バイオ医薬 更なる無謀な組み換え
カーメロ・ルイス
ZNET BIOTECHNOLOGY
http://zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=7&ItemID=5102
2004年3月7日
訳 山田勝巳
食品や遺伝子組換え作物に対し世界的に非難が巻き起こっている最中に、それを作っている企業は新たな組み換え品種を陳列し始めている。
バイオ医薬として知られる新しいGM作物は、工業用や医薬用の化学物質を植物体内で作る。大豆、米、コーン、タバコなどの作物は、成長ホルモン、凝固剤、人や動物のワクチン、人の抗体、工業用酵素、避妊薬、妊娠抑制剤などの物質を生成する。
研究者と企業はバイオ医薬にほくそえんでいる。「世界中で必要なグロブリン(関節炎治療薬)が50エーカーで作れるんですよ。健康な人が関節炎や乳癌を予防する蛋白質が見つかりそれも米やタバコなどで大量に作れるんですよ。」とウィリアム・O・ロバートソン博士は書いている。
この分野のトップを行くプロディジーン社は、この10年の終わりにはアメリカで栽培するコーンの10%はバイオ医薬になるだろうと目論んでいる。バイオ医薬と化学物質は総量で2000億ドル規模になるとダウ・アグロサイエンス社のガイカーディナウ研究員はいう。
警告
だが、懸念する研究者や環境学者もいる。生物版チェルノブイリを防ぐ為に、このような作物、実、種子を隔離し分離できるのか、なんらかの原因でスーパーに並ぶことが無いと保証できるのか、花粉を他の作物にかからないようにできるのか。「バイテク企業がたった一つの過失で、他の人の処方薬を朝食のシリアルで食べる事になる。」と地球の友の国際生態機構広報のラリー・ボーエンはいう。
「薬か何かの組み換え植物の花粉が近くの食用作物を受精させたらどうなるか。工業用や医薬用の化学物質を生成するように組み換えられた作物は、有益な土壌微生物や昆虫にどういう影響を与えるか。動物がバイオ医薬作物を食べたらどうなるのか。バイオ医薬蛋白質は成育過程や収穫後、保管時に変化しないのか。アレルギー反応を起こさないのか。」と2000年にETCグループが出した報告書で疑問が呈されている。
社会生態学研究所の生物学者ブライアン・トーカー教授によると、最も深刻な問題は交雑、そして昆虫、土壌微生物、自然界の生物への影響が不明な事だという。
ネブラスカでの小さな事件
このような作物が既に問題を起こしている。2002年11月、ネブラスカのオーロラ農協で50万ブッシェルの大豆がバイオ医薬コーンで汚染された。組合員の一人がプロディジーンのコーンを前年に実験栽培し、次の年に同じ圃場で食用の大豆を栽培した。定期検査で、農業省の連邦職員が大豆畑にプロディジーンのコーンが生えているのを発見した。発見したときには既にその圃場の大豆は、他の組合員の大豆と一緒に混ぜて保管されていた。幸運にも当局は混入した穀物をスーパーへ出荷する直前に分離する事ができた。
この会社は、過失に対して50万ドルの罰金を課された。これほどの災害まがいの事が起きたにもかかわらず、政府はこの会社にバイオ医薬研究の継続を許しているし、ネブラスカで分離された混入ロットの詳しい内容を企業秘密として出さなくても良いとしている。農業貿易政策研究所の所長マーク・リッチーは、この事件を70年代に原子炉事故を模してバイテクの‘スリーマイル島’と呼んでいる。
プロディジーンスキャンダルの後、それまで組み換え研究を支持してきた企業二社が自分達の立場を見直し始めた。スーパーの流通団体である食料品製造組合は、バイオ医薬品が食糧を汚染する事になる可能性を懸念している。ナショナル食品加工組合も同じ懸念を持っている。ジョン・ケイディ会長は、バイオ医薬で食品が汚染されないように厳しい義務規制を求めている。
他ではそんなに心配していない。バイテク企業を代表するバイテク業界団体と大規模農業のための《米》農業会連合は、バイオ医薬規制を緩くする為にワシントンで連邦政府に対しロビー活動を行っている。
生物学的汚染
人の消費用ではない組み換え産物は、既に食糧チェーンを汚染している。2000年の終わりにアメリカの環境と消費者運動団体は、何百ものスーパーに並んだアメリカの食料品にFDAが食用に不適と認めた組み換えコーンのスターリンクによって汚染されている事を発見した。スターリンクは、アメリカコーン栽培面積のわずか0.04%だったにもかかわらず、また家畜飼料用だったにもかかわらず、4億3000万ブッシェルを汚染し、今なおアメリカの輸出物から検出され続けている。
「アメリカコーンの最も大切な消費国である日本と韓国でスターリンクが検出されたという事は、どこででも見つかるという事だ。アメリカとアベンティス(スターリンクの製造者)が汚染を無くすまでは、全ての国はコーンの輸入を許すべきではない。」と地球の友組み換え対策アジアのミーナ・ラーマンはコメントした。
もっと深刻な遺伝子汚染がメキシコで起こっており、ここでは2001年からGMコーンの存在が記録されている。メキシコ政府が1998年以来組み換え作物を禁止しているにもかかわらず、辺境の農村集落では、組み換えの危険性を知らない小作農民や原住民によって植えられ急速に拡散している。メキシコはコーンの多様性の軸となっているため、この汚染は環境運動家、科学者、農民の大きな不安となっていて、環境や人の健康への長期的影響を不安なものにしている。
メキシコでは、バイオ医薬コーンが導入される可能性があるため国民が苦悩している。ETCのシルビア・リベイロは、カリフォルニアに本拠のあるエピサイト社が避妊用の殺精子コーンを開発した事を派手に宣伝しているのに対し非常に憤慨している。リベイロはラ・ジャーナダに対し「殺精子コーンは、他の品種と簡単に交雑し、発見され難いし原住民や農業文化のど真ん中に居座る事もあるもので、生物兵器ともいえるものでとんでもない事だ。」と述べた。これまで繰り返し不妊化の宣伝が原住民の村落で行われてきた。この方法は、はるかに追跡する事が難しい。
私たちは世界を網羅しています。
