荒波に見舞われたバイテクの2002年

 

レイチェル環境、健康ニュース

2003年1月30日

ピーター・モンターギュ

訳 山田勝巳

 

 2002年のバイテク業界は、ずっと嬉しくない事件に見舞われ続けだった。 

[biotech]は,biotechnologyの略で、バクテリアや、昆虫、植物、動物に新奇の特性を与えるために遺伝子を操作すること。

 

 アメリカ政府からの巨額支援を受けて、バイテク産業は過去5年間に急成長し、毎日のように新しいバイテク発明が発表されてきた。 現在では、殆どの動物がクローン化されるようになっている。 クローン動物は、早死にしたり、関節炎などの激痛を伴う病気を発生して動物虐待問題を起こす物がある一方で正常に生育し新規の望ましい特性を示すものもあった。 数日前にもニュージーランドの研究者がチーズを作るのに適している蛋白質の多い牛の開発に成功したと発表している。 「この牛は、ピザが好きな人にとっては素晴らしい朗報だ。」とバイテク業界を監督する三省庁の一つ農務省の研究者ロバート・J・ウォールは言っている(1)。

 

 動物のクローン産業は急速に高度化した。 2002年に、死んだ豚をクローン化した会社があった。 イリノイ、シャンペーンにあるプレイリー・ステイト・シーメン社の社長ジョン・フィッシャーは、自分の年金口座401Kという名をつけた最優秀雄豚を購入した(43,000ドル)。 この豚が予期せず死んだ時、死後数時間経った豚の耳の細胞を採取して、豚では初めてになるこれとほぼ同一の豚を作ることに成功した会社に送り届けた。 「ウッディ・アレンの下手な映画を見ているように慌しかった。」と401Kの子孫が食料品店で好評を博する(当然素性は表示されない)ことを期待するフィッシャーは話す。 USにはクローン動物の肉やミルクを売ることを禁ずる法律はない。 しかしFDAは、クローン業界に対し安全審査が完了するまで自主的に商品を出さないよう求めている(2)。

 

 FDAは8月に米科学アカデミー(NAS)から安全報告を受け取った。 ワシントンポストはNASの調査を要約して、 「動物の遺伝子操作は、環境に重大なリスクがあり、人間の健康にもリスクがある可能性がある。 このリスクを管理する政府の動きは出来ておらず、適切でもない可能性があると国立科学アカデミーの委員会は昨日発表した〔3〕。」といっている。

 一ヵ月後のワシントンポストは、クローン業界がFDAの自粛要求に関係なくクローン技術投資への見返りを得るために2003年にも表示無しで消費者に製品販売するようだと伝えている〔2〕。 

 

 FDAのバイテク食品産業規制は、「実質的同等性」という概念が前提となっている。

 バイテク技術で作られた作物は、実質的に同等であるため詳しい検査をする必要もなく販売が許されている。 つまり、ヒラメの凍結防止遺伝子を持つトマトもトマトはトマトということで普通のトマトと実質的に同等と考えられている。

 

 しかし、2002年7月に遺伝子組み換え薬による深刻な病気が多発して、組み換え蛋白質に対し、自然な蛋白質とは違う反応をする人がいることが判明した。 この人達の免疫システムは組換え蛋白質を細菌であるかのように反応してこれを殺そうとして自分の体を傷つける。 2002年に141名の患者がバイテク薬イープレックス(Eprex〕によって深刻な免疫反応を起こし、終に赤血球が出来なくなってしまった。 この人たちは、生き続けるために輸血し続けなければならなくなってしまった。 「これは全くの驚きだった。」とオランダのユトレヒト大学のフーブ・シェェケンス教授は言っている〔4〕。

 

