,00.html

 

デビッド・アダムス、科学記事担当

2005年8月29日(月)

ザ・ガーディアン

訳 小森冬彦

 

BSE(狂牛病)の原因である変異たん白質を検出する血液検査法を米国の科学者グループが開発したことで、近い将来BSEのヒト版であるvCJDの検診ができる望みが出てきた。

 

この画期的技術によって、輸血や臓器移植を受ける患者は感染から身を守れるようになり、医療専門家達は英国内でvCJDが今後どれだけまん延するのか予測できるようになるかもしれない。

 

全世界で約180名が変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)で亡くなっているが、この病気はBSEに汚染した牛肉を食べることと関係がある。vCJDは潜伏期間が最長40年にも及ぶので、死亡者は今後さらに増加するだろうと科学者達は警告している。

 

現在は血液でBSEやvCJDを探知する良い方法がなく、どちらの病気も死亡後でなければ診断が確定しない。

 

そんな中、米国テキサス大学医学部のクラウディオ・ソトー博士が率いる研究チームが、発症させた実験動物の血液から、病態の背後に潜む感染性プリオンたん白質を検出できると表明した。チームの研究者達は今、vCJDで亡くなった患者の異常プリオンたん白質の検出を目標として、英国人死亡患者の血液サンプルを用いて検査法の改良に取り組んでいる。

 

「今から6ヶ月もあれば、ヒト血中の異常プリオンたん白質を検出するように、この技術をヒト血液に適合させられるでしょう。次の課題は、臨床症状が現れる前の段階で血中の異常プリオンたん白質を確実に検出できるようにすることです」とソトー教授は話す。

 

見かけ上健康なヒトと動物の体内で進行しているvCJD やBSEなどのプリオン病を探知する検査法は、これまでなかなか見つからなかった。

 

検査法でいえば、臓器ドナーを選別したり汚染肉が食品の流通経路に入るのを防いだりするには、血液検査が最も簡単で望ましい手段である。しかし血液中の異常プリオンたん白質は非常に濃度が低いので、既存の技術による検出は不可能である。

 

ソトー教授のチームの取り組み方は独創的で、生化学のしくみを応用して海綿状脳症にかかった動物の血中異常プリオンたん白質の量を何百万倍も増やし、それによってうまく検出できるようにしたのである。

 

「血中にあらわれる感染性プリオンたん白質の濃度はあまりに低くて、脳内のプリオンを測る通常の手法では検出できないくらいです。しかし今では誰でも知っているように、そんなに少ない量でもこの病気を伝播させるには十分です。私たちの成功の鍵はこのたん白質の量を1,000万倍以上も増幅させる技術を開発したことです」と、ソトー教授は話す。こうした増幅には他のプリオン研究者達も挑戦してきたが、ソトー教授達の技術ほどうまくいってはいない。

 

ネイチャー・メディスン誌に記載されているとおり、研究チームはprotein misfolding cyclic amplification (PMCA)として知られる手法を用いて、異常プリオンたん白質に感染させて症状の現れた18匹のハムスターの血液を検査した。18検体中16検体から異常プリオンたん白質が検出されたが、12匹の健常ハムスターの血液からは全く検出されなかった。

 

この技術(科学捜査官が犯罪現場で見つかったDNA断片を増幅させるのに使う技術に似ている)には音波が利用されている。異常プリオンたん白質は正常なたん白質を異型の感染性たん白質へと変換させるが、この変換の過程を大幅に加速する目的で音波が利用されているのである。

 

ソトー教授達はヒトの検体について大規模な試験を実施できる会社に声をかけている。教授がこの手法をまず適用してみたいと思っている課題のひとつは、英仏の数千人規模の人々から採取した血液サンプルの検査である。その目的は両国で何人の人々が感染しているか評価することである。1980年代のBSEのまん延によって、ヨーロッパ中で数百万人が感染性のプリオンたん白質を口にしたであろうと、この分野の研究者達は考えている。

 

10年後あるいは20年後にどういう事態に直面するのか知りたいのです。感染しているのはいったい数千人規模なのか数万人規模なのか、それを調べましょう。どんな結果になるのか覚悟しなくてはなりませんがね」とソトー教授は話す。

 

そして教授はこう付け加えている。「病気のまん延が深刻な状況であると判明すれば、製薬会社もがぜん熱を入れて治療法の研究に取り組むようになるでしょう」。

 

このような大規模検診は匿名性を保って実施することになるかもしれない。大きな倫理的問題が突きつけられるだろう。vCJD、すなわち治療法のない病気に陽性であるという結果が出た場合、血液提供者にどこまで教えるべきかという問題である。

 

2003年12月に英国政府は、感染したドナーから輸血を受けた後にvCJDに罹患した最初の症例患者が死亡したと発表した。これはヒトからヒトへvCJDが血液を通じて伝播した世界初の症例だったと考えられている。この発表を受け、1980年1月以降に輸血を受けた人は輸血や献血を禁じられることになった。

 

ソトー教授によれば、この新しい検査法は各動物種の異常プリオンたん白質を区別できるので、羊がBSEに感染しているかどうかを試験するのにも使えるとのことである。

 

 

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