バイオ技術が有する環境への潜在的危険と害

 William. M. Muir

  Purdue大学 動物科学科

 バイオ技術に関する情報システム

2001、11、1

 訳 長坂敏雄

 

 遺伝子操作された生物に関する関心事は、もしそれらが自然環境の中に紛れ込んだり、拡散したとき、環境に与える潜在的な害についてのものだ。害は、時間的に見て、短い時間から、永続的な時間の幅で考えられるし、空間的には1地方から地球規模まで様々な形をとりうる。だから、害のなんたるかを定義するには、とかく混同される二つの語、リスク(危険度)とハザード(有害性)を区別する必要がある。この意味において、Wiliiam MuirとRichard Howardは、組み換え遺伝子のリスクを、ひとたび世に出されると、それが自然界に広がる確率と定義し、ハザードをそのことによって引き起こされる種の絶滅や、転位、生態系の破壊の確率と定義する。(文献1参照) 

 

遺伝子操作された生物からの害がないことを示すためには、リスクもしくはハザードはゼロに近くなくてはならない。すなわち、{リスク=P(E)、Pは確率、Eはその生物への暴露(exposure)、ハザード=P(H/E),Pは確率、Hは暴露の結果起こる害、Eは暴露}という記号を使えば、P(E)0またはP(H/E)0となる。

 生態系に対する長期的なハザードを事前に予測することは難しい、なぜなら非標的生物のすべてをあらかじめ同定することはできないし、種というものはハザードに応じて進化し、自然界においては数えられないほど多くの直接間接の生物間相互作用があるからである。環境に全く害がないことを保証する唯一の方法は、組み換え遺伝子が拡散しない、すなわち、P(E)0であるような適合性を持つ遺伝子操作生物を使用可能にする以外ない。その場合、組み換え遺伝子は自然界から失われているのでハザードに無関係だ、と二人は結論する(1)。

 

 危険に関わる要因

 この文脈でいえば、長期的な生態学的リスクは、当初は稀なある一つの組み換え遺伝子が自然の生態系に拡散する確率から決定される。組み換え遺伝子の自然界への拡散はいくつかの方法によってもたらされる。すなわち、1)野生動物との交配の結果もたらされる垂直遺伝子伝達:vertical gene transfer、2)ある外来種の導入による新しいテリトリーの侵入。そして3)微生物の媒介による水平遺伝子伝達 horizontal gene transferの3つ、ないしはそれらの組み合わせが考えられる。 それらのどの要因が重要であるかは問題の生物種や挿入される組み換え遺伝子、その挿入方法によってそれぞれ異なる。

 

垂直遺伝子伝達:Vertical Gene Transfer

拡散の第一段階のメカニズムである、垂直遺伝子伝達は、遺伝子操作された生物種のいかんによる。家畜として高度に飼い慣らされた種は、自然の環境にはうまく順応出来ず、生き残ったり再生産できないかも知れない。しかし、野生の自然種が地域的なものである場合は、地域的な順応は遺伝子の拡散の主要な障害ではない、それは高度に家畜化された遺伝子操作済みの種が、高度に順応した自然種と交配することが可能であるかもしれないことと同様だ。この点に関しては、水生生物が重要な観点を提供する。なぜなら、水中の環境は世界中につながっていて、養殖生物が存在するにもかかわらず、野生の自然種が存在している。すべて養殖種に対応する形で野生種が存在するわけではないが、もし、遺伝子操作された生物が経済的メリットを持つのであれば、人間の介入は自然種が存在する地域にこうした生物を持ちこむだろうと結論せざるを得ない。

 

