アグリビジネス論争

アグリビジネス・イグザミナー

アル・クレブス <avkrebs@earthlink.net>

2003年7月3日

訳 山田勝巳

 

アグリビジネスの成長に伴う食料システムの健全性と安全性に論議

 

ポール・ジョンソン(デンバー・ポスト)

 

農業の工業化は避けられないように見えた。農民、土壌、農村社会の喪失は世界で最も効率的な食料システムを作るためには小さな犠牲のようだった。一カロリーの食料を作るのに八カロリーを使う垂直に構成された奇跡。だがここにきて漸くこの食料システムの健全性と安全性が問われるようになった。米政府は食糧マーケットの公平性を守らなければならないし、公立大学は工業化農業の増え続ける懸念に対して中立な意見を出さなければならない。ここ数十年これらの組織は何もしてこなかった。

 

統合は短期間に起こった。この国の人口は1933年以来倍以上になる一方で農場の数は700万から216万に減り、このうち17万が生産の68%を構成している。農務省の今年の統計では養豚農家は1990年比で7割減となっている。 養豚独自のマーケットは養鶏同様殆どなくなっている。農業会連合によると酪農家も1992年から2000年の間に37%減っている。米カソリック司祭委員会の報告によると米国産コーンの輸出の81%と大豆輸出の65%が3社によるものだという。カンサスでは、穀物貿易が二社の手に落ちている。

 

インフレ調整後の消費者食品物価は1984から1998年の間に3%上昇しているが農家への支払いは36%減っている。アメリカ人が1999年に食べ物に支払った金額は6190億ドルだが農家に渡っているのは約1210億ドルに過ぎない。 この意味するところははっきりしている。安い外国の労働力、管理される生産者、不十分な環境規制、そして五指に入る巨大企業による市場の独占である。

 

アグリビジネスは巧みにメディアを利用し広告を出してきたが、漸くこの国の食料と農業の議論に関心が集まってきている。 我々の食料システムのもたらす結果について重大な疑問がたくさん出て来ている:肥満とファーストフードが関係しているのではないか。

家畜が牧場から薬で生き長らえる閉鎖飼育に変わるにつれて、家畜に過剰に使う抗生物質が人の病原菌に抵抗力を与えているのではないか。

 

農薬がコーンの遺伝子に組み込まれたのに何故長期的試験が行われていないのか。

遺伝子組み換え食品の健康影響はどうなのか? リビング・ダウンストリームの記者で生物学者のサンドラ・スタイングレイバーは、妊婦の羊水に検出される化学物質の長期的影響は何かを問うている、 ミズーリの農村男性の精子数が都市部の男性よりかなり少ないのは、一部研究者が疑うように農薬のせいなのか。

 

種子ビジネスと肉加工が数社の企業によって支配されるようになったが、独占禁止法違反ではないのか。政府や公立大学に対し、全ての農民、消費者、納税者のためにこれらの疑問に正面から取り組むよう求める権利がある。 農業大学、公立大学は企業の資金に依存するようになっていて研究が酷く捻じ曲げられている。だが、資金の主体は税金であるからどんな研究をするかには真剣な議論が必要だ。持続的、有機農業の公的基礎研究は他では恐らく出来ないだろう。

 

連邦政府には幅広い独占禁止の権限はあるのに、独立食品市場が無くなった事のまともな調査はここ20年一つもない。

FDAは、前企業研究者の手を借りて遺伝子組み換え食品は通常の食品と「基本的に同等」であり、長期試験も表示も必要ないとした。現在食料品店に出回っている加工食品の60%に組み換え大豆やコーン成分が含まれていると推定されている。連邦農業政策によって農場と農業資産の集中が加速されている。農務省の環境作業部会が作成した農務省支出データによると商品支出の60%が受取人の10%に渡っている。

 

連邦の研究費が化学、バイテク、集約生産方式を助成しておりアグリビジネスを潤している。投入コストを下げ、土壌の質を向上し消費支出をより多く農民に渡すような支援策は優先順位にない。国としては農業に十分支出してはいるのだろう。問題は優先順位だ。良識的農業法案であれば農業市場の集中を問題にするだろう。上院で提案されたように保全に予算を多くし、大農場の商品や(capping payment)へは減らすはずだ。そして、企業畜産を助成するかわりに地域社会や家族農業へと農村開発を方向転換するだろう。例をあげると先の農業法案に入っていた保全計画がある。これは生産圃場の保全に市民権を与えた最初の計画で、穀物の価格支持をするのではなく、土壌改良や輪作、流入水をろ過して質を改善する緩衝草地を設置する農家に報償することを目指している。

 

工業農業のまやかし(magic)や不可解(mystery)がその本当のコストを評価しようという姿勢にとって変わりつつある。工業農業が食料システムを当分支配するだろうが、経済的で環境的に健全で社会正義が保てる別のシステムが急速に育ってきている。質の高さ、持続性のある生産法による農産物への関心が急速に高まっている。ファーマーズ・マーケットの数は記録的な数に増えており、有機取引はここ10年間毎年20%で増えている。

 

公益を信条とする公共機関は、食べ物論争に積極的に参加すべきだ。消費者の支出には公正な食料システムを支えるための選択肢がなければならない。そしてアメリカ人には、2004年の議会候補が大規模農業への警鐘を鳴らすことを期待する権利がある。

 

 

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