’狂牛病’、新たな発見で食肉安全問題が浮上

ニュースディ(ニューヨーク) ジェーミー、タラン

2002年3月26日

訳 山田勝巳

 

狂牛病につながる異常蛋白質が、実験室マウスの骨格筋で急速に成長することが新たに発見され、食品の安全性が疑問視されており、牛や鹿、ヘラジカでも起こるのか検査することが求められている。

これまでプリオンは脳、脊髄、リンパ組織にのみ感染すると考えられてきたため、これらの部位だけを検査して人の食品に紛れ込まないようにしていた。 この新しい研究は、最初にこの蛋白質が感染性と致死性を持つことを説明してノーベル賞を受賞したスタンレィ・プルジナー博士が主導したものである。  この研究は国立科学アカデミーの会報最新号に載っている。 「プリオンが他の動物の骨格筋にも蓄積するかは今後の検査が必要だ。 だが、我々のマウスでの発見は、他の動物で骨格筋に於けるプリオンの分布がどうなっているのか総合的な研究が必要なことを示している。」とカリフォルニア大学の神経変成病研究所長のプルジナーはいう。

1995年以来125名が人の狂牛病である変異型クロイツフェルト・ヤコブ病で死んでいる。 うち大部分は英国の犠牲者だ。 この病気は、何年も前、おそらくは数十年前に食べた動物の肉に関係があるとされている。 牛海綿状脳症(BSE)は10万頭以上の乳牛を犠牲にした80年代の流行以来手が着けられない病気として牛に拡がっていた。その後100万頭以上が屠殺されている。 狂牛病の人型では感染性の蛋白質が最終的に脳細胞を損傷して急速な痴呆、行動異常を起こす致命傷で90%の患者が症状の出た年に亡くなっている。

共同研究者でその後デンバーのコロラド衛生科学大学に移ったパトリック・ボスク博士は、骨格筋に本当に感染するとなれば、感染源は人の食品に入り病気に罹る危険性があると言う。 プリオンに関しては多くのことが分かっては来たが依然謎が多い。 どうして正常型が異常化するのか?この疑問が研究者を20年間悩ませてきた。

プルジナーと共同研究者達は、プリオンが脳や神経組織以外でも複製するのかを調べている。 勿論、他の研究者も多くの動物組織にないか調べているが、答えを出すには実験器具の精度が不十分だ。

この実験のために2つのマウスモデルを作った。 一つは骨格筋にのみ、もう一つは肝臓にのみ正常なプリオン蛋白を作った。 その後、両方に感染性のプリオン蛋白を接種した。 数ヶ月後、場合によっては1年近くかけて正常プリオンが病気を起こす異常型に変わる兆候がないかを調べた。 それが、骨格筋にあった。 肝臓にはなかった。同じ実験が正常なマウスでも行われ、同様の結果を得ている。

「我々が想像していたよりも骨格筋でのレベルが遥かに高いのには驚いた。 牛、鹿、ヘラジカを慎重に調査しなければならない。 脳には、しかし、筋肉よりも著しく多く感染性プリオンがある。」とボスクは言う。 

英国や殆どのヨーロッパ諸国では、感染を確かめるのに牛の脳だけを検査している。 しかし、もし脳に移る前に筋肉に異常プリオンが蓄積されるとしたら、検査でOKとなり、動物の肉は食用に回されてしまう。 この場合、人は異常プリオンに曝されるのか、慢性的低レベルの摂取ではどうなるのかという疑問が出る。

アメリカではBSEが発見されていない。 しかし、西部、主にコロラド北東部とワイオミング南西部には、ヘラジカと鹿の群の15%位が異常プリオンと関係があると考えられている慢性消耗病に罹っている。 CJDが鹿肉を食べることとの直接の因果関係は分かっていないが、少なくともCJDと診断された3人は、鹿かヘラジカの肉を食べたことがあるとオハイオ州ケース・ウェスタン保護区大学のピアルイギ・ガンベッティ博士は言う。

毎年300名近い犠牲者の出る孤発性CJDも謎のままだ。 ガンベッティは、神経変成病で死んだと思われる毎年何百人もの人の組織を調べるこの国の監視人だ。

プルジナーとカリフォルニアの研究者達は、異常プリオンの進行を止める治療法を探している。 これが可能な最も効力のある薬の一つにマラリヤ治療薬のキナクリンがある。 現在テスト中のものにはクロロプロマジンとメチルブルーがある。 英国の変異型CJD患者の多くは、他の病気に認可されたこれらの薬を使っている。マラリヤ治療薬を処方された最初の若い患者は、劇的改善が見られたが、肝臓障害のためプルジナーはこの薬の使用を止めざるを得なかった。 この女性は昨年12月に亡くなっている。 

これらの薬のCJDに対する臨床試験は今も続いている。

 

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