バイテクで飢餓を無くせるのか?
トニー・ホール議員によって催された特別フォーラム
Dr. メイ・ワン・ホー
市民科学大学 www.i-sis.org 開放大学(イギリス)
キャビタル・ヒル ワシントンDC
2000年6月29日
抄訳 山田勝巳
キーワード:GM作物、CaMVプロモーター、水平遺伝子伝達、世界飢餓、科学の有機革命
1. 私は科学を愛し科学と技術が世界を良くし飢餓と闘えると信ずる科学者です。と言っても適切な科学と技術でなければならないと同時に、国民が決定権を持っていなければなりません。 真剣に伝えそして人々に任せるという民主主義のプロセスには代わりはありません。
2. 私は、安全性に問題があると信ずる理由があって、世界の全ての国にGM作物の禁止を訴えた手紙に署名した38カ国計327名の科学者の一人です[1]。 私たちは、世界で既に実証済みの持続性のある農業方式の支持を求めています。 科学界には本当の不一致があります。国民には、科学対非科学として論争を表現したのでは、役に立ちません。
3. まず最初に、GM花粉のGM遺伝子が蜂の子の内臓でバクテリアと酵母に移行したというドイツの報告から始めましょう[2]。
4. このような水平遺伝子伝達は、外来遺伝物質を直接取り込むものです。 農場でも起こることが分かっています。 GM砂糖ビートが収穫された後GM遺伝子物質が土中に少なくとも2年間棲息し続け土壌微生物に取り込まれたのです[3]。
5. 微生物だけではなく人間を含む動物の細胞もGM構造物を簡単に取り込めるのです。 外来遺伝子は細胞自身の遺伝物質であるゲノムに治まります[4]。
6. かつてと言ってもさほど昔ではありませんが、GM推進学者は水平遺伝子伝達は起こり得ないと主張していました。 今では、常に起こっていることだから心配は要らないといっています。
7. 重要な問題は、GM遺伝子は普通の遺伝物質のようなものかどうかと言うことです。 答えは、NOです。 GM遺伝物質と自然の遺伝物質では、全く違うものなのです。
8.非GM食品中の自然の遺伝物質は分解してエネルギーを供給したり、成長や修復のための細胞になります。 稀に外来遺伝物質が細胞のゲノムに入り込むことがありますが、別の機構がこの異物を働かないようにしたり除去したりします。 これらは全て生物の障壁によるもので種を独立させ、種の間で遺伝子の交換が起こるのを防いでいます。 何十億年もの進化の中でもそうだったのです。
9. GMのDNAは宿主ゲノムに侵入して自然の種の壁を乗り越えるように作られています。 構成する素材が色々なものなので、GMDNAは侵略的であると同時に不安定になり勝ちで、より以上に水平遺伝子伝達で拡がりやすいと言えます(5)。
10. GMDNA、危険なバクテリア、ウィルスその他広く色々なものの寄生遺伝子から成り立っています。 これらがこれまで存在しなかった形で組み合わさって、その構成部分ではなかったゲノムに挿入されるのです。 これが機能するためには遺伝子スイッチ若しくはプロモーターが必要です。 典型的には、ウィルスの攻撃的プロモーターが使われ、健全な組織では決して起こらないことですが、持続的に強く発現するようにしています。
11. 現在あるGM作物、いわゆる第2世代の「ゴールデン・ライス(6)」のようなものも含む実質全部に一つのウィルスプロモーターが使われており、これがカリフラワーモザイクウィルス、略してCaMVです。 CaMVプロモーターには、組み換えホットスポット(頻発点)−壊れたり他の部分とくっついたりしやすい場所−があります(7)。 移ろいやすい機能です(8)。 植物遺伝学者は、このプロモーターが植物や植物に類するものでは機能し、動物では機能しないと思っていました。 ところがつい先週、私たちは、10年以上前の科学誌の中に、まさにこのCaMVが蛙の卵(9)と人間の細胞抽出物の中で極めて良く機能するということを発見しました(10)。 他のウィルスプロモーターを感染性ウィルスに置き換えられることを既に知っていたのです。
12. この危険なGMDNAが拡がったらどうなるでしょう。 GMDNAはウィルスやバクテリアの遺伝物質で成り立っていて、種の壁を越えてゲノムに侵入するように設計されているのです。 その過程でこれが病気の原因となるウィルスやバクテリアと組み換えが起こる可能性があるのは明らかです。 抗生物質耐性遺伝子も髄膜炎や気管支炎のような深刻な病気に関わるバクテリアに拡散する可能性があります。 ゲノムに入り込むGMDNAは、今は全てのゲノムにあることが分かっている休止状態のウィルスと結合し、これを活性化する可能性があります(8で検討済み)。