新たなテリトリーの侵害:Invasion of new territories 

 拡散の第2のメカニズムは、組み換え遺伝子の機能のいかんによる。自然状態へのいかなる外来種の人為的導入も、生態系にとっては重大な関心事である。なぜなら外来種は様々な形で自然界にマイナスの影響を与え、他の種を排除することもあるから(2)。しかしながら、遺伝子組換え生物の自然界への放出は、それらが相手の生物の野生型の形質のほとんどを持っているとしても、生態系に何らかの危険をもたらし、また何らかの新たな利点ももたらす。例えば温度耐性の組み換え遺伝子は、冷水に住む魚を、冷水はもちろん温水でも住むことを可能にする。このようにしてGMの魚は再生産が早いペースで可能になり、数が増える一方で、他種への影響もある。その結果、遺伝子操作された生物は、その水域の他種はもちろんのこと同種の自然種の生存をおびやかすだろう(3)。

 

水平遺伝子伝達:Horizontal Gene Transfer

拡散の第3のメカニズムは、ヴィールスとトランスポゾンを通して自然にもたらされるが、その程度は極めて低いのでふつうは考慮に入れるほどではない。しかしながら、もしその両者が組み換え遺伝子を挿入するために使われるならば、たとえそのヴィールスが弱くても、他の自然界にあるヴィールスと再び結びついて新しい宿主に入り込む可能性はある。

 

危険度の評価

危険度を評価する遺伝子拡散のメカニズムがどうあれ、組み換え遺伝子の究極の運命は進化を支配するものと同じ力によって左右される。すなわち、自然淘汰によってである。従って、危険度の評価は、適応性の増加に対する自然の選択の確認によって実行可能である。このことは、自然界における生物種の量は膨大なので、導入された遺伝子からの回復が可能になる、すなわち、その種を元の状態に戻すに十分な時間を自然淘汰が持っているということを意味する。この意味において、適応とは一定の年齢までの生存を意味するのではなく、組み換え遺伝子の拡散がもたらすすべての生物の相変化のことである。MuirとHowardはこの相を6つに分解する:青年期と成年期の生命力、性的成熟の時期、雌の多産性、雄の繁殖力、そして雌雄の結合(1、4、5)。雌雄がうまく結合するということは、それが人工飼育の過程ではたいした要因ではないが故に、しばしば見過ごされるが、自然淘汰においては強力な選択要因である(6)。

 

潜在的ハザード

絶滅ハザードMuir とHawardは実質適応因子(net fittness components:以下、適応因子と訳す)に拮抗的な影響を与える組み換え遺伝子の多面発現効果が予期せぬハザードをもたらす、例えばその組み換え遺伝子を含む種の地域的な絶滅をもたらすことを見つけた(7、1)。これらの組み換え遺伝子はトロイの遺伝子(Trojan Gene )と言われている。それは、拡散の過程で自然の選択の際に、破壊的な自己増殖サイクルの結果、ある種を絶滅に追いやる。例えば、もし子どもの生存率を弱めるようなある組み換え遺伝子が、(野生種との)配偶は促進するようであれば、もっとも不適合なカップルが大勢を占め、その組み換え遺伝子が作り出した子孫は次第に存在し得ない状況がもたらされる。その結果として、個体総数がスパイラル的に減少し、やがて野生種も組み換え遺伝子種も地域的レベルで絶滅する(7)。

こうした結果は、後にヘドリックによって、理論的に証明された(8)。組み換え遺伝子を外界に放出ことによる野生種の地域的な絶滅は、波状的かつ否定的な影響を地域にいる他種に与える。雌雄の交配と子どもの生存率の相互作用はトロイ効果を生み出すメカニズムのすべてではない。彼らは、トロイの遺伝子が影響を与える他のいくつかの方法を示している。例えば、組み換え遺伝子は雄の側の交配力は高めるが、成長した個体の生存率を低下させる場合、あるいはその逆の場合もある(1)。後者の場合はとりわけ注目に値する。というのは病気に対する抵抗力やストレスを緩和するような組み換え遺伝子は、子孫の生存率を高める一方で雄の繁殖力を低下させることは、すでに成長ホルモン遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換えテイラアピアに関して報告されているからである(9)。

