アメリカのBSE感染者の検査が延期に

http://www.organicconsumers.org/madcow/delayed060305.cfm
http://www.wpherald.com/storyview.php?StoryID=20050602-012435-5694r

スチーブ・ミッチェル
2005年6月2日(UPI記者)
訳 河田昌東

アメリカ政府はカリフォルニアのBSE感染の疑いのある男性死亡者の脳サンプルをフランスに送って精密検査を行うのを遅らせ、男性の家族と彼の神経科医は妨害の疑いがあるといっている。クリーブランドの国立プリオン病調査センター(NPDPSC)は昨年11月、カリフォルニア州リバーサイドの49歳の男性パトリック・ヒックスを死後診察し、弧発性クロイツフェルト・ヤコブ病と診断した。

ヒックスの家族とリバーサイドメディカルセンターのロン・ベイリー神経科医師はセカンド・オピニオンを求めた。その理由は当初の解剖がずさんで、彼らの見るところでは病状は変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)と同じであったからである。

3月31日、パトリックの妻ロニールは同調査センターに対し、パリのジャン・ジャックヒュー医師(パリのピティ・サルペトリー神経病理学研究所)に送るよう申し入れた。ヒュー医師は精密検査をすると約束した。「センター側は彼の脳組織をパリに送らなかったようだわ。何故だか分からない」とロニールはUP通信記者に言った。またベーリー医師は「ここで何が起こっているか知らないが、センターはセカンド・オピニオンの機会を認めるべきだ」という。もしヒックスがvCJDと判明すればアメリカで牛肉を食べて感染した最初の例になるはずだ。なぜなら彼はカナダに一週間行ったことがあるだけで他には海外に行った事がなく、国内で牛肉を食べていたということ以外感染のリスクがないからだ。

VCJDもBSEも国際的な貿易問題が絡んでいて政治的に微妙なテーマだ。2000年にたった一頭のBSE陽性牛が出ただけで、多くの海外の国々がアメリカから牛肉の輸入を閉ざし、業界は47億ドルもの損害をこうむったからだ。NPDPSCは当初ロニールの要求を受け入れヒュー医師に脳組織を送ると表明していた。NPDPSCのカリー・ハリスは4月18日のロニール宛てのメールで、「私はあなたの要求をすでに了解したので、以後はあなたが状況を追跡する必要はない」としていた。しかし問題のサンプルは未だにパリには届いていないのでロニールは先週ハリスにメールを送り、状況の説明を求めた。しかし回答はなく、二日後に彼女はNPDPSCの所長ピエリギ・ガンベッティからFEDEXで一通の手紙を受け取り、そこには「我々は彼の病気がvCJDでないと断言できる」と書かれていた。ガンベッティは続けて「私はヒュー医師を良く知っているので貴方が望めば組織を彼に喜んで送ります」と書いていた。このやり取りはロニールが最初に手紙を書いてから2ヶ月経ってからであった。ベイリ−医師も同様の手紙を先週ガンベッティから受け取った。

 月曜日にロニールはハリスから連絡を受け、「サンプルは今送る手続きをしているところだ。遅れたことはお詫びするがご承知のようにサンプルを海外に送るには色々面倒なんだ」とメールにはあった。これら矛盾する返事にロニールは困惑し「いったいどっちが本当なの?」といった。ロニールは自分も彼と同じ病気になるのではないかと心配している。「もし、彼がvCJDだったら次は私なの?」と言い、自分たちは結婚後22年間いつも同じ物を食べていた、といった。彼女は息子たちにも同じ心配をしている。というのは、NPDPSCは弧発性CJDは遺伝的に関係がある、といったからだ。「私には二人の息子がいて彼らも同じ目にあうの?」といい、時々夫のことを思い出してはないている。UPIの質問にハリスもガンベッティもコメントを拒否した。

 パトリックの脳サンプルをフランスに送ることが起こした騒ぎに、ベイリ−とロニールは本当に正しい診断が出るかどうか疑っている。何故ならロニールはNPDPSCが本当のサンプルをフランスに送るかどうか疑っているからだ。「それが最大の問題だわ。パットの脳組織の代わりに誰か他の人の組織を送っても確かめようがないでしょ?」
 他の研究者もパトリックがvCJDでないとするにはさらに検査が必要だと認める。エール大学の神経病理学部の外科医でCJDの専門家でもあるローラ・マニュエリディスはUPIに対して、ウエスタン・ブロットや動物への接種テスト(フランスで実施する予定だった)が必要で、これらの検査をすればパトリックの病気がvCJDか弧発性CJDか分かる、という。
 ガンベッティは手紙の中で、800固体もの解剖(NPDPSCが検査の契約をした会社)についてウエスタン・ブロットやDNAの分析をすることは出来なかったし、そのために必要な脳組織を凍結もしなかった、と述べている。「vCJDの疑いのある患者の脳についてそうした検査が行われないなら、それはほとんど無意味だ」とBSEの試験キットを販売しているスイスの会社プリオニクス社の主任分子生物学者マルクス・モーゼルもUPIに語った。「NPDPSCが行った検査だけではvCJDでないとは言えない。動物への接種テストも、誰か出来るというならやるべきだ」とモーゼルは言う。

ガンベッティの手紙では「パトリックの脳は弧発性CJDと最も良く似ていた」とかかれている。しかし、これではvCJDでないとは断定できない。最近の研究によればBSEの病原体は両方の病状をもたらすことが分かっている。ロンドンの医学研究機構のプリオン・ユニットの主任ジョン・コリンジの研究では、BSE病原体プリオンは.弧発性CJDそっくりの新たな性質をもった病状をもたらすという。「我々の発見はこの病気の診断にはより詳細なシステムの導入が必要な段階に来ていることを示している。」とコリンジは言った。

 

 

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