GE米がもたもたしている間に有機米が急成長
アレックス・ジャック
訳 河田昌東
この春(訳注:2,001年5月)テキサスにおける遺伝子組換え米の世界最初の収穫の埋葬に引き続き、新たな遺伝子組換え米の導入はしばらく頓挫している。同時に、アメリカの米産業における低迷は以前よりも有機米を魅力あるものにしている。
アヴェンテイス・クロップサイエンスは世界最初の商業用に生産された遺伝子組換え米、リバテイー・リンク(以下LL米)を約500万ポンドも2,001年5月に廃棄したが、それは除草剤耐性米が日本やその他の国々で認可されないのではないか、と懸念したためであった。もっと切実な理由は、リバテイー・リンク米が、アメリカのコーンの供給に問題を起こしたスターリンクに反対してとられたような法律問題のターゲットになるかもしれない、というアヴェンテイスの恐れからであった。GE米事件に続き、この巨大なフランス・ドイツのバイテク企業はGE食品ビジネスから全面的に手を引くことを決定し、このクロップサイエンス部門をドイツの巨大製薬会社バイエル社に売却することにした。バイエルはスターリンク・コーン事件による17億ドルの損害を引き受ける、という。バイエルはLL米を再度導入するかどうか明らかにしなかったが、再挑戦の可能性はある。
組換え米の研究自体はアメリカ以外の場所で、こうした事件に惑わされること無く継続している。中国はこの夏、何種類かのGE米品種を実験的に開発したと発表した。バイテク産業は遺伝子組換えゴールデン・ライスを看板作物として後押しし続けており、テレビ番組や、ニューヨーク・タイムス、その他の出版物に全面広告を出して、アメリカの人々にGE作物を売るためのキャンペーンに250億ドル(訳注:約三兆円)の一部を使っている。
国連の専門家パネルは、世界中の賢明な農民達がGEライスやその他の遺伝子組換え作物に反対のデモをしていているにもかかわらず、世界の貧困にたいするバイオテクノロジーの恩恵をとく報告書を出した。合衆国議会では、GE問題に関する最初の投票がこの夏に行われた。議会は、デニス・J・クシニッチ議員(オハイオ州選出、共和党、アンバーウエーブ会員でもある:訳注 アンバーウエーブはアメリカの有機米運動団体)と、ピート・デファジオ(オレゴン州選出、共和党)が提案した、GEサーモンの認可を1年間凍結するという議案を279対145票で葬り去った。2対1で負けはしたものの、GE反対派は強力なバイテク・ロビーに対して短期間に大きな共闘グループを結成した。これにはGE食品の表示義務化を求めるクシニッチ議員の法案には以前は賛成していなかった87名の賛同者も含まれる。最近のABCテレビの世論調査では、アメリカ人の93%はGE食品には表示すべきだと答え、57%はGE食品を買わない、と答えた。また、女性の3分の2は「GE食品は安全でない」と感じている、という結果であった。
リバテイー・リンクの危険性
アンバーウエーブは、はじめて収穫したリバテイー・リンク米をアヴェンテイス社が廃棄すると言う決定を歓迎した。記者発表では、草の根の団体はGE米、GE麦、その他の組換え穀物の生産を一時停止するように呼びかけ、アメリカの主要な食品産業に対して、GE穀物が人間の健康や環境に与える影響に関して十分な研究が行われるまではGE原料の使用を控えるように呼びかけた。この記者発表は米産業その他バイテク企業のサイトを含む広範なインターネットサイトにも配布された。 その呼びかけの中で、アンバーウエーブは、GE米が在来種や有機米を汚染し、潜在的に有害な生物を環境中に放出し、農民とその家族に被害をもたらし、田んぼに棲息する鳥や動物その他の野生生物に危害をもたらすものである、と宣言した。
アメリカのFDAによって人間の摂取が許可されたとしても、リバテイー・リンク米はグルフォシネートという、これまで米には認可されていなかった除草剤で処理されている(コーンや綿、ナタネには認可されている)。アヴェンテイスはEPA(環境保護庁)によってこの除草剤が認可されるまでリバテイー・リンク米を貯蔵しておくことは可能だったが、外国への責任の観点からそれを見合わせた、と述べている。5月21日、95台のトラクターに引かれた合計2272トンの積載量のトレーラーの隊列が、ヒューストン郊外のアルヴィンの埋立地にこの米の廃棄を開始した。全部で4000万食分の組換え米が地中深く埋設された。「アヴェンテイスは環境に放出しない、という正しい決定をしたが、テキサスのリバテイー・リンク除草剤の大洪水という重大な環境問題を発生させた」とアンバーウエーブは指摘している。「核廃棄物同様、汚染した作物も適切に処分されなければならない。」