 バイテクの最先端は、「バイオ医薬」-植物に遺伝子を組み込んで薬、ワクチン、酵素、抗体、ホルモン、プラスチック、洗剤、接着剤などの工業化学製品を作るものだ。 この殆どが、遺伝子の挿入が簡単で種子の中に新蛋白を作るのに優れているということでトウモロコシが使われている〔5.6〕。 サンディエゴの会社エピサイト薬品(Epicyte Pharmaceutical )は、200エーカーのトウモロコシで、4億ドルの工場が一年に生産できる量のクスリを生産できると見込んでいる〔7〕。 ダウ・アグロサイエンスのゲーリー・カーディナウは、バイオ医薬は10年以内に2000億ドル市場になると2001年に予測している〔7〕。   テキサスバイオ医薬の開拓者プロディジーン社の社長アントニー・ラオスは、10年以内に全米コーン栽培面積の10%がバイオ医薬専用になるだろうと予測している〔7〕。

 

 プロディジーンが、B型肝炎ワクチンを生産するコーンのバイオファーム実験圃場(温室ではなく屋外)を始めようとしていて、また豚の下痢を予防するワクチンを作るコーンの実験している時、サンディエゴのエピサイト薬品とパートナーのダウケミカルは、単純ヘルペスウィルスを退治する人の抗体を作る組み換えコーンを育てる準備をしていた〔8〕。

 

 エピサイト薬品は、2001年に人間の精子を攻撃する珍しい類の抗体を発見したと発表し、後にこれを使って避妊コーンを作った。「現在、抗精子抗体を作るコーンで温室が一杯だ。」とエピサイト社長ミッチ・ハインはロンドン・オブザーバーに話している〔5〕 

 

 コーンは、交雑し易く花粉を飛散し易い。 バイオ医薬花粉が周辺の普通のコーン畑を汚染しないようにするためUSDAは、これら実験圃場は、1320フィート(1/4マイル=400m)以内に作ってはいけないと定めている。 昆虫も鳥もネズミも風も洪水、トルネード(台風)、人も1/4マイル以上バイオ医薬花粉を動かせないという前提に立っている。

 

 2001年に、バイオ医薬会社と政府当局者は、バイオ医薬、ワクチン、避妊薬、工業用プラスチック、洗剤、接着剤などを生産する遺伝子組み換えコーンが、食品が汚染しないように出来る自信があると言った。 「大事なのはコーンから抽出するもので、これを漏らす事は絶対にしない」とプロディジーンのアントニー・ラオスは言い、FDA職員のキャサリン・シュタインは、「それに、全ての廃棄物(コーン残渣)も規制するので、食品や飼料に紛れ込まないように規制するつもりだ。」という。〔7〕

 

 しかし、バイオ企業でさえ農務省の規制が食品を保護するのに十分であるという確信は持っていなかったようだ。 2002年10月22日、バイオテクノロジー産業組織〔BIO〕流通組合は、コーンを生産する州でのバイオ医薬実験を自主的に禁止する企業もあることを発表した。 BIO事務所はこの自主規制がどれ位続くのか言えなかったし、全てのバイオ医薬企業がBIOの会員でもない。 アイオワのようなコーン生産州から選出され議員は、州の農民が、バイオ医薬が絶対に必要であるから禁止にはあくまでも反対するといっている〔9〕。

 

 食品業界は、BIOの自主規制が国の食品供給を保全する確信がもてないため、食用作物を使ったバイオ医薬の実験を止めさせる新たな法律を作るよう議会でロビー活動を続けた。 食品加工業者は、バイオ医薬企業がタバコのような食用以外の作物を使うことを望んでいるが、バイオ医薬企業は現実的ではないという。 「我々はコーンを保護したい。 心配だ。」とコーンを使うバイオ医薬企業に何百万ドルも使っているアイオワ州のシーダーラピッヅにブレックファーストシリアル工場を持つクエーカーオーツのペプシコ広報マーク・ドリンスは話している〔9〕。(ウォールストリート・ジャーナル)

 

