バクテリアが哺乳類の細胞に入り込む

Nature 

ヘレン・ピアソン

2001年11月19日

訳 山田勝巳

 

バクテリアが、適宜にファルス(ペニスの意)を使って交接

異種生物間の交雑は一般的に嫌われている。 しかしカリフォルニアの自由なラボでは、奨励されている。 細菌が、ハムスターの細胞と本気で汚れ役をやるようせっつかれ、それについてのセックス・マニュアルを書き直している。 人のように、細菌も適宜にファルスを使ってセックスをする。 近くのバクテリアを吸い寄せ、近くに引き寄せてDNAを打ち込む。 接合(conjugation) と呼ばれるプロセスである。

 

バクテリアは、これまで植物や酵母とDNAを共有するように促されてきたが、哺乳類の細胞でそれが目撃されたことはなかった。サンディエゴのカリフォルニア大学のバージニア・ウォーターズにとって、しつこさが幸いした。 彼女は大腸菌をハムスターの細胞に乗っけて親しくなるのを待った。 「一晩一緒にして置くのですよ。」と話す。 彼女は、緑色の蛍光蛋白質を作る遺伝子を使って、バクテリアがDNAを移すのを実証した。 交接後のハムスターの細胞は、緑色に光る。

 

自由に気楽に

 ユージーンにあるオレゴン大学のジョージ・スプレイグは、バクテリアは相手の選り好みが激しいと思われてきたと話す。 バクテリアの細胞表面は、他の細胞と近づくためには、余りにも違いすぎると思われてきた。「これはバクテリアが仲間内でやることだと思い込んできた。」

 

その後、土壌菌アグロバクテリウム・チュメファシエンスは、植物細胞といつもやっていることが分かった。 1989年にスプレイグはバクテリアが好んで酵母と接合することを示した。 「これは、科学界では驚きだったのです。」 バクテリアと哺乳類の細胞を一緒にするのは、「究極の性的実験と思われてきた。」のだ。 この生殖の秘密は、変わり者を慎重に見つけることで、ウォーターは、哺乳類の細胞では10,000個に1個くらいしか無いという。 彼女は、受け入れたハムスターの細胞内で複製を作り、生き残ることが出来る、円形DNA(プラスミド)を持つ浮気者のバクテリアの作出もしている。

 

ウォーターズの結果は、バクテリアが常に哺乳類の細胞と接合を試そうとしていることを示している。 しかし、そのような結合が結実するという証拠は殆ど無い。 バクテリアの遺伝子が人間のゲノムに直接移植されたという報告は論議を呼び起こしている。

 

哺乳類の細胞がバクテリアの提供するDNAを取り込むのは稀だ

 バクテリア同士は通常、抗生物質耐性をもたらすような生き残り遺伝子の交換のために接合する。 しかし哺乳類のゲノムに永久的に入り込むためには、遺伝子はバクテリアから精子や卵子に移行し、そしてゲノムに統合されて次の世代へ引き継がれるようにする必要がある。 これは可能ではあるが、極めて稀だというのは、パリのパスツール研究所で接合を研究するジャン・マルク・ギゴだ。 ウォーターの実験で使われたような組み換えDNAとは違って、野生バクテリアのDNAは、受け入れ細胞の防護メカニズムによって退化させられるだろう。

 

セックス治療

 ウォーターズは、病気を起こす欠陥細胞を補完するために、健康な遺伝子を移植する遺伝子治療に、バクテリアの奔放な性質を探ってみたいと考えている。 例えば、肺に常在するバクテリアを遺伝子組み換えして、嚢胞性繊維症のような肺病で機能しない遺伝子を持ち込むように出来る可能性がある。 「これは、DNAを移植する強力な方法だ。」とギゴは言う。 常にセックスしようとするバクテリアが大量にあれば、遺伝子を届ける一個の薬剤より成功する確率は高い。 オックスフォード大学で遺伝子治療研究者ステファン・ハイドはこうした方法により懐疑的だ。厚い保護粘膜でバクテリアが肺の細胞に近づかないようにするだろうと指摘する。 バクテリアを人体に導入して、好ましからざるバクテリア遺伝子を移植するのは危険だ。ラボでは、接合は哺乳類の細胞に大きなDNA片を移植する方法であるかも知れないが、そのような移植はDNAが壊れやすいので現在は難しいとハイドは話す。

 

繁殖は脇に置いて

 接合は1946年に始めて報告され、その研究者ジョシュア・レーダーバーグにノーベル賞が授けられた。 この遺伝子を運ぶプラスミドは、性因子(fertility factor:F因子)と名付けられた。 交接を一定間隔で中断して、どんな遺伝子が相手の細胞に伝達されたのか知ることが出来た。 こうして大腸菌遺伝子は百万塩基対単位 ではなくより綿密に測定することが出来たのである。

 

文献

Waters, V. L.Conjugation between bacterial and mammalian cells.

              Nature Genetics, DOI: 10.1038/ng779 (2001).

           

Heinemann, J. A. & Sprague, G. F. Bacterial conjugative plasmids

              mobilize DNA transfer between bacteria and yeast. Nature, 340,

205- 209, (1989).

 

Salzberg, S. L., White, O., Peterson, A. J. & Eisen, J. A..

              Micorobial genes in the human genome: lateral transfer or gene

              loss? Science, 292, 1903 - 1906, (2001).

 

Stanhope, M. J. et al. Phylogenetic analyses do not support

              horizontal gene transfers from bacteria to vertebrates.

Nature, 411, 940 - 944, (2001).

 

 

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