バイオ医薬はどこで栽培されているのか。世界中だ。molecularfarming.comのホームページでは、投資家達が世界中の農民にバイオ医薬品の実験栽培に土地を貸すように協力を呼びかけている。契約が成立した国には、ブラジル、アイルランド、オーストラリア、ギリシャ、ジンバブエ、パナマ、その他多くの国がある。このMolecular Farmingのウェブページで言っていることを最初に非難したのは活動家べス・バローズだった。彼女はバイオ倫理とバイオセキュリティ問題を研究する非営利のエドモズ研究所の代表である。インドに住む農業と栄養分野の専門家で賞も受けているジャーナリスト、デビンダ・シャーマは、このウェブページについて「これは第三世界への卑劣な産業を移転する計画のひとつだ。」と述べている。「まずきたのは、アフリカや東南アジアなどの途上国への有毒な産業廃棄物の輸出だった。こんどは、バイオ医薬だ。アメリカ国内では、この作物は大問題である。だからどうするか。汚い技術の移転です。」
心配しないで楽しくやれよ!
それでも、バイオ医薬推進側はそれが全く安全だと主張している。ワシントン州立大学の環境毒物学者アラン・S・フェルソットは、植物を医薬品や化学物質の生産に使うのは、「植物を医療用に昔から使ってきた事を考えると、真新しい事でもなんでもない。」という。
フェルソットは、組み換え植物の組織で人の蛋白質を増殖させるのは異常なことではないと強弁する。「問題の蛋白質は、人の体のものと同じだ。殆どは、細胞醗酵(cellular fermentation)を通して薬として使われる。殆どが一過性の薬として使われる。どれも特性は良く分かっているし、人体を使った臨床試験も十分に行われてきた。」 ロバートソン医師は、「可能性は想像を絶する。その未来の全体像を把握する事は不可能だし、リスクもこれまで医学が直面してきたリスクと比較すると微々たるものだ。」と付け加えた。
この先何が起こるのか。
「何百万人もの人が実験薬や化学物質を食べてしまったかもしれないという事実を、どうしたら農務省が真剣に受け止めるのか。」とプロディジーンのスキャンダルについて責任ある遺伝学委員会のブランドン・キームは問う。「何人かがスキャンダラスな死に方をすればよいのか。多分何十年もたってから分かってくる身体障害の増加でしょう。そのときには遅すぎるんです。」
バイオ医薬は、実験段階であり、それを生産している企業は連邦当局が最終的に市場に出す許可を今か今かと待っている。
参考:
Philip
Cohen, "薬が食品に入り込む." New Scientist, July 6,2002 (http://www.organicconsumers.org/gefood/pharmaceuticals0702.cfm).
Council for Responsible Genetics.
Official Statement on Biopharmaceutical Crops
(http://www.gene-watch.org/programs/biosafety/biopharming-statement.html).
Environment News Service. Secret U.S.
Biopharms Growing Experimental Drugs
(ens-news.com/ens/jul2002/2002-07-16-05.asp).
Genetically Engineered Food Alert (http://www.gefoodalert.org).
Genetically Engineered Food Alert. New
Alarming Report on Hazards of
Biopharming
(http://www.OrganicConsumers.org/gefood/Biopharming0702.cfm).
Brandon Keim, "Biopharm
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(http://www.alternet.org/story.html?StoryID=14647).
John Nichols, "The Three Mile Island
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(http://www.mindfully.org/GE/GE4/Biotech-Three-Mile-Island30dec02.htm).
Prodigene (http://www.prodigene.com).
Silvia Ribeiro, "Maiz contra
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(http://www.jornada.unam.mx/2002/ene02/020126/039a1soc.php?origen=opinion.html).
Silvia Ribeiro, "Granjas secretas y
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transgenicas", La Jornada. August
11, 2002
(http://www.jornada.unam.mx/2002/ago02/020811/016a1pol.php?origen=opinion.html).
Carmelo Ruiz Marrero, Experimentos
Geneticos en Puerto Rico
(http://www.biodiversidadla.org/article/view/217).
Brian Tokar, Riesgos biologicos: La
proxima generacion? Cultivos de plantas manipuladas
geneticamente
para fabricar proteinas industriales y farmaceuticas (http://www.biodiversidadla.org/article/view/981).
Mike Toner, "GE Pharming Generating
Controversy",
Atlanta Journal and Constitution, 19 de
mayo de 2002
(http://www.organicconsumers.org/patent/futurestuff052002.cfm).