アメリカでのはじめてのGE米生産に伴い、アンバーウエーブはLL米に関する最初の民間の科学的研究をカナダのオンタリオの遺伝学者ジョー・カミンズ教授に委託した。彼は数多くのGE作物に関する著作があり、GE米が周辺の植物を汚染し、グルフォシネート除草剤が実験動物で行動異常をもたらす脳障害を含む出産障害、口蓋裂、骨格異常、流産、不妊などをもたらすことを知りながら、アメリカ政府は無分別にリバテイー・リンク米を認可した、と報告している。
ブラジルではLLライスは環境に悪影響があるとの理由で禁止されている。GEに関する研究は世界中で強化され、GEライスの研究開発は継続されている:アーカンサス大学は6月に、Wellsとして知られている高収量の長粒米品種の特許を取った、と発表した。大学当局者は、新しいGEライスを作りたいバイテク企業にこの新しい品種のライセンスを与える、といっている。アーカンサス州では150万エーカーの農地でアメリカの米の生産量の40%以上を作っている。日本の農水省はこの春、モンサントの除草剤耐性ライス3品種を認可した、と発表した(訳注:開放圃場での栽培認可。) 次のステップは商業的に販売される前の安全性評価である。アメリカの民間調査グループ、消費者擁護機関であるPIRGは、米が企業や大学で試験すべきトップ作物の一つだと報告している。1987年から2000年にかけて野外試験の行われた5個の主要な作物にはコーン、ジャガイモ、大豆、トマト、綿がはいっており、それに続いてメロン、カボチャ、タバコ、ナタネ、麦、ビーツ、米がある。
中国は7月に2008年までに収穫量が倍増する「スーパー・ライス」を開発する、と発表した。この高収量品種はコーンの遺伝子を米に導入して作られた。中国の南東Zhejiang
省では、他の科学者グループが主要な害虫であるpyralid蛾に抵抗性を持つGE米を開発した、と発表した。中国南部のHainan
島では第3の研究チームがトマト、ナス、胡椒を海水で育てるように遺伝子組換えし、塩水で育つ米が次のターゲットだと言っている。
汚染の広がり
夏の間に、在来種と有機栽培作物の遺伝子汚染は広がり続けた。昨年、アメリカの食品供給に非意図的に入りこんだ未承認のGEトウモロコシ、スターリンクは、イエロー・コーンにも、ホワイト・コーンにも入っていることが判明した。いくつかの有機食品認証団体は、生産者や消費者にたいし、もはや有機認証をすることが出来ない食品会社も製品にトウモロコシを使わず、他の穀物に切り替え、オーストラリアはアメリカからは有機コーンをもはや輸入しない、と警告を発した。
カナダでは、ナタネのGE汚染が有機栽培ナタネ油市場を台無しにし、北アメリカ中の大豆農家も同様な汚染が増えていると報告している。先の記事でも触れたとおり、この春ウオールストリート・ジャーナル紙がスポンサーの民間研究所は非GEと表示された大豆とトウモロコシで作られた自然食製品の80%が汚染していると報告している。この夏、ニューヨーク・タイムスは一面トップの記事でGE汚染はあまりにも拡散してしまっていて,バイテク作物を規制することは事実上不可能ではないか、と書いた。「時間がたてば市場にはGE作物があふれてどうにもならなくなるのを企業は期待している」と食品産業のコンサルタントであるドン・ウエストファールはトロント・スター紙に語った。
バイオテクノロジーの限界
積極的な面をみれば、合衆国の主な食品基準機関は、スーパーで出まわっているGE食品に、アレルギー反応のテストを含むGE食品の安全性を規制する国際的なガイドラインが作られることに同意している。(EPA:環境保護庁、の科学諮問委員会はこの夏スターリンク・コ―ンがアレルギーを起こすかどうかについて十分な証拠がない、としてスターリンクの食品への流通禁止を解除しなかった。) 国連も世界の農作物の多様性を守るために開発業者にたいし、公共の種子銀行にアクセスするに当たって義務的な費用を負担させるよう求める画期的な合意を取り付けた。この合意は農家が、保存している種子を自由に保存し、使い、交換し、売買する必要性を強調している。知的所有権に関して激しく論争のあったテーマは11月のFAOの会議まで延期された。この最前線では、合衆国の特許商標庁はバスマテイ米に関して特許上矛盾があるとして16の申請のうち13を排除した。テキサスのライステック社は、米の遺伝子の構造に関して特許を取り、世界の販売権を独占しようとしたが、バスマテイ米は何千年も前からアジアで栽培されてきたものだと主張するインド政府に阻まれた。