 食品加工業界は、2年前遺伝子組み換えスターリンクがなんらかの原因で4300万ブッシェルのコーンに発見され、加工食品300種類以上の回収を余儀なくされ4億ドル以上の費用を払う羽目に陥っている〔7〕。 「この業界では、スターリンクUは受け入れられないことで一致していると思う。」と話すのは、避妊コーンを発明したエピサイト薬品のバイテク部長マイケル・H・ポーリィ〔9〕。

 

 しかし、スターリンクUは2002年11月に発生した。 ワシントンポストは11月13日に、政府職員がネブラスカの大豆数十万ブッシェルが、微量の豚の下痢予防ワクチン用バイオ医薬コーンで汚染されていることを発見したと報じている。 犯人はプロディジーンだった。 更に次の日、農務省役人は、第二のプロディジーン過失である豚の下痢予防ワクチンを生成する組み換えコーンがアイオワで155エーカーのコーンを汚染していると発表した。 プロディジーンの社員は、折り返し電話してくることを断って代わりに記者発表し、「複雑な問題の対応を検討している。」と伝えている〔10〕。 食品に紛れ込んだバイオ医薬コーンはなかったが、重大な影響の起こる危うい事態だった。

 

 アメリカ食品製造団体のステファニー・チャイルドは、「これは重大なミスだ。 自分たちの作物や研究、信頼を失いかけただけでなく、全米の食料の信頼を失墜しかねない。」ことだという〔11〕。

 

 バイテク業界が波乱の2002年の幕を綴じようとしているとき環境庁は、ハワイにあるバイオ医薬企業2社がバイオ医薬規正法を破ったとして罰金を課したと発表した。

 インディアナポリスのダウ・アグロサイエンスLLC社は、商業作物をバイオ医薬作物の汚染から適切に防がなかったとして8,800ドルの罰金に処され、デュポンの事業部パイオニア・ハイブレッド社も同様の違反で10,000ドルを課されている。 パイオニア・ハイブレッドの広報担当は、「バイオ医薬規制を誤解していた。今後は良く理解するよう約束します。」と伝えている。

 

 

引用文献

[1] Andrew Pollack, "Cloned Cows are Engineered for Faster Cheese Production," NEW YORK TIMES Jan. 27, 2003, pg. unknown.

[2] Justin Gillis, "Cloned Food Products Near Reality,"WASHINGTON POST Sept. 16, 2002, pg. A1.

[3] Justin Gillis, "Panel Identifies Gene-Altered Animals' Risk,"WASHINGTON POST August 21, 2002, pg. A4.

[4] Andrew Pollack, "Rebellious Bodies Dim the Glow of 'Natural'Biotech Drugs," NEW YORK TIMES July 30, 2002, pg. F5.

[5] Robin McKie, "GM Corn Set to Stop Man Spreading His Seed,"

LONDON OBSERVER September 9, 2001, pg. unknown.

[6] Scott Kilman, "Food, Biotech Industries Feud Over Plans for Bio-Pharming," WALL STREET JOURNAL Nov. 5, 2002, pg. unknown.

[7] Aaron Zitner, "Fields of Gene Factories," LOS ANGELES TIMES June 4, 2001, pg. unknown.

[8] Paul Elias, Associated Press, "Isle Corn May Help CompanyMake Drug for Herpes," HONOLULU STAR-BULLETIN July 11, 2002, pg.unknown.

 [9] Justin Gillis, "Biotech Industry Adopts Precaution,"WASHINGTON POST Oct. 22, 2002, pg. E1.

[10] Justin Gillis, "Soybeans Mixed with Altered Corn,"WASHINGTON POST Nov. 13, 2002, pg. E1.

[11] Elizabeth Weise, "Biotech Corn Mixes With Beans," USA TODAY Nov. 14, 2002, pg. unknown.

[12] Justin Gillis, "EPA Fines Biotechs for Corn Violations," WASHINGTON POST Dec. 13, 2003, pg. E3.

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