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日本有機農業研究会 久保田裕子さんより
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問われる第二世代GM米
スギ花粉症GM米の栽培実験、反対の声に全農が中止
神奈川県有機農業研究会
日本有機農業研究会誌『土と健康』7月号より
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■屋外の栽培実験を中止
全農は、5月26日、神奈川県平塚市の全農営農・技術センターで計画していたスギ花粉症緩和遺伝子組換え(GM)米の隔離圃場試験の中止を発表した。これまで全農は、「遺伝子組換えは使わない、安全・安心な農産物の生産を行う」と言明してきただけに、隔離圃場での試験とはいえ、全農が主体となった遺伝子組み換えイネの栽培試験は、裏切りにも似た行為だ。今回、全農は、「今年度の栽培試験の中止」であって、遺伝子組み換えイネの開発を止めるとは明言していない。今回の中止の理由も「風評による農業等への影響を懸念する声が強いことなどから」というものであり、正面切って消費者・生産者からの反対とは言っていない。
■スギ花粉症緩和GM米は「医薬品」入り
このスギ花粉症緩和GM米は、スギ花粉症を緩和するとの触れ込みで、独立行政法人・農業生物資源研究所が中心になり開発してきた。全農は2000年からこの開発に参加し、今年度は隔離圃場での栽培試験を担当した。
これは、スギ花粉に由来する遺伝子を人工的に米の遺伝子に組み換えて導入し、人工的なペプチド(ブドウ糖に分解する前段階のタンパク質)7Crpをつくることによって、スギ花粉症を起きにくくするというもの。いわゆる免疫療法といわれるもので、そのペプチドが免疫細胞の活動を抑制したり、免疫細胞自身が自死するように働いて、スギ花粉症が緩和されたり予防効果があると期待されている。つまり、米の中にクスリが入っているようなものだ。ただし、この療法は、まだ、確立したものではなく、しかも、免疫細胞に働きかけることになるので、それがどのような影響を及ぼすのか不安の声が出ている。
すでに昨年九月、厚労省は、このような米は「特定保健用食品」としては認められないと言明している。クスリを含むようなものは、遺伝子組換え食品としての安全性評価の対象としてはこれまで想定されてこなかったからだ。だが、農水省や生物資源研究所、全農などは、注射に代わる方法としてこのような米を食べることは消費者にメリットがあるとし、盛んに「健康機能性」を強調している。「特定保健食品」として2007年度から離島での生産を計画しているとの報道もなされている。
■栽培中止求める約7万人の署名
5月8日、平塚市にある全農の営農・技術センターで説明会が開かれた。地元平塚や近隣の農家、消費者、生協関係者、研究者など約120名が集まり、口々にそれぞれの立場から反対する理由を訴えた。この中で、全農は計画の実施を繰り返すばかりで、参加者の理解を得られるものではなかった。また、全農は、「もちろん、生産者団体なので、茨城の谷和原村で起こったような、あのような栽培(除草剤耐性遺伝子組換え大豆の作付)については、我々は、JAグループとして、断固、反対している」と述べる一方、研究だけかと問われると、「実用化できるものなら、したいということだが、あくまで、研究開発」と、何とも歯切れが悪く矛盾するものだった。
説明会の後、有志が集まり「スギ花粉症GMイネに反対する会」を作り、農水大臣、全農、農業生物資源研究所の三者への「スギ花粉症予防遺伝子組み換えイネの実験栽培中止を求める署名」に取り組んだ。10日足らずの間に、25団体(構成団体317団体、構成員約67700人)、個人署名1556人、ざっと7万人近い反対署名が集まった。この署名は、5月28日に行われた院内集会の席で各々に手渡された。また、8日以降、各自が各様に、反対活動を行った。平塚市への働きかけ、神奈川県への問い合わせ、全農への説明要求や見学など、など。そうしたなかで、平塚市、神奈川県も、全農に対して「栽培中止」を呼びかけた。
■隔離圃場での栽培は中止、だが、撤退とは明言せず
こうした栽培試験反対の声に屈したのか、当面の風当たりを避けようとしたのか、5月26日になって全農は、ホームページ上に「遺伝子組換えイネの隔離ほ場試験の中止について(お知らせ)」と題して栽培中止を公表した。中止の理由も「風評による農業等への影響を懸念する声が強いことなどから、関係機関と協議のうえ中止することとしました」というもので、遺伝子組み換えイネの開発自体から撤退するとは明言していない。予定していた屋外の隔離圃場での栽培をとりやめたというだけである。直後の5月28日に、農林水産省・生物資源研究所、全農と、「スギ花粉症GM米に反対する会」などの交渉が行われたが、研究開発そのものから撤退したわけではない。今年度は、併設されたガラス温室で、研究開発を続けるための動物実験のエサとなる組み換えイネを栽培するそうである。これからも監視の目を離せない。