薬用トウモロコシの恐怖がコロラドで広がる

 

デンバー・ポスト

03年9月28日

ダイアン・カーマン

訳 河田昌東

 

「もしこれが全く安全なら、この会社はなぜ3000マイルも離れたところにこのコーンを栽培したのか?それは危険な廃棄物のようなものだからだ。規制がゆるいところに持っていき、そこで棄てるつもりなんだろう」とステンシルは言った。

 

 フィリップス郡ではもう紅葉が始まっているが、来年の春が曲がり角になると、農家はだれも知らない。来春、東部草原地帯の農家は苦い思いをすることになるだろう。コロラド北東部のどこか秘密の場所で妙な農家が人間も動物も食べてはいけないし、他の作物と混ざってもいけない、また他のコーンを花粉で汚染しないように周辺に1マイルの緩衝帯を作らなければならないようなコーンを栽培する予定だからだ。

 この薬用コーンは遺伝子組み換えで脂肪を消化するリパーゼという酵素を造るようにしたものだ。この酵素は嚢胞性繊維症その他の病気の治療に使われる。フランスのメリステム・セラピューテイクス社が合衆国農務省の認可を取り、これを栽培する契約をコロラドの農家と結んだのだ。

 バイオファーミング(薬用農業)はこれまで動物から抽出されたり、実験室で製造されたりしてきたリパーゼのような物質を安上がりに生産する手段である。しかし、許可が出たとはいっても矛盾がなくなったわけではない。産業界はこの動きを支持するが、農民や環境保護論者はこの薬用コーン農場に抗議しようとしている。「未解決の問題がまだたくさんある」と言うのはロッキー・マウンテン農民連合の代表、ジョン・ステンシルだ。ステンシルは先週フランスのクレモント・フェラルドのメリステム社の実験室に行き、帰って来たばかりだ。コロラドのコーン生産者協会は、ステンシルと3名の州当局者、その他を6日間フランスに派遣する費用を出した。このグループは科学者と議論し、研究データを見、メリステム社の農場を訪問した。

州政府代表のレイ・ローズが言うには「自分はフランスに行く前は状況に懐疑的だったが、この旅行で気持ちは変わった。我々は安全に薬用農産物を生産できると思う。りんごやぶどう、その他の作物がちゃんとその周囲に植わっていたし、なんら影響はなかった。外部では不安が大きいようだが、なんら科学的根拠に基づくものではない。単なる情緒的なものだ」。 

シエラ・クラブの遺伝子組み換え委員会のリーダーで毒物学者のスザンヌ・ベルセールはこうした意見には反対だ。彼女は、これが農民や消費者、そして環境に大きなリスクを与える、という。そして、彼女はコロラドでの認可を批判した。「認可は秘密裏に運ばれ、しかも非常に知識不足のままだった。農務省はバイテク業界から都合のいい人を選び、申請と批判的な情報をレビューした。彼らは企業秘密が市民の知る権利より優先すると決定した」と彼女は言う。ベルセールは薬用に使われる雄性不稔コーンは、10%程度は受精能力のある花粉を作り、容易に近隣のコーン畑に風で花粉が運ばれる、といった。さらに、その薬用コーンを食べる野生生物や人間に与える影響は未知である。メリステム社でさえ、分別の必要性を強調している。収穫時にリパーゼを含む粉塵を吸い込んだ農民に対するリスクは非常に大きい、とベルセールは言う。「リパーゼのような酵素で肺胞はやられる。食用作物で医薬品を作るというようなアイデアは実に全く悪い考えだ。食糧供給への混入のチャンスは大きい。ひとたび混入が起これば、我々の輸出市場は破壊されてしまう」とベルセールは言った。

ステンシルも食糧市場への影響を同様に心配している。「我々の輸出は6年前からみれば30〜40%落ちている。主な原因は多くの海外市場で遺伝子組み換え食品を拒否しているからだ。州内の1ダースか2ダースの農家が利益のあがる薬用作物で豊かになるかもしれないが、他の数千の農家は被害をこうむるだろう」と彼は言った。しかし、メリステム社は既に事業をはじめているので、ステンシルと他の農家は、2002年にアイオワやネブラスカで起こった薬用作物の混入事件のような作物汚染が起きたときの責任の問題を取り上げようとしている。 薬用作物による汚染で他の作物も破壊されてしまうトリプル被害にこだわる農民もいる。それは金欲しさのためではない、とステンシルは言った。「もしそうなれば同じ土壌に1~2年は作物を植えられなくなる。誰がその損害を補償するんだ? 会社か? 農民か? 我々にはその答えが必要なんだ」。

 ローズは、薬用作物による被害を減らす代案がある、と言う。また、安い医薬品生産によるメリットは危険性を上回る、とも言った。しかし、もしそうなら、誰かが食品産業にそのことを話す必要がある。薬用農業に対し最も声高に疑問を表明しているのは巨大食品産業のフリオ・レイ社、キャンベル・スープ社、クラフト・フーズ社などだからだ。2000年に遺伝子組み換えコーン、スターリンクがタコスの皮その他に紛れ込んだとき、これらの企業は製品回収や裁判、販売不振などで10億ドル以上を失った。「もし、薬用農産物が全く安全なら、何故この会社は自社から3000マイルも離れたところに栽培しているんだ?危険な廃棄物のようなものなんだ。規制がゆるいところでやって、そこに棄てるつもりなんだろう」とステンシルは言った。

 

 

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