バイテク作物の交雑を狙い撃ち
2003年5月5日
ランドルフ・E・シュミット(AP)
ワシントン発
訳 河田昌東
遺伝子組換え植物は近隣周辺に遺伝子を拡散させる懸念があり、研究者らがそうした交雑を避ける目的のシステムを開発した。彼らはこれをさらに改良すれば非組換え作物への影響を心配せずに農家が毎年採種できるようになるだろうと期待している。バイテク作物はアメリカ農業の相当な割合になっている。農務省は今年コーンの38%、大豆の80%がバイテク品種だと推定している。
アメリカの消費者は一般にバイテク食品を受け入れているが、ヨーロッパ人は安全性を疑っている。アメリカのバイテク作物の輸入に関するEUのモラトリアムは4年間続き、アメリカにコーン輸出で年間300万ドルの損害を与えている。この禁止はまたバイテク作物の野外における近縁種への交配に対する懸念をもたらし、輸出に向かないと見られている。
交雑を阻止するという新しいシステムはオタワにあるカナダ穀物ナタネ研究センターのヨハン・P・シェルンサナーに率いられた研究者チームが開発したもので、プロシーデイングズ・オブ・ナショアンルアカデミー・オブ・サイエンス誌(訳注:全米科学アカデミー機関誌)のオンライン版で発表された。このシステムはタバコを使って開発されたが、ほとんどの作物に応用できるだろう、とシェルンサナーは言った。「もっとも、関連する遺伝子の適性はケースバイケースで評価する必要はあるが」という。
彼によれば、この発見は組換え遺伝子の封じ込めが農業現場で可能になり、環境への懸念も単純な方法で解決できることを示した。
公益科学センターでバイオテクノロジー担当のダグ・グリアン・シェルマンは「我々の見たところ、これには賛否両論あるが、遺伝子移動の阻止手段の一つとして試してみるべきテクノロジーではある」という。「大きな問題はそれがどのように応用されるかだ」と彼は言った。ケンタッキー大学農学教授のT・ウエイン・ファイファーは「このシステムはある程度働くだろうが、種子生産システムでは実用的でない。この論文では種子の100%が次世代以降もこのシステムを維持できるかどうか説明がない。だから、これが全ての作物で組換え遺伝子の拡散を防止する魔法のシステムだとは思わない」と言う。
このカナダの研究では、チームはまず最初に植物を正常に成長させ、種子はつけるがその種子の発芽を抑制する「種子致死遺伝子」を導入する。それから、この植物を種子致死遺伝子を抑制する別の遺伝子を持たせた別個体と交配させる。その子どもは自家受粉で無限に伝播できる繁殖可能な種子をつける。しかし、この植物が通常の(非組換え)タバコと交配すると、その種子致死遺伝子と抑制遺伝子は分離し、出来た種子は発芽できない。
このシステムは実験室で証明されたのだが、シェルンサナーと共同研究者の一人、スチーブン・ファビジャンスキーは、野外で実際に使うにはさらに改良と十分な試験の必要がある、といった。「特に、種子致死遺伝子の抑制は厳格にしなければならない」と彼らは言う。加えて、抑制遺伝子が確実に含まれている必要がある、と彼らは言った。
原論文は:Proceedings of the
National Academy of Sciences: http://www.pnas.org
Agriculture and Agri-Food Canada:
http://www.agr.ca