米国農務省

経済調査サービス(ERS)

2002年4月11日

訳 河田昌東

バイオテクノロジー採用とその生産性に与えるインパクト

生産コスト削減と高収量、農薬使用量減少などを期待する農家に押されて、アメリカの農家による遺伝子組換え作物(以下GM)の採用は劇的に伸びた。1999年度、世界全体で栽培されたGMの面積は9800万エーカーで、前年の98年に比べて43%の伸びである。そのうちアメリカが占める割合は72%である。しかしながら、コストや収量、農薬使用量における実際の利益は作物や導入された形質によってばらつきがある。

除草剤耐性遺伝子を持つ作物は、かつては雑草と共に枯れた作物を、除草剤でも死なないようにした。従って農家は除草に色々な除草剤を選ぶことが出来るようになった。最も多い除草剤耐性作物は、広葉タバコやスゲなど多くの雑草の効く除草剤のグリフォサートに耐性をもつラウンドアップ耐性作物である。グリフォサート耐性は綿、コーン、大豆、ナタネなどに組み込まれている。その他の除草剤耐性としては、グルフォシネート・アンモニウムに耐性のリバテイー・リンク(LL)コーンや、ブロモキシミルに耐性のBXN綿などがある。

除草剤耐性作物の採用は特に急速であった。1996年に初めて農家が利用できるようになった除草剤耐性大豆は、1997年には大豆栽培面積の17%に伸び(主要な州での調査)、2,001年には全体の70%に達した。除草剤耐性綿は1997年には10%の作付だったが1998年には28%、2,001年には56%に伸びた。

土壌細菌のバチルス・チュリンギエンシス(Bt)の遺伝子をもつBt作物は現在商業的に利用し得る唯一の害虫抵抗性作物である。この細菌は蝶々や蛾などの鱗羽類昆虫が食べると毒性を発揮する蛋白質を作る。Bt遺伝子をもつ作物はこの毒素を生産し、植物体にこれらの昆虫に対する抵抗性を与える。Btはいくつかの作物に組み込まれているが、最も多いのはコーンと綿である。Bt綿はタバコの青虫、ボールワーム、ピンク・ボールワームなどの駆除に効果的である。Bt綿の採用は急速に膨らみ、1996年の15%から2,001年には37%にまでなった。

Btコーンはアワノメイガへの抵抗性を与え、程度は低いが根切り虫、南西部アワノメイガにも有効で、わずかながら芯食い虫にも効く。環境保護庁(EPA)は1995年8月にBtコーンを認可したが、その作付面積は1996年の1%から1998年には19%になり、1999年には約26%のピークに達したが、2000年と2,001年には19%にダウンした。減った原因はあまりわからないが、害虫が少なかったことや輸出に何か不都合があったからかもしれない。

農家がGM作物を採用する要因

 

遺伝子組換え綿や除草剤耐性大豆を採用した農家の大部分(調査したGM農家の54〜76%)は、「雑草や害虫の駆除の向上で収量が増える」ことを第一の目的にしていた。「農薬コストの削減」(19〜42%)が2番目の理由であった。その他の理由は色々で、作付の融通が利くとか環境に優しい、などが3〜15%である。

 

これらの結果は期待されるメリットが農業分野における新技術採用にポジテイブな影響を与える、という他の調査結果を確認するものである。従って、面積当たりの収益増又はコスト削減によって期待される収益の増加がGMの採用を進めると考えられる。農業における害虫・雑草駆除の目的が作物収量のロスを減らすことであれば、こうしたロスを減らす技術開発が大きな動機になる。

遺伝子組換え作物の収量に与える影響

遺伝子組換え作物の収量に与える農場レベルでの影響を推定するのは困難である。その理由は、影響が作物毎に違い、採用される技術でも変わるからである。収量はまた土壌の肥沃度、雨量、気温など、病害虫にも大きな影響をもたらす地域的な要因にも依存する。

GM作物の利益の推定に伴うもう1つの問題は、自己選択問題である。即ち、農家はランダムに二つのグループ(GM採用農家と不採用農家)に分れるわけで無く、GMを採用するかどうかは自分だけで決めるからである。それで、採用者と非採用者はシステムとして異なっていて、その違い自身が生産力に反映され、単純に採用者かどうかの違いによらない混乱があるからである。

GM作物は収量の潜在能力を高めるものではない。実際、除草剤耐性遺伝子を持つ品種が使われた場合収量は減るかもしれないし、害虫抵抗性遺伝子をもつ品種が最も高い収量をもたらす品種とは限らない。しかしながら、GM作物はある種の病害虫から植物を守ることで非GM品種と比べて収量ロスを減らし、特に病虫害が蔓延するときには有効である。

こうした効果は特にBt作物で重要である。Btコーンが商業的に導入される1996年以前、アワノメイガは化学殺虫剤を使っても部分的にしか退治できなかった。農薬利用の経済性はいつも最適とは限らず、タイムリーな使用は難しい。そのために、農家はしばしば、殺虫剤の費用よりも大きな収量ロスにであってしまう(作物の生育程度にもよるが、植物体当たり3〜6匹のアワノメイガで)。

ERSは1997年の調査データを使ってGM作物採用の効果を評価した。除草剤耐性の大豆と綿、そしてBt綿をそれぞれモデルにした。いずれのモデルでも、病害虫被害のレベル、他の病虫害対策や除草作業、作付ローテーション、耕作、自己選択などの因子が統計的に処理された。GM採用に影響を与える地理的差異は土壌、気候などが変動要因として組み込まれた。