13. GM作物は安全でないと同時に無駄なものであることは分かりました。バクテリアのBT毒は沢山の作物に組み込まれているが、クサカゲロウやオオカバマダラ、黒アゲハチョウなど絶滅に瀕した益虫にとって毒です(11)。Bt作物は新種の抵抗性害虫の出現を促します。 臭虫(カメムシの一種?)は、ノースキャロライナやジョージアのBt綿を食べ尽くして(12)猛毒の殺虫剤を撒かなければならなかった。 ネブラスカ大学の調査によるとGMラウンドアップ・レディ大豆の収量は6−11%非GM大豆に較べて低く(13)、この結果は、これ以前にウィスコンシン大学が行ったGM大豆が2−5倍除草剤が余分に必要だ、という調査結果を裏付けている。
14. 世界の飢えと闘う方法はGM作物でないことは明らかだ。 世界の人口は酷く誇張されていて、100億人という数字が飛び交っています。 実際には、1990年代終わりの人口は何度か下方修正されなければならなかった。1998年半ばに国連が見積もった世界人口は、2040年に77億人でピークに達し、その後長期的に下降し2150年には36億人となり、現在の2/3の人口になる(14)。
15. 人口論は、収容能力という生態学的考え方に基づいている。 生態学者は、エコシステムが生物多様性が豊であるほど収容能力を増し(15)、人や野生生物をよけいに支えられることになる。 生物多様性のあるシステムはより安定的で柔軟でもある。 これと同じ原理で伝統的土着の農業システムが営まれてきており、今はこの原理で土着農業と西洋科学知識を統合するホリスティックな試みがなされようとしている(16)。 既に1250万ヘクタールがこの方法で耕されている。 収量は2倍3倍になり、更に増え続けていると同時に、緑の革命の影響で最悪になった環境、社会、健康が快復してきている。
16. GM作物の世界市場は、世界中の人々が拒否して有機の持続的農業を選択してきているために崩壊した(17)。 有機革命は、草の根から沸き起こり、西洋科学のあらゆる分野を席巻している。 量子物理から複雑な生態学そして新しい遺伝学。 メッセージは皆同じ。 自然は躍動している。相互に繋がり、相互に依存しあっている(18)。 GM技術に賛成する人達は力学時代で立ち止まっていて、これが技術を不毛で危険なものにしている元凶なのです。 これでは革新性が足りないのです。
17. 最後に、GM作物は安全ではありません。 必要でもなく根本的に不健全です。世界の飢餓との戦いを支えるどころか、世界の食糧保全と健康をもたらす持続的有機農業へ移行しようとするのを妨げているのです。
Notes and References
1.. Open Letter
from World Scientists to All Governments calling for a moratorium on GMOs -
from www.i-sis.org
2.. Barnett, A. (2000). GM
genes ‘jump species
barrier’ The Observer May 28,
2000.
3.. Gebhard, F. and
Smalla, K. (1999). Monitoring field releases of genetically modified
sugar beets for persistence of transgenic plant DNA and horizontal
gene transfer.
FEMS Microbiology Ecology 28, 261-272; see also Horizontal
gene transfer happens"
ISIS News #5 on
www.i-sis.org
4.. Reviewed by Ho, M.W.,
Ryan, A., Cummins, J. and Traavik, T. (2000).
Unregulated Hazards: ‘Naked’ and ‘Free’ Nucleic Acids,
ISIS and TWN Report, Jan. 2000,
London and Penang.
www.i-sis.org
5.. See Old, R.W. and
Primrose, S.B. (1994). Principles of Gene Manipulation, 5th ed.
