バイオ戦争

 ブッシュ政権が開発する致死性遺伝子組み換えウィルス

 

デボラ・マッケンジー

ニュー・サイエンティスト

2003年10月30日

http://www.newscientist.com/news/news.jsp?id=ns99994318

訳 山田勝巳

 

米政府が資金提供した研究者が、遺伝子操作によって天然痘ウィルスの類縁種であるマウスポックスから猛毒なウィルスを意図的に作った。この新型ウィルスは、通常であれば有効なはずの抗ウィルス薬やワクチンを受けた全てのマウスをも殺してしまう。更に、人を含む広範囲の動物に感染する牛痘ウィルスを同じ方法で組み換えた。

 

セントルイス大学のマーク・ブラーがニュー・サイエンティストに話したところによると、この新ウィルスはこれから動物実験に入るが、マウスだけに致死性があるはずだという。この実験は、バイオ・テロリストがやりそうな事を知るためだという。だが、この研究は弱い感染しか起こさないポックス・ウィルスを、ワクチンを受けた人さえ殺すようなものにする可能性がある。現在天然痘や最近アメリカに上陸したモンキー・ポックスに対抗するのは主にワクチンである。研究者の中には、このような研究が危険で不要だと考えているものもいる。「種を越えられるポックス・ウィルスでこのような事をするのは非常に懸念がある。」とキャンベラのオーストラリア国立大学のイアン・ラムショウはいう。

 

ラムショウは、偶然マウス・ポックスの毒性を強くする方法を見つけたチームの一員だった(ニュー・サイエンティスト2001年1月13日)。しかし、このチームが組み換えたものはブラーのものほど毒性は強くなかった。

 

リバウンドはしない

 その後、彼のチームは更に毒性の強いマウスポックスを作って、同じ方法を使って毒性の強いウサギポックスを作った。しかし、改変したポックス・ウィルスには感染性はなかったという。このウィルスが実験室から漏れ出ても世界中のマウスやウサギを全滅させ生態学的災厄を起こす事がないというのは良いニュースといえる。

 だが、この発見は、バイオ・テロリストが同じやり方で人に感染するポックス・ウィルスに改変したくなるような気にさせる可能性がある。このような病気は炭疽菌のように曝露したものだけに感染する。世界中に広まって攻撃した本人を逆襲する事はない。しかし、同様に改変されたポックス・ウィルスが非感染性であるという保障はない。

 

ラムショウのチームが最初に発見したのは、ネズミとウサギを殺すことなく繁殖を防ぐ避妊ワクチンを開発している最中だった。彼らは、抗体の産生量が増えると予測してIL-4という自然な免疫抑制遺伝子をマウスポックス・ウィルスに組み込んだ。ところが、組み換えマウスポックス・ウィルスは遥かに毒性が強くワクチン接種したマウスの60%が死んでしまった。IL-4を追加することは、細胞媒介反応と呼ばれる免疫システムの重要な部分を抑制してしまうようだ。

 

最大生産性

今回ブラーは、抗ウィルス薬サイドフォヴィー(cidofovir)で治療した場合でも、接種したマウスを100%殺すマウスポックス株を作り出した。IL-4を一掃する単クローン抗体の場合は少数だが救った。

先週ジュネーブで開かれたバイオセキュリティ会議で、彼のチームはIL-4遺伝子をウィルスゲノムの別の位置に置きIL-4蛋白の生産を最大にするプロモータ配列を追加する事によってウィルスを「最適化」したと発表した。また、マウスIL-4遺伝子を持つ牛痘ウィルスも作り、これはまもなくメリーランドのフォート・ディトリックにある米軍感染症医学研究所でマウスに試験される。 牛痘は人に感染するが、IL-4は種特異性があるので人の免疫系は影響を受けないとブラーいう。この実験は第二レベル生物的封じ込めで行われている。

 

9−11

 ラムショウは、自分達が行ったウサギの実験でこの方法が他のポックス・ウィルスでうまく行く事が証明されているので、牛痘の実験をする必要は全く無いという。マウスIL-4を持つウィルスは人に致死的でなくとも組み換えウィルスは予期できない結果を生む事がある。「マウスだけに効く組み換えだというのは希望に過ぎない。」という。

彼のグループの作ったウィルスが、感染性がない理由は不明だ。宿主が普通よりも早死にしてウィルスを道連れにするというような事ではない。しかし、このウィルスが宿主の免疫系に影響のある遺伝子を頻繁に取り込むのに、何故ポックス・ウィルスが自然に発生しないのか彼の発見では説明がつかない。

 問題があるにもかかわらず致死的新ポックス・ウィルスの研究はアメリカで続けられるようだ。ジュネーブの聴衆がこのような実験の必要性について質問したのに対し、後ろの方からアメリカ人の大きな声で「9-11」と響いた。同意の囁きが聞こえた。

 

 

 

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