遺伝子組換えいらないキャンペーン・ニュース原稿

アメリカの意図を先取りした危険な遺伝子組換え体の認可

名古屋大学理学部助手 河田昌東

 

MON863は安全無視の政治的認可

12月17日、厚生労働省の薬事・食品安全審査会は新たに3種類の遺伝子組換え体を承認した。日本モンサント社が申請した害虫抵抗性トウモロコシMON863とノボザイム・ジャパン社が申請した食品添加物二点である。これが正式に発効すれば、認可品目は作物で40品目、食品添加物で9品目となり、EU全体の作物11品目、医薬品と添加物7品目と比べ3倍近い遺伝子組換え体が国内で流通することになる。

特にMON863はこれまで認可されたBt作物と異なり、この遺伝子Cry3Bb1が作る殺虫蛋白質は、いわゆる根きり虫など土壌昆虫の幼虫を殺す目的で開発されたもので、環境への影響はよりいっそう深刻になる。こうした懸念からアメリカでもまだ認可されていないが、安全審査会はアメリカでも昨年12月中には認可されるとの見こみから一足早く承認した。正式に認可されれば日本が世界で最初に認可することになる。また、アメリカでの栽培もまだ未認可で、今年4月頃には認可される見とおし、との意見が付されており、今回の認可がアメリカにおける今年の作付を予想し、未認可トウモロコシの輸入問題発生を事前に押さえようという極めて政治的な色彩の濃い認可といえよう。

 

必要悪の抗生物質耐性マーカー遺伝子

良く知られていることだが、遺伝子組換えに当たっては抗生物質耐性遺伝子の利用が避けられない。理由は二つある。第一に、分離した目的の外来遺伝子を増やすために、大腸菌の中のプラスミドと呼ばれる抗生物質耐性遺伝子を含んだ自己増殖能力をもつミニ遺伝子に組み込む必要がある。目的とする外来遺伝子はプラスミドの一部として増殖されるのである。第二に、こうして増やしたプラスミドを宿主の植物や細菌に挿入し、目的遺伝子が染色体に組み込まれた宿主細胞だけを選択するために、抗生物質が必要になる。それで、抗生物質耐性遺伝子が通称、選択マーカーと呼ばれるのである。除草剤耐性遺伝子が組み込まれた場合は、この二段目の選択に除草剤を使うことが出来、抗生物質耐性遺伝子は必要無いこともあるが、一段目の増殖にはどうしても必要である。

 

安全審査があえて無視している問題点

安全審査では組換え体の中で挿入された遺伝子が発現され、作られる蛋白質に毒性やアレルギー性がないかどうかだけが問題とされる。勿論それは大切である。しかし、本質的な問題は別のところにある。それは、組換え体細胞のDNAが体内に生息する細菌などと遺伝子のやり取りをし、口腔内や腸内の常在細菌自体が抗生物質耐性になる危険があるということである。遺伝子の水平伝達と呼ばれる「種の壁を越えた遺伝子伝達」は、専門的には必ず起こりうると考えられ、WHOなども出来るだけ早く技術開発をして抗生物質耐性遺伝子の利用から手を引くように勧告している。さもなければ、病気になっても抗生物質が効かない、という事態が起こるからである。すでに起こっている、と筆者は考えている。

最近、1998年10月4日付けで英国農水省の食品安全・基準合同会議の専門家N.トムリンソン氏がアメリカのFDA(食品医薬品局:日本の厚生労働省に当たる)に提出した「企業へのガイダンス:遺伝子組換え植物における抗生物質耐性マーカー遺伝子の利用について」(草案)が明らかになった。その中で、同氏は抗生物質耐性遺伝子の水平伝達のリスクとして様々な事実を挙げている。組換え食品を食べた場合に起こる腸内細菌との遺伝子組換えだけでなく、口腔内細菌や気管内細菌も抗生物質耐性になりうるし、環境中のさまざまな他の生物にも伝播することを考えれば「抗生物質耐性マーカー遺伝子を持つ組換え体を広範に使用すれば、この遺伝子を生物圏に大量に増幅させることになる。これらの遺伝子が発現しようとしまいと、遺伝子組換え作物が大規模に栽培されたときに起こる増幅規模の大きさは、遺伝子の転移可能性が多いとか少ないとかいう議論を無意味にしてしまう」と懸念を表明している。すでに、遺伝子組換え作物の残骸による土壌細菌の抗生物質耐性獲得は証明された事実である。

 

MON863はカナマイシン耐性遺伝子を含有

これまでに認可された組換え体の多くにもすでに抗生物質耐性遺伝子は含まれているが、ここでは新たに認可される上記3品目について検討する。前述のように、害虫抵抗性MON863の目的遺伝子は鞘翅目昆虫(コガネムシなど甲虫類の幼虫)を殺すBt遺伝子(Cry3Bb1)だが、その他に選択マーカー遺伝子に大腸菌由来の抗生物質カナマイシン耐性遺伝子nptIIが使われている。その結果、MON863トウモロコシには、この二つの遺伝子カセットが発現可能な完全な形で入っており、どちらの遺伝子もトウモロコシの細胞中で発現されている。 Cry3Bb1蛋白質は70ppmとかなり高い発現量だが、nptII蛋白質は0.076ppmの検出限界以下であった。検出限界ではあっても、これを含まない非組換え体細胞は殺すから、組換え体が選択できたのである。この安全審査では、上にあげた問題、即ち抗生物質耐性遺伝子が、口腔内や腸内の細菌と組換えを起こし耐性菌になる危険性については全く無視している。

 

食品添加物のための組換え体

食品添加物として認可されたプルラナーゼ(SP962)は澱粉中の水に溶けにくい成分を加水分解し、ブドウ糖やアルコール製造過程で効率を上げるために添加される酵素である。宿主もプルラナーゼ遺伝子のドナーも同じ枯草菌の仲間だが種がことなる。プルラナーゼ遺伝子導入時に使ったプラスミドには、三種類の抗生物質、クロランフェニコール、アンピシリン、ネオマイシンに耐性の遺伝子があったが、大腸菌由来の抗生物質クロランフェニコール耐性遺伝子のみが一緒に宿主染色体に入った。しかし、この遺伝子もその後何らかの操作で「除去」され、最終的にこの組換え体には抗生物質耐性遺伝子はない。

もう一つ認可された食品添加物α―アミラーゼ(SP961)も澱粉を分解可溶化し、オリゴ糖などを作る酵素である。耐熱菌のバチルス・ステアロサーモフィルスのα‐アミラーゼ遺伝子を宿主の枯草菌に挿入した。しかし、こちらには抗生物質カナマイシン耐性遺伝子が同居している。このように、抗生物質耐性遺伝子に関しては、除去可能なものは除去するが、難しいものはそのまま、という便宜主義が横行しているのであり、安全審査においてもそれを容認していることが、いつまでも問題を解決できない原因である。

これら食品添加物は、培養した菌体から分離精製されてからいずれも澱粉加工工程で使われ、組換え体の菌自体が食用になることはない。しかし、遺伝子組換えによって宿主の他の遺伝子に影響を与え毒性のある低分子の不純物は作られていないか、精製工程で除去されているかどうか等が問題である。こうした配慮を無視した例がトリプトファン事件である。

 

 

戻るTOPへ