米国議会検査院 FDAのフィードバン管理は不適切 BSE拡散のリスクに警告

農業情報研究所(WAPIC)

05.3.16

 米国議会検査院(GAO)が14日、BSE拡散を防ぐためのフィードバンの食品医薬局(FDA)による管理は2002年以来改善されたがなお弱点があり、規制の有効性に限界があるとする報告書を発表した(Mad Cow Disease: FDA's Management of the Feed Ban Has Improved, but Oversight Weaknesses Continue to Limit February 25, 2005,http://www.gao.gov/new.items/d05101.pdfHighlight)。米国農務省(USDA)は、大部分の哺乳動物蛋白質を反芻動物(牛・羊・山羊)に与えることを禁じた87年8月以来のフィードバンは有効に機能しており、米国のBSEリスクは最小と主張してきた。これに基づき、日本が米国産牛肉の輸入禁止を続けるのは「非科学的」と、早期の輸入再開を迫っている。しかし、この主張は、政府の公式のお目付け役に完全に否定されたことになる。輸入条件に有効なフィードバンの実施を含めないという日本政府の姿勢も改めて問われよう(農水局長、飼料規制は輸入再開条件ではない、が、最終的に決めるのは食品安全委,05.3.12)。

 目下、牛から人間への感染を防ぐ確かな手段は存在しない。検査に限界があるかぎり、感染牛が見逃されて人間の利用に供される恐れがある。特定危険部位(SRM)の除去にも技術上・実際上の限界があるだけでなく、SRMに関する研究が初歩的段階あることを考えれば、研究の進展とともに現在SRMとされている部位以外にも感染性が発見されるかもしれない。最近の研究は、炎症のあるSRM以外の臓器に異常プリオン蛋白質の蓄積を発見している。それでも、感染牛の数が微小ならば、検査やSRMの除去によって人間の感染リスクは微小と判断することもできよう。しかし、感染牛の数が増えれば増えるほど、これらの限界からくるリスクは高まる。だからこそ、有効なフィードバンによって牛の感染を最小限に抑えることが肝要になるのである。

 ところが、GAOは、フィードバン管理の多数の弱点を指摘した2002年のその報告以来、FDAのフィードバン管理と監視は改善はされたもののの、なお弱点は継続しており、「米国の牛をBSE拡散のリスクに曝している」という。フィードバンにもかかわらず、ごく僅かな量でも牛を発病に導く脳などのSRMを含む豚・鶏飼料、ペットフードが流通しているのだから、これはGAOが、USDAやFDAと異なり、多くの専門家やEUの米国BSEリスク評価の指摘する交差汚染(これら飼料・飼料成分が偶然にか、故意にか牛の飼料に混じること)のリスクの重大性を十分に認識していることを意味する。GAOは、「研究は小量の感染物質でも牛がBSEになることを示しているにもかかわらず、検査官は、牛飼料を運搬する車の洗浄手続を日常的に検分することを怠っている」と指摘している(この点は日本でもどうなのか。あるときに肉骨粉を運んだ車が次には牛飼料を運ぶということがあるとすれば、その洗浄は「日常的に検分」されているのだろうかといった問題)。

 報告は、2002年以後のFDAのフィードバン管理・監視状況を調査したものである。なお残る弱点として指摘するのは次の諸点である。

 ・今までに検査されたのは約1万4800の企業だが、それ以上のフィードバンに服すべき飼料製造業者、輸送業者、農場での飼料混合者、その他の飼料産業ビジネスが存在する。これはFDA自身も認めているが、追加企業を確認するための統一的アプローチは存在しない。

 ・FDAは、検査した1万4800の企業中の約2800(約19%)を5年以上にわたり再検査しておらず、数百の事業者に高いリスクがあり得る。FDAは、これら事業者が現在も禁止物質を利用しているかどうかつかんでいない。

 ・遵守状況検査の一環として禁止物質が含まれるかどうかを検査をするべきだが、FDAのフィードバン検査指針はこのための日常的牛飼料サンプル採取を指示していない。その代わりに、検査官に目視による施設・設備の調査とインボイスその他の記録文書の検閲を指示している。

 ・国内向けに販売される飼料には「牛その他の反芻動物に与えてはいけない」の表示が義務付けられているのに、輸出向け飼料にはこの表示が義務付けられていない。このような表示がなければ、禁止物質を含む飼料が偶然にか故意に米国に逆送されて米国の牛の口に入るか、外国の牛の口に入る。

 ・FDAは、牛が禁止物質を含む飼料を与えられたかもしれないと分かったときに、必ずしもUSDAや州に警告を出してこなかった。FDAの指針はこのような通報を要請しているのに、このような間違いが起きている。製造工程のミスで約1年にわたり肉骨粉が飼料に混入し、流通していた例があり、製造工場は指摘を受けて回収したが、FDAはUSDAに通報していなかった。

 ・研究は小量の感染物質でも牛がBSEになることを示しているにもかかわらず、検査官は、牛飼料を運搬する車の洗浄手続を日常的に検分することを怠っている。

 このような指摘にもかかわらず、FDAは、指摘された弱点は米国の牛をリスクに曝すというには不十分で、その検査のアプローチは適切と主張している。レンダリング業者、蛋白質ブレンド業者、飼料工場など、最上流の汚染源を抑えれば下流の汚染は回避できる、飼料にかかわるすべての企業の検査など実行不能ということだ。また、飼料検査が遵守状況検査の一環であるというGAOの指摘にも、検査ではBSE病原体は発見できない、工程と手続の評価が遵守状況を確認する最も効率的な方法と反論する(一定の哺乳動物蛋白質の継続利用が許されている現状では、禁止物質の正確な検出は困難。PCRや顕微鏡検査では時間と費用の浪費)。

 GAOに報告を要求したディック・ダービン議員も、「GAOの報告はBSEの脅威が真面目に受け取られていない証拠の長い連鎖にさらに一つを付け加えるもの」と言いながら、米国の食料供給は世界一安全と言っている(Report: FDA needs to do more on feed ban,Boston.com,3.14(from AP);http://www.boston.com/yourlife/health/diseases/articles/2005/03/14/report_fda_needs_to_do_more_on_feed_ban/)と言う。

 全米穀物・飼料協会(NGFA)も14日、GAO報告へのコメントを出し、FDAの「科学・リスクベースのアプローチ」への強い支持を表明、飼料産業のBSE防止ルール遵守は非常に高度で、米国農務省(USDA)が04年6月から27万頭を対象とする拡大検査計画を実施しているにもかかわらず、米国生まれの牛のBSEは1件も発見されていないことからもこれは明らかだと言う(NGFA Reactions to GAO Report on Mad Cow Disease Released on March 14, 2005;http://www.ngfa.org/article.asp?article_id=5046)。

 この検査計画によるサンプル採取が恣意的で、検査結果がまったく当てにならないことは既に何度も述べてきたから、ここでは問題にしない(日米牛肉協議合意、BSEリスク評価を無視、政治が独走,04.10.25の米国農務省監査局、省のBSE検査を批判 省専門家は過去のことと一蹴,07.7.15;米国、BSE検査拡大へ、サンプル確保の保証はなし,04.3.18)。

 この調子では、GAO報告が米国政府や議会の早期輸入再開を迫る対日圧力の緩和につながることはありそうもない。せめて、いすれ米国のBSEリスク評価を行うことになる日本の食品安全委員会は、EUのリスク評価とともに、このGAOの指摘も十分に念頭において欲しい。

 関連情報
 米国:BSE飼料規制99.9%遵守の根拠はゼロ、検査は半数以下の企業だけ
,04.3.30

 

 

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