米チーム、B型肝炎ワクチン生産GMポテト開発成功、だが食品としての開発は断念
05.2.16
B型肝炎ウィルスは肝臓を攻撃、世界中で毎年50万人の命を奪っている。しかし、予防のためのワクチンは冷温貯蔵が必要で、気温の高い多くの途上国の辺鄙な地域ではこれは難しい。かといって、貯蔵所から配送するのも途中で熱に曝され、貧しい国にとっては非常に高価で入手も大変なワクチンが効き目を失い、無駄になりかねない。途上国の多くの人々はワクチンの恩恵に浴することができないでいる。
こうした人々を救おうと、冷凍も注射も無用、食べるだけ同じ効果のあるワクチン内蔵ポテトの開発を進めてきたアリゾナ州立大学のチャールズ・アーンツェンを中心とする研究チームが、人間を対象とする試験で、B型肝炎ウィルスの遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換え(GM)ポテトによる免疫増進が確認されたと発表した[i]。これが見られたのは以前にワクチン接種を受けた人だけだったことから、既存の免疫を増進するだけで、通常のワクチンにとって替わることはできないだろうが、免疫維持のためにワクチン接種を繰り返す必要はなくなるという。
「ネイチャー・ニュース」によると[ii]、ロンドンのセント・ジョージ病院医学スクールの免疫学者・ジュリアン・マは、「これは世界の保健に大きな影響を与える可能性がある」と言っている。食べることのできるワクチンは、注射器の必要を減らし、長い期間にわたって注射を繰り返す必要もなくなる。しかし、生のポテトは食欲をそそるものではないし、ワクチン含有量も安定しない。このために、研究チームは、GMトマトを作り、これを錠剤に加工することに注力する。非加工品でこれ以上の人体を実験をするつもりはないと言う。
他方、「ニューサイエンティスト・ニュース」によると[iii]、研究者たちは、バナナ、トマト、ポテトのような主要食料作物に含まれるワクチンの開発は断念、食品として販売されることのない安全に食べられる植物の葉でワクチンを作らせ、乾燥して粉に挽き、通常の経口薬のようにカプセルの形で利用することを目指す。ワクチンを含む食品が店や市場に出る可能性を回避するためだ。もしそんなことになれば、消費者が知らずに食べ、予見できない結果につながる恐れがあると言う。
わが国では、農水省が花粉症緩和米の2007年実用化を計画、血圧や血糖値の適正化に効果がある遺伝子組み換えのコメも開発中と聞く。厚生労働省は、これを食品としては認めず、薬品として扱うことを主張しているが、農水省はあくまで食品としての開発を目指しているようだ。欧米研究者に比べても、安全性への配慮がひどく足りないようだ。それが日本人の遺伝子組み換えへの世界に冠たる不信を招いていることに気がつかないのだろうか。BSE以来の食品安全最優先の約束はどこへ行ってしまったのだろうか。
[i]Thanavala
Y., et al. Proceedings of the National Academy
of Sciences (doi: 10.1073/pnas.0409899102 2005).
[ii]Potatoes pack
a punch against hepatitis B,News@nature,2.14
[iii]Potato-based vaccine
success comes too late,NewScientist.com,2.14