このケースで予測される絶滅ハザードは、害虫を根絶するために不妊の雄を使用するやり方に似ている。しかしながら、この場合に使用される雄は完全に不妊であることが必要であり、かつ繰り返し導入されねばならない。実際、不妊の雄の発育力は、(繰り返し投入されるおかげで)1.0に近く、一方で雄の繁殖力は0%である。 生育と繁殖に関する組み換え遺伝子の相入れない多面発現効果の結果であるこうした種の絶滅は、新種類のトロイの遺伝子の存在を示している(9)。このことは、遺伝子組換えで雄の完全な不妊でなく繁殖力を減少させようとする試みは、ハザードを減らすよりむしろそれを増やすことを示唆している(9)。

 

侵入ハザード

二人は、予測通り、適応因子のいずれかが組み換え遺伝子によって改良された場合、同時に逆の副作用もないとき、その組み換え遺伝子は、ある種の集団に侵入することを確認した(1、4)。しかしながら、彼らは、一つの適応因子における優位性が他の因子の劣位性を相殺することがあり、そうして侵入リスクをもたらすことを示した。適応因子に関して、組み換え遺伝子が多くの影響を与えるということの実験的な証拠は、日本のメダカを使った実験によってMuirとHowardの両者によって与えられた(4)。 それによると、成長ホルモン遺伝子を挿入した結果、野生種よりも、子どもの生存率の30%の減少、交配適齢期の生存率の12.5%減少、そして雌の多産性の29%増加が認められた。

私たちのモデルは、交配適齢期と多産性における優位性は、組み換え遺伝子によってもたらされる不利を克服するのに十分であることを明らかにし、侵入リスクを提示しているだろう。またこのモデルは、組み換え遺伝子が他の適応因子に肯定的な効果を十分に与えるなら、子どもの生存率に高い犠牲を払っても、それらが種全体の中に拡散出来ることを示した。

この調査は、6つの適応因子すべてがリスクを決定すると見なされなければならないことを示している。Maclean and Laightによって示された、繁殖力やその他の単独の要素に基づくモデルは、大いに問題がある(10)。

また、これらの要素は単一のモデルに統合される必要があり、そうすればリスクが決定できる。次に、私(W.M)は適応因子を評価する実験を調べ、そのモデルの発展をレビューする。

文献

      1. Muir WM and Howard RD. 2001. Environmental risk assessment of

      transgenic fish with implications for other diploid organisms. Transgene

      Research. In press.

      2. Bright C. 1996. Understanding the threat of biological invasions. In

      State of the World 1996: A World Watch Institute report on progress toward

      a sustainable society, ed. L Starke, 95・13. New York: WW Norton.

      3. Tiedje JM et al. 1989. The planned introduction of genetically

      engineered organisms: Ecological considerations and recommendations.

      Ecology 70: 298・15.

      4. Muir WM and Howard RD. 2001. Fitness components and ecological risk of

      transgenic release: A model using Japanese medaka (Oryzias latipes).

      American Naturalist 158: 1・6.

      5. Muir WM and Howard RD. 2001. Methods to assess ecological risks of

      transgenic fish releases. In Genetically engineered organisms: Assessing

      environmental and human health effects, eds. DK Letourneau and BE Burrows,

      355・83. CRC Press.

      6. Hoekstra HE et al. Strength and tempo of directional selection in the

      wild. PNAS USA 98: 9157・160.

      7. Muir WM and Howard RD. 1999. Possible ecological risks of transgenic

      organism release when transgenes affect mating success: Sexual selection

      and the Trojan Gene hypothesis. PNAS USA 24: 13853・3856.

      8. Hedrick PW. 2001. Invasion of transgenes from salmon or other

      genetically modified organisms into natural populations. Canadian Journal

      of Fisheries and Aquatic Sciences 58: 841・44.

      9. Rahman MA and Maclean N. 1999. Growth performance of transgenic tilapia

      containing an exogenous piscine growth hormone gene. Aquaculture 173:

      333・46.

      10. Maclean N and Laight RJ. 2000. Transgenic fish: An evaluation of

      benefits and risks. Fish and Fisheries 1: 146・72.

 

 

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