GE食品と在来植物を専有しようとする動きに対する世界的な反対が増えるにつれて、GEゴールデン・ライスの開発者たちは資金獲得に支障を生じはじめた。今年はじめ、ゴールデン・ライスは供給が予定されているビタミン欠乏症の子ども達にビタミンAの一部しか与えることが出来ず、(これだけでビタミンAを取ろうとすれば)母親や子ども達は毎日何キログラムも食べなければならない、という批判が出された。共同開発者の一人のピーター・ベーヤーは6月にサンヂエゴで行われたバイテク企業団体の会議に個人的な投資家を探しにやってきて、ビル・アンド・メリンダ・ゲーツ財団にアプローチした。このとき、数千人のデモ隊がGE食品に抗議して通りを埋めたとき、社会政策問題の教授で「バイオジャステイス」のメンバーでもあるブリアン・トーカーの次のような主張が新聞紙上で大きく取り上げられた。 「ゴールデン・ライスが主張するメリットは完全にでっち上げである」。 「小さな地球のためのダイエット」の著者のフランシス・モーア・ラッペはロスアンジェルス・タイムスの人気エッセーで、バイオテクノロジー反対の論陣を張っている。「飢餓は食糧不足ではなく民主主義の欠如によってもたらされている。従って、それは新しいテクノロジーが仮に安全であったとしても問題を解決できない。飢餓は市民が民主主義を打ち立て、その政府が民間企業にではなく市民に責任をもつようになって初めて解決するのだ」と彼は主張する。
有機米への取組み
GEに関する議論が渦を巻いている中、米の生産者達は自ら資金集めをはじめた。「合衆国の米産業は、農民や精米業者、彼らが生活しているコミュニテイー、そしてすべての戦う人々と共に自らの命のために戦う」
これは初夏の記者会見で全米ライス協会(USAライス)が発表した声明である。近年国民の健康志向で米の需要は伸びているのに、精米業者の5つに1つは廃業や破産に追い込まれ、あるいは売りに出されている。
夏が過ぎれば、米は主要な対外政策のテーマになる。合衆国の米の約半分に当たる270万トンが毎年輸出され、20%は食糧援助物資として海外に出される。これまで、合衆国政府は「付加価値」をつけて送る(精米など)ことを支持してきたが、今は未加工米のままの輸出に移行しようとしている。 国内の米生産者の80%と、ほぼ100%の精米業者を代表する全米ライス協会は、未加工米(rough rice)の海外への輸出をすれば、相手国が自前で精米したり外国の米を加工する施設を作ったりしなければならない、と主張している。テキサスとルイジアナでは精米能力は20-30%にまで落ち込んでおり、通常は保守的な政治家までが
合衆国政府に対して、40年前にカストロ政権が誕生するまではアメリカの最大の米輸出相手だったキューバへの貿易禁止処置を緩和するよう訴えている。一方、カリフォルニアでは、エネルギー危機が米の灌漑費用を高騰させ、農民を新しい職場探しに追いやっている。サクラメント・バレーでは稲藁を処理する大規模な工場建設計画が進行中で、これは低コストで省エネルギーの建設資材として、建設産業が次第に利用しようとしている。フェアフィールドでは、NREワールド・ベントウ社が冷凍したカリフォルニアの有機米で箱入りランチ(弁当)を作り、毎日7000食を日本に出荷している。 O弁当(Oは有機米の意味)の出現は外国産米の輸入がデリケートな問題だった東京で波紋を巻き起こした。日本は、弁当が大幅な助成金による国産米の半額で輸入される米で作られるので、この問題を次回のWTOの会議に持ち出す恐れがある。カリフォルニアの有機米の大手の生産者のルンドバーグ農場がこのお弁当の米を供給しており、NRE弁当社は市場はかろうじて支えられている程度だといっている。同社の主契約者であるJR東日本は一日12000個の弁当を売り上げているが、学校や病院、その他の需要は数百万個もあると予想している。
他の自然食ニュースで、合衆国農業研究サービスは小麦粉やジャガイモ澱粉と比べて油を70%以下しか吸収しない米粉で作るドーナッツやフレンチ・フライの開発を続けており、あるカナダの会社は、甘酒で味を付けた新たな有機米飲料の生産ラインを増設する、と発表した。 このように、自然食や有機食品の発展は多くの政治的、経済的、そして社会的な問題の究極的解決をもたらすだろう。それは人間の健康に有益だけでなく地球とビジネスにとっても有益である。
この論説の著者アレックス・ジャックはアンバーウエーブ(アメリカの有機米運動団体)代表で教師、ダイエット・コンサルタント、健康や環境に関する著作25冊以上がある。この論説はアンバーウエーブの機関誌の秋号に掲載されたものである。
Organic Consumers Association
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