農相、米国のBSE飼料規制評価は諮問しないと明言 「牛肉は安全」の答申は出るのか

農業情報研究所(WAPIC)

05.4.20

 19日の衆院農水委員会で島村農相が、米国産牛肉の輸入条件に関する食品安全委員会への諮問事項に米国の飼料規制を含めないと明言した。民主党の山田正彦議員の質問に答えたものだ。会議の速記録(未定稿)によると、「アメリカの飼料規制についての安全か否かに対する評価の要素としては、それを食品安全委員会に求めないということなのか。イエスかノーかで答えていただきたい」という質問に、「これもお答えしたことでございますが、諮問事項とはいたしません」と明言している。

 そうだとすれば、食品安全委員会は、米国のBSEリスク評価(BSEがあるのかないのか、あるとすればどれほどあるのか)と無関係に、牛肉一般が安全かどうかという問題に答えることになる。反芻動物蛋白質を反芻動物に与えないという飼料規制が有効に実施されているかどうかは国・地域のBSEリスクの基本的要素をなし、それを検証しないということは、米国のBSEリスクの評価をしないということだからだ。

 現在の国際獣疫事務局(OIE)の基準では、BSEリスクと無関係に取引できるのは、a)乳と乳製品、b)精液及び国際受精卵移植学会の勧告に従って採取され・扱われた牛の生体内受精卵、c)獣皮及び皮革、d)専ら獣皮及び皮革から調整されたゼラチンとコラーゲン、e)蛋白質を含まない獣脂(重量で0.15%の非溶解不純物の最大限レベル)及びこの獣脂から作られる派生品、f)燐酸ダイカルジウム(蛋白質及び脂肪が検出されない)とこれらから製造される全製品、その他の牛由来のいかなる組織も含まない製品であるから(OIE:BSEコード改正案、BSEリスク評価基準から飼料規制の有効な執行を削除05.3.30)、もし食品安全委員会が米国のBSEリスクと無関係に牛肉は安全という答申をすれば、現在の国際基準に反することになる。あるいは、このような品目に「骨なし牛肉」を加えるという5月末のOIE総会で議論されるOIE基準改正案(の一部)を認めることになる。

 この問題をめぐる専門家の見解は割れており、筋肉に感染性は発見されていないから牛肉にリスクがあるとする証拠はないという意見と、感染性は確認されていないがこれはごく少数の実験に基づくもので、今後研究が進めば感染性が発見されるかもしれない、現に日本の感染牛の末梢神経に異常プリオン蛋白質が検出されており、この可能性は否定できないという見解が対立することになる。結局は、プリオン専門調査会の多数決での決定になるかもしれない。

 もし後者の見解が勝てば、現実的リスクは感染牛がいるのかいないのか、いるとすればどれほどいるのか(地理的BSEリスク評価)を評価することなしには決定できない(また、どのような輸入条件を課せばリスクを軽減できるのかも評価できない)。しかし、このような評価は封じ込められるのだから、ただ無条件にリスクは否定できないとするほかない。あるいは、米国または北米には相当数のBSEが存在する可能性が高いとする国際的にも十分に通用するEU(米国の地理的BSEリスクの評価に関する作業グループ報告(欧州食品安全庁),04.9.4)や国際専門家チーム(米国BSE措置に関する国際専門家調査報告発表―肉骨粉全面禁止等を勧告,04.2.5)による米国のBSEリスク評価を援用、現実的リスクが存在すると結論できるかもしれない。どのみち、農相が望むような結論になるとはかぎらない。

 前者が勝てば、さし当たり「骨なし肉」の輸入再開にはゴーサインが出ることになろうが、これを日本で輸入再開要求が強い舌や腸にまで拡張するわけにはとてもいかないだろう。それでは、OIEの改正基準も超えてしまう。米国のBSEリスクを独自に評価、それが微小となればこれらの輸入も可能になるかもしれないが、この道も閉ざされることになる。自業自得ということか。

 ただ、前者が勝つことになれば、食品安全委員会への消費者の信頼は地に落ちるだろう。18日の意見交換会でも、すべての消費者団体がOIE基準の改正に反対していた(OIE/BSEルール改正に関する意見交換会 消費者団体が深い疑念,05.4.19)。農水省や厚労省がOIE基準改正賛成に回れば、食品安全行政への不信も決定的になるだろう。

 それでも米国産牛肉の早期輸入再開は、既に日米政府間の合意事項となっている。政府は食品安全委員会の意見に従う義務もない。日本政府は、政治的リスクを覚悟して、早期輸入再開に突っ走るしかないだろう。消費者も米国産牛肉ボイコットの覚悟を決めるときがきたのかもしれない。

 

 

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