遺伝学とバイオ防衛研究がバイテク凋落を救済
ISISプレスリリース
2003年7月18日
訳 山田勝巳
バイテク世紀の終焉?ミニシリーズは、バイテク帝国の崩壊、特に2000年後半から非常に儲かるとされてきたバイオ医学部門の崩壊を分かり易く紹介するものです。彼らは今遺伝学とバイオ防衛を標榜して税金を注ぎ込ませようと躍起になっている。しかし、騙されてはいけない。過った科学と危険な医学がバイテク帝国を引きずり落としているのに我が政府はまだ浄財をどぶに捨てようとしている。
(メイワン・ホー)
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バイテク業界が不足する資金を連邦政府に求めて6月に集結したワシントンDCにその低迷がはっきり現れている。躍起になっているバイテク産業組合(BIO)は、広く市民に受け入れてもらうために新聞・テレビで宣伝し、2日間に亘るナショナルモールでの祭典など異例の年次総会を開いた。
昨年のバイテク企業新規登録は4社で2000年に比べて1/10に減った。ヨーロッパでは僅か3社が新規登録している。新規ベンチャー企業の資金は総額4億6500万ドルで2002年同期に比べて70%減となっている。そこでアメリカ政府への期待が集まっている訳だ。
国立保健研究所(NIH)は、その枠外予算5億6000万ドルの2.5%を小規模事業に宛てることになっている。6月23日のBIO総会での演説でブッシュはそれ以上の投資支出を支持し、議会に対し生物テロに対抗する研究開発費として向こう10年間で60億ドルかけるバイオシールド法案を通すよう求めた。(このシリーズの「バイオ防衛マニアがアメリカの首根っこを抑える」を参照。)
ネイチャーの記者は、「ワシントンでは、金が常に両方向に流れている。」と書いている。共和党議員は特にバイテク企業からの巨額の献金で潤っている。その見返りとして、これらの企業を監督するFDAを弱体化してきたと非難されている。 しかし、分析筋はこの政府との親密な関係もバイテク企業を救うことは出来ないと見ており、60億ドルは確かに大した額ではない。
大西洋の反対側にある英国は、今後3年間で5000万ポンド強を遺伝子研究に使うことになっている。6月に出た政府の白書では、遺伝子検査とカウンセリングから遺伝子治療、更に遺伝子・医薬品相互作用等の保健ゲノム計画への予算増額計画が記されている。保健省は、若年の心臓麻痺リスクが高くなる高脂血症家系の人を1000人規模で識別し治療する試験計画に予算をつけることにしている。
批判をかわすために、個人のDNAを本人の同意無しに検査することを禁ずる法律を制定して遺伝情報の乱用を防ぐことによる個人保護を考えている。政府は、遺伝情報を雇用や保健に使うことを2006年まで禁止していることを繰り返しアピールしている。 時を同じくしてバイオ医療研究に公的資金を強引に取り込んできた医学研究審議会(MRC)でさえも基礎研究を削っている。今年4月にMRCは、北ロンドンのミル・ヒルにある国立医療研究所をケンブリッジにあるアデンブルーク病院に移して基礎研究と臨床研究の相互交流を良くすると同時に経費を節約することを提案した。しかし、この案はミル・ヒルの研究者の怒りを買いこれを支持する議会議員と協力してこの案を棚上げにしている。
MRCは、これまでアルツハイマー、糖尿病、癌、心臓病など多くの病気に関係する遺伝子を特定するための英国民50万人のDNAサンプルを収拾するバイオバンク計画について「予算付けに一貫性が無い、特に政治的色合いが強い」と下院科学技術特別委員会から強く非難されている。
これら最近の浪費は、数十年に亘るゲノム配列解明とゲノム研究で約束した恩恵を何も生み出せなかった企業の科学的想像力の欠如の表れだ。 医学研究所の最新報告によると、アメリカ政府は人ゲノム計画などの大型生命科学プロジェクトを進めるにはより組織的取り組みが必要だと述べている。国立保健研究所は、提案を募集したり審査するには「よりオープンで手際よい方法」が必要だ。審議会の議長ジョセフ・シモーネは、研究者の参加、離脱には「明確で柔軟」な人事案が必要だと言う。例えば、人ゲノム研究所は、名目上の事業を完了した後の新たな使命を決めかねていた。報告書には、「学術的に死に体」の大型プロジェクトを積極的に導いていこうという研究者に奨励金や報奨金などを設定することを提案している。
遺伝子やゲノムが今では環境の毒や危害に対応して(健康と流動ゲノムミニシリーズを参照)突然変異し、入れ替わり、再配位する事が分かっているので、人ゲノムで素遺伝子を解明することの不毛さが次第に明らかになってきている。動物のバイオ医薬生産やクローン作りから遺伝子治療や異種移植までの遺伝子技術プロジェクトは、成果をもたらすことが出来ないばかりかこれらに伴う危険が明らかになってきたために空中分解してきている(このシリーズを参照)。政府が浄財を誤った医学に注ぎ込むのを止めて、食品や大気、水、土壌の質を本当に高めるような健康増進事業に投資すべき時が来ている。
出典
"株価低落でバイテク企業が政府に救いを求める",
Ericka Check, Nature 2003, 423, 908.
"遺伝子研究を目指すUK ", Gretchen Vogel, Science 2003, 300, 2015.
"抗議で著名な医学研究所の延命が決まる", Jim Giles, Nature 2003,423, 573.
"医療研究審議会とDNAバイオバンクを非難する議会",
Mae-Wan Ho, Science in Society 2003, 18 , Spring, 40.
"大型生物学のIOMのハウツー", Jocelyn Kaiser, Science 2003, 300, 2015.
"さよならGMOs", Mae-Wan Ho, Science in Society 2002, Autumn, 16 ,
10.
Ho MW and Cummins J. GMOの何が問題化? Science in Society 2002,Autumn, 16 ,
11-13.
Ho MW. ブレアの誤ったバイテクビジョンScience in Society 2002,Autumn, 16 , 19-20.