暴走する産学協同 

 

Nature(2001年1月11日、409巻、6817号)

訳 山田勝巳

 

 

産業と学会のつながりは、学者や一般社会にとって気がかりなものになってきている。大学の公共性を維持するためにこの関係を見直すべきだ。

産業界から大学への契約、寄付、後援、そして教授達の起業と産学の結びつきは、政府の奨めもあって近年富に盛んになってきている。特にアメリカではバイテク企業の1/3がカリフォルニア大学の教授達によって起こされている。

大学にとっての利点は、企業の研究施設やデータベースが使えたり、研究の費用負担をしてもらえ、学者にとっては民間の専門家としての道が開けるし、長期的には経験が積め、人脈が出来る。 学者にとってのこれら利点にも不都合な面が次第に明らかになってきている。

科学論文がそれだ。 最近のバイオ医学誌には、企業がスポンサーについた研究者の実験結果は企業の商品に有利な内容に偏っていると指摘されている。

利害を明確にせずに発表された研究内容は、信頼が置けなくなってきている。また企業が研究の自由を妨げたり、企業の影響力を固定化しようとするなどの問題もある。

例えばある有名大学に多国籍化学企業が申し出た契約では、企業が大学の全てのデータベースを所有するとなっていて、大学側は企業がこの点を全く譲らないので契約を断念した。

カリフォルニア大学バークレー校とNovartisの契約は特に問題が多く、Novartisが毎年5百万ドル拠出する見返りに大学と学部の研究委員会に席を持ち契約内容に文句が言えないようにしている。学生や研究者の中には公共性を失い、バークレーの名を汚すと反対する者もいる。

 

反企業vs反自由    

反対しているのはバークレーばかりではない。欧州委員会が企画した「遺伝子工学と社会」の会議で若き研究者は、民間資金への依存が増えていることを嘆き、あるグループが薬品会社とつながる別のグループを攻撃した。

この攻撃はポスト・シアトル運動として知られる一般人が積極的に不安を表現する活動で、多国籍企業が大学などの公共部門であまりにも無責任な影響力を及ぼすことに怒っている。

Novartisとバークレーの取引は、GM作物という現在最も議論のある技術分野で、独立した偏りの無い見解を出すのを妨げ、この技術の本来の目的も信頼性も損なう典型的なものだ。

前例のない契約だが、他の大学はそれが孕む問題に気付いている。 バークレー校長のローバート・バーダール、はNovartisとの取引を支持するものの、個人的には大学の企業支配に懸念を示している。

彼は、最近のスピーチでこう言っている。

「米国の大学を取り巻く環境を変える2つの圧力がある。一つは公的資金が減ってきていること、もう一つは、大学に対し学問の自由を奪い右翼的な課題を押しつけようとする組織的、合法的なキャンペーンが成功していることで、これが産学協同を動機付けている。給与の差、市場の圧力で学内に分裂が起きている。技術に伴う倫理的、社会的問題を解決しなければならないのに、これでは人間性の下落だ。視野が狭くなるし学問の使命が失われてしまう。」

 新年の誓いでは、大学と公的資金による研究の信頼性を維持するためにどんな決意が必要だろうか。

 

警戒そして公言する能力と決意:反企業と反自由で板挟みの学者達は自主のために立ち上がらなければならない。また大学規約と管理層はこれを支持する。

契約の透明性:学生や博士課程修了者が公金を使って発見したものが不当に商業目的の企業に流れているため、発表時期を逸したり、民間に取られたりする。 教授や学生の企業との関わりを公にし、制限を設ける。

利害の透明性:最近のバイオ医学誌が行った調査が、アメリカの大学の財政公開規則(大学毎にかなり違いがある)が公表されている。 

国家レベルで問題を話し合い、危険性を明確にする:科学、工学、公共政策についての全米国立大学委員会がタイミング良く間もなく産学協同についての審問を行う。

産業は一般の信頼を維持するために協力する:大学の知見を略奪とも言えるやり方で奪う企業もある。短期的に利益をもたらすこともあるが、研究に対する不信は、消費者と規制に大きな影響を及ぼす。州政府と国は産学協同を奨めているが、動きを監視する必要がある。そして大学の社会的意義と責任をしっかり踏まえて財政支援をしなければならない。

 

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