Blackwell Science, Oxford;
Kumpatla, S.P., Chandrasekharan, M.B., Iuer, L.M., Li, G. and Hall, T.c.
(1998). Genome intruder scanning and modulation systems and transgene
silencing.
Trends in Plant Sciences 3,
96-104.
6.. This can be seen in
the scientific report itself: Ye, X., Al-Babili, S., Kloti, A.,
Zhang, J., Lucca, P., Beyer, P. and Potrykus, I. (2000). Engineering
the provitamin
A (b-carotene) biosynthetic
pathway into (carotenoid-free) rice endosperm. Science 287, 303-305; see also
ISIS Sustainable Science Audit #1: The Golden Rice ?
An Exercise in How Not to Do Science
- from www.i-sis.org
7.. Kohli, A.,
Griffiths, S., Palacios, N., Twyman, R.M., Vain, P., Laurie, D.A. and Christou,
P. (1999). Molecular characterization of transforming plasmid rearrangements in
transgenic rice reveals a recombination hotspot in the CaMV 35S promoter and
confirms the predominance
of microhomology mediated
recombination. Plant J. 17, 591-601; Kumpatla,S.P. and Hall, T.C. (1999).
Organizational complexity of a rice transgenic locus susceptible to
methylation-based silencing. IUBMB Life 48, 459-467.
8.. Ho, M.W., Ryan, A.
and Cummins, J. (1999). Cauliflower mosaic viral promoter ?
a recipe for Disaster?
Microbial Ecology in Health and Disease 11, 194-197; Cummins, J.,
Ho, M.W. and Ryan, A.
(2000). Hazards of CaMV Promoter? Nature Biotechnology April;
Ho, M.W., Ryan, A. and Cummins, J. (2000). Hazards of
transgenic plants with the cauliflower mosaic viral promoter. Microbial Ecology
in Health and Disease (in press).
9.. N Ballas,N., Broido,
S., Soreq, H., and Loyter, A. (1989). Efficient functioning of
plant promoters and poly(A)
sites in Xenopus oocytes Nucl Acids Res 17, 7891-903.
10.. Burke, C,
Yu X.B., Marchitelli, L.., Davis, E.A., Ackerman, S. (1990). Transcription
factor IIA of wheat and human function similarly with plant and animal viral
promoters. Nucleic Acids Res 18, 3611-20.
11.. Wraight,
C.L., Zangerl, R.A., Carroll, M.J. and Berenbaum, M.R. (2000). Absence of
toxicity of Bacillus thuringiensis pollen to black swallowtails under field conditions. PNAS Early Edition
www.pnas.org; see also Swallowing the tale of the swallowtail and To Bt or Not
to Bt, ISIS News #5 from www.i-sis.org
12..
"Research Shows Roundup Ready Soybeans Yield Less". News Release from
IARN News Service, University of Nebraska IANRNEWS@unlnotes01.unl.edu
13.. See Biodemocracy
News #27 www.purefood.org
14.. World Population
Projections to 2150, UN Population Division, New York, 1998.
15.. See Tilman,
D., Wedin, D. and Knops, J. (1996). Productivity and sustainability influenced
by biodiversity in grassland ecosystems. Nature 379, 718-720.
16.. See Altieri,
M., Rosset, P. and Trupp, L.A. (1998). The Potential of Agroecology to Combat
Hunger in the Developing World, Institute for Food and Development Policy Report, Oakland,
California; also Rosset, P. personal
communication.
17.. Over the past four years,
US corn exports to the EU have fallen from $360 million a year
to near zero, while soya
exports have fallen from $2.6
billion annually to $1 billion-
and expected to fall even
further as major food processors, supermarkets, and fast-food chains ban GM
soya or soya derivatives in animal feeds. Canada's canola exports to Europe
similarly
fell from $500 million a
year to near zero. From Biodemocracy News #27 www.purefood.org
18.. See Ho, M.W. (1998).
The Rainbow and The Worm, The Physics of Organisms, 2nd ed.,
World Scientific, Singapore; Ho, M.W. (1998, 1999). Genetic
Engineering Dream or Nightmare? Gateway, Gill & Macmillan, Dublin.