こうしたモデル評価の結果は弾性値で説明され、現行レベルのテクノロジー採用による小さな変化に対応した特定因子(収量、農薬使用、利益)の変動と関連ずけられる。この結果は、より多くの生産者がGM技術を採用した場合の農業部門全体に対する総影響として表現される。即ち、典型的な農家が自己の農場でより多くのGMを採用した場合どうなるか、ということである。経済学における多くの場合同様、定量的なモデルで推定される弾性値分析は、現在のGM採用レベルから僅かに(例えば10%以下)変化した場合にしか適用できない。

この研究結果は、除草剤耐性綿の採用は有意な収量増加をもたらしたことを示している。除草剤耐性綿を採用した場合の収量弾性値は+0.17である。即ち、もし除草剤耐性綿の採用が10%増えれば、収量は全体として1.7%増加する。同様に、アメリカ南西部におけるBt綿の採用が10%増えたために収量は有意に増加した(弾性値は+0.21)。他方、除草剤耐性大豆の採用が増加しても、収量は(有意ではあるが)僅かしか増えなかった(収量弾性値は+0.03)。

農薬使用に対するGM作物の効果

遺伝子組換え品種を採用し、あるいは採用しなかった生産者の農薬使用量に関するデータは利用可能であるが、GM採用以外の多くの因子が農薬使用量に影響を与え、単純な比較を難しくする。加えて、GM採用に伴う農薬の混合の変化が分析を複雑にする。何故なら毒性や環境での持続性のような特性が実際に使われた農薬毎に違うからである。GM作物採用による農薬使用量の変化に関して、3種類の統計手法で得られたERS分析からいくつかの視点が利用可能である。

(1)同年差異:1997年または1998年について、例えばある技術、作物の種類、地域、などについてGM採用者と非採用者の間の平均的な農薬使用量を推定する

(2)年度比較GM作物採用増加とGM採用者と非採用者の平均的な農薬使用量に基づき、1997年と1998年の農薬総使用量の差異を推定する

(3)回帰分析:1997年と1998年の農薬使用量の差異を、GM作物採用以外の農薬使用に影響を与える因子についても制御する経済学モデルを使って推定する

GM採用による農薬使用面積・使用量の変化は3種類の推定方法で−680万から−1900万にまでばらつく。有効成分の重量の減少は最もばらつきが大きく、1997年の30万ポンド(同年比較分析)から820万ポンド(年度比較分析)まで開きがあるが、大雑把に農薬使用量は3%減少したといえる。この結果はGM採用者と非採用者の間の農薬使用量の統計的に有意な差異だけに関するもので、特定地域の多くの比較的小さな差異は含まれていない。従って差異は過小評価されている。

有効成分の重量の比較は、単に一ポンドの二つの有効成分が人間と環境への影響に関して同等なインパクトを持つ、という前提に立っている。しかし、350種類以上の有効成分は重量当たりの毒性や環境での持続性に大きな開きがある。

例えば、除草剤耐性大豆を採用したとすると、それ以前使っていた除草剤をグリフォサートに置きかえることになる。回帰分析の結果では、推定540万ポンドのグリフォサートが720万ポンドのイマゼサピル、ペンデイメタリン、トリフラリンなどの他の合成除草剤と置き換わった。グリフォサートは環境持続性が47日で、それと置き換わった他の除草剤の60日〜90日に比べて短い。グリフォサートに置き換わった除草剤は、EPA(環境保護庁)の資料によれば、人間に対する発病リスクが3.4倍から16.8倍高い毒性がある。従って、遺伝子組換えで大豆に除草剤耐性を与えることで、少なくとも3倍毒性が高く、約2倍環境持続性の長い他の農薬をグリフォサートで置き換えたことになる。

河田訳注:

これはアメリカ農務省の遺伝子組換え作物の収量と農薬使用量に関する何度目かのレポートである。これまでとの違いは、GM作物の収量に関して大幅に控えめな評価になったことである。これまで、ベンブルック報告などで除草剤耐性大豆などの収量低下が言われる度に農務省はこれを激しく非難し、遺伝子組換えの利点を擁護してきた。そうしたいきさつから見れば、ようやく冷静な判断になりつつあるという印象を受ける。様々な理由をつけて、収量の比較推定が困難だといっているが、ベンブルック報告などではここで指摘されている、地域特性、気象条件、個々の農家の違いなどによる誤差をキャンセルするために、各州立大学における大規模圃場試験データを基にGMと非GMを比較し、GM大豆の収量低下を明らかにしたのである。除草剤耐性大豆の収量増が0.3%程度(弾性値で+0.03)というのは如何にも苦しい言い訳といわざるを得ない。

個別には収量減少もありうること、遺伝子組換えがそもそも収量増を保証するものではないこと、を明言したことは1歩前進である。

ここで使ったデータが1997年の古いデータで、まだ広範囲に除草剤耐性大豆が採用されていなかった時期のものである上、弾性値分析が微小な変化にしか対応出来ない限界があることは自ら述べている通りである。1997年以降の大幅なGM大豆増加における別の分析が必要である。

農薬使用量の分析でも、分析方法で年間30万ポンドから820万ポンドまで減少に開きがあることは、そもそも分析方法の信頼性を疑わせる。グリフォサートに大幅に置き換わったことが、如何にも良いことのように評価しているが、単一の農薬の大幅な利用による耐性雑草の問題や、非ホジキン性白血病の増加などグリフォサートの慢性的影響には触れず、急性毒性のみで安全性を評価するなど、現状肯定の自己満足に満ちたコメントではある。こうした見解はブッシュ政権にモンサント関係者が居ることと無関係ではない。

 

 

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