ブラジル大統領、GM作物許可に待った 揺れ動くGM作物政策

農業情報研究所(WAPIC)

04.9.28

 ブラジル・ルーラ大統領が27日、遺伝子組み換え(GM)作物の栽培と販売を許す行政暫定措置を開始するかどうかの決定の3、4日の延期を求めた。議会上院政府リーダーの意見を聴きたいという。

 昨年は、9月末、1年かぎりで許す暫定措置を10月に迫った播種期の直前に決めた。今年はGM作物栽培・販売に関する恒久法規(バイオセキュリティー法案)を策定、それに従った措置を決めるはずだったが、これは未だに成立していない。今月8日、憲法と上院の投票手続上の理由で採択を拒否され、政府は法案成立を断念、またも暫定措置で切り抜けようとしてきた。

 しかし、先週はこれに反対する大規模な運動が起きている。シルバ環境相も法案成立前の許可に反対、禁止を続けるパラナ州の知事との連帯を表明した。こうした状況に、大統領も容易な決定に踏み切れなかったものと思われる。最終的には暫定許可が出るかもしれなが、GM作物をめぐるブラジル政府の態度は、まだ当分は揺れ動き続けそうだ。

 

関連情報 ブラジル・パラナ州、GM大豆を2007年末まで禁止

農業情報研究所

03.10.20

 World Markets Analysisの10月15日の報道によると、連邦政府が今シーズンの遺伝子組み換え(GM)大豆の作付を許したブラジルのパラナ州政府が、2006年12月まで、GM大豆の栽培・輸入・販売を禁止する法律を通過させた。

 パラナ州はブラジル第二の大豆生産州であり、この決定は連邦政府との紛争を燃え上がらせることになりそうだという。

 

関連情報 ブラジルの遺伝子組み換え(GM)大豆承認

農業情報研究所(WAPIC)

highlight03.9.28

 内部における激しい論争の末、ブラジル政府は9月25日、GM大豆(除草剤・グリフォサート耐性のラウンドアップ・レディー大豆)の栽培を承認した。ルーラ・ダ・シルヴァ大統領が国連会合出席のために不在の間の大統領代理であるアレンカール副大統領が政令に署名した。

 10月に迫った播種に間に合わせるために、政令は暫定的なものとなり、今年末までしか適用されない。また、農民は、自然保護区近くや河川流域でのGM大豆栽培はできず、種子は州境を越えて運ぶこともできないし、環境や消費者の健康への悪影響には賠償金を払わねばならないなどの制約を課される。しかし、ロドリゲス農相は、一層包括的なバイテク法案を議会に送るという。政府は、GM作物の正式導入の立場をはっきりさせたと見ることができる。それは、環境や社会的弱者を犠牲にしても、当面、農産物輸出拡大による経済再建を急ぐ姿勢を鮮明にしたものともいえる。

 ブラジル政府は、1998年にモンサント社のこの大豆の導入を受け入れた。しかし、環境保護運動や小規模農民運動(土地無し農民運動)が強く抵抗、訴訟によってこの決定の無効化を勝ち取ってきた。今年初めに就任したルーラ・ダ・シルヴァ大統領は、労働者党代表として臨んだ選挙運動では、これら団体に同調する姿勢を見せていた。しかし、政権に就くと、南部のアルゼンチン国境に接する州では、密輸種子によるGM大豆が広範に違法栽培されているという現実に直面する。今年3月には、これらの違法栽培の収穫物の販売を許可せねばならなかった。以後、GM大豆の栽培を合法化すべきかどうかをめぐって、激しい論争が続けられてきた。農相は輸出拡大のために合法化を強く主張してきたが、環境相はためらい、モンサント社にブラジルの農学的環境の下でのGM大豆の影響の研究を要求してきた。裁判所は相矛盾する多くの決定を行なってきたし、中心的大豆生産州・パラナ州はGM大豆栽培を禁止している。論争の決着がどうつくのか、予断を許さない複雑な状況が続いてきた。

 しかし、大統領は、遂にそれを支える社会的基盤よりも、経済的利益を選んだ。労働者党出身大統領としての政治責任の追及をかわすためであろうか、決定は、大統領が国連会合出席中で代理を務める労働者党とは無関係の副大統領が下すことになった。ブラジルは米国に次ぐ世界第二の大豆生産・輸出国となっており、今や米国を抜いてトップに踊り出ようとしている。中国が大豆の大輸入国として登場した動きが、ブラジルの大豆産業に巨大な機会を与えている。大豆の大部分がGM大豆になっており、しかも補助金に支えられて安値輸出が可能になっている米国に遅れを取るわけにはいなかい。これが決定の背景であろう。

 GM大豆栽培が合法化されたといっても、実際にGM大豆の栽培が急増するとは限らない。中部・北部の新興大豆生産地域では、伝統生産地域ほどの農薬は無用であり、特許料を払い・高価な種子を購入してのGM大豆導入の経済的メリットは小さい。その上、EU・中国・日本などの大需要国の消費者はGM食品・飼料への警戒心を簡単には解かない。かえって市場を失う恐れもある。それにもかかわらず、この世界的大農業生産国のGM大豆正式承認は、世界の農業に大変革をもたらす可能性がある。今までのところ、GM作物を大規模に導入した農業大国は、米国・カナダ・アルゼンチン・中国に限られる。しかも、中国ではワタに限られ、食用作物でのGM品種導入はためらっている。昨年GM作物導入に踏み切ったインドも同様である。オーストラリアもワタがほとんどである。ブラジルのGM作物承認は、これらの国の競争力への懸念を高め、GM作物導入に拍車をかけるかもしれない。食品安全性・環境破壊への懸念からGM作物導入をためらってきた多くの途上国も誘惑に駆られるであろう。GM作物をめぐるバイテク企業・米国政府と反対者の攻防は、今、最大の転機を迎えている。

 この転機を作り出したのが、経済自由化=構造改革と社会的安定のバランスを強調して登場したブラジル労働者党政権であるのはなんとも皮肉で、悲しむべきことだ。経済自由化一色の世界の潮流に歯止めをかけることを期待された政権も、いまやこの波に完全に飲み込まれてしまった。カンクンWTO閣僚会合で米国・EUに対抗する途上国G20(現在はエジプトとケニヤが加わり、G22)の一リーダーとして登場したブラジルの立場は、競争力・輸出を最優先し、社会的・経済的弱者を切り捨て、環境を軽視する米国の立場とどう違うのだろうか。ただ、今回の決定が大統領とその支持基盤の決定的亀裂を生む可能性は高い。 

 環境団体は、今回の決定の差し止めを求め、裁判所に提訴するという。彼らは、2000年の判決はGM作物の環境影響評価を要求しているが、そのような研究は未だ行われていないという。ブラジルの多様な生態系へのGM作物の影響は、米国での影響とは異なることを恐れる。議会が法案を採択するかどうかも予断できない。環境問題以上に、GM作物導入の経済効果が問題とされる可能性もある。

関連情報・ニュース
 ブラジル、GM作物合法化か、農業情報研究所、09.9.25
 Brazil set to remove block on GM soya,FT.com-World,9.26
 Brazil agrees to grow GM crops,Guardian,9.26
 In Reversal,Brazil Will Permit a Gene-Modified Crops,The New York Times,9.27
 Aprés de longs Atermoiements,le Brésil autorise la culture de soja transgénetique, Le      Monde,9.27

 

 

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