アフリカ諸国は飢餓にも関わらずバイオ食品援助を拒否

アメリカの遺伝子組換え穀物の危険性を恐れて

ギャビン・ド・ベネジ

サンフランシスコ・クロニクル

02年8月23日(ヨハネスブルグ発)

訳 河田昌東

 

 極度に食糧援助が必要な数百万人のアフリカ人が、旱魃と飢餓に瀕している国々のリーダーたちがアメリカからの遺伝子組換え穀物を受け入れない、と言っているために飢えるかも知れない。この穀物はまさにアメリカ人が何年も食べてきたものなのに。来週始まる持続的開発のための世界サミットに集まった世界のリーダーや外交官、援助団体などはザンビアとジンバブエ政府が遺伝子組換え穀物の受け入れを拒否すると最近決定したことに仰天した。マラウイも態度を強く保留し、多くの援助食糧が港を通過するモザンビークは領海内を通過する遺伝子組換え貨物に高額な課税をするという。

 

複雑な原因

 この拒絶にはいくつかの要因があるようだ。為政者の貧しい政策から注意をそらそうとする情報操作、これらの国々の反西側感情、受入国でもしこれらのバイテク作物が栽培されたらバイテク企業から支払いを請求されるのではないかという恐れ、など。

 矛盾が拡大するにつれて、アフリカ中の1300万人の人々は飢餓により次第に死に直面する。援助当局によれば、自暴自棄になった家族は最後の家畜や番犬、極端な場合草や木の葉も食べ始めている。

国連によれば母親の栄養失調で母乳が出ず、小さな子供たちがもっともひどい影響を受けている。少なくとも1000万人の人々がアフリカ大陸ではエイズに感染し、食料の欠乏で発病者の死亡率は劇的に増加すると予想されている。

 前アメリカ外交官で南アフリカ国際研究所のジョン・ストレムローはこの問題には政治的動機がある、と信じている。「この拒否は完全に間違っていて、明らかに政治的なものだ。旱魃は自然現象だが飢餓は人災だ」と彼は言う。同氏はジンバブエにおける破滅的な経済政策とザンビア、マラウイにおける破壊と非効率がこの地域の食料自給を壊した、という。

マラウイでは今月始め、貧困対策大臣のレオナード・マングラマが遅まきながら首になった。彼は国の戦略食料のトウモロコシ166000トン分を売却し代金をポケットに入れた、と発覚したのだ。マラウイは最貧国で数百人がすでに死に、三百万人が飢餓線上にある。

ジンバブエは最近までトウモロコシを近隣諸国に輸出していたが、白人農家を追い出し、ムガベ大統領の取り巻きと与党の兵士に与え続けている。大半の白人所有の商業的農業部門はそうした追い立てで退去させられ、農家は来年のための作付けも出来ない。

 

木曜日(22日)、ジンバブエはアメリカから17000トンのトウモロコシを受け入れるが、遺伝子組換え品種による国内トウモロコシの汚染を防止するために、まず製粉する、と声明を発表した。ザンビアでは国連によれば175万人が飢餓線上にあるが、レビ・ムワナワサ大統領は最近「我々は毒物をとるくらいなら飢えを選ぶ」と宣言した。こうしたスタンスは、ヨハネスブルグのビッツウオータースランド大学の生命倫理学部に在籍するアメリカの学者、ヤソン・ロットを怒らせる。「これらの国々では汚職が充満し、自分らの不正を世界食料計画やアメリカの国際開発局の非難に利用している」と彼は言う。ロットは南アフリカに出回っている陰謀説を研究した。それは世界食料計画とアメリカの国際開発局が、自国では売れない製品を売りさばくために、アメリカのバイテク食料企業の前線として働いている、というものだ。「これらの国々の政府は、自分たちの悪政の責任逃れにこうした説に飛びついたのだ」とロットは言う。 

こうした陰謀説の多くは遺伝子組換え食品に疑い深いヨーロッパの周辺ロビー・グループに由来する。「遺伝子組換えコーンよりは飢えを選ぶ、という態度は、口うるさいヨーロッパやアメリカの学者たちの贅沢を反映したものだ。これは、このアフリカでは現実に結果をもたらす、間違った情報に基づく議論だ。ヨーロッパでは人々は選択できる。もし彼らがバイテク食品を食べたくなければ何か他のものを食べられる。人々が飢えで死んでいるアフリカでは選択の余地はない」と彼は言う。

この地域に援助物資を届けようと懸命にがんばっている人道援助団体とともに、アメリカ国際開発局主任のアンドリュー・ナチオスは木曜日に、全ての努力は、(遺伝子組換えに)恐怖を抱くアフリカ各国政府を黙らせることに向けられている、といった。「私の子どもたちと妻と私は遺伝子組換えトウモロコシを何年も食べてきたし、大半のアメリカ人もそうしてきた。付け加えるならば、大部分のカナダ人とブラジル人、アルゼンチン、中国人、インド人もだ。」と彼はワシントンで開かれた記者会見で語った。

 

アメリカは50万トンの援助を準備

 ナチオスによれば、アメリカは広範な飢餓を食い止めるのに必要な援助全体の70%にあたる50万トンを準備しており、残りはヨーロッパが引き受ける。危機の解決を遅らせているもう一つの問題は、当事国政府が遺伝子組換え畑を支配しているアメリカのアグリビジネスに払わなければならない特許料で、自国の小農が生きられない、と信じこんでいることである。これら政府当局者は、補助金農家は援助された種子の何がしかを来年植え付けるために保管するだろうし、そうなればアフリカの国々は数百万ドルの貴重な外貨を支払わなければならなくなるだろう、と言っている。この問題を懸念するモザンビークは、陸揚げする全ての組換え作物は、偶発的に種子が逃げ出さないように、密閉したトラックで飢えて打ちひしがれた、自国の飢餓の民衆のところまで 運ばなければならない、ということに固執している。こうした考え方は、遺伝子組換え作物をこの地域に導入することに反対している南アフリカのロビー・グループ、セーフエージ(SafeAge)の影響である。「これらの国々が遺伝子組換え作物を受け入れるかどうか熟慮するのは正しいことだ。もし遺伝子組換え穀物が栽培されたら、その特許を持っている企業はアフリカに進出し、その作物が自分らのものだと主張するようになる。それは生物学的帝国主義以外の何ものでもない」というのはSafeAgeの代表グレン・アシュトンである。

 ジョン・ストレムローは言う。「西側に対するそうした疑いはこの地域ではきわめて根深い。悪政に加えてこの不信が、これらの国々にやってきて援助を与えようという者にとって、悪魔の飲み物を飲まされるような問題の原因だ。」しかし、世界最大のバイテク食品企業で反遺伝子組換え食品ロビーのターゲットにしばしばなっているモンサント社は、小農が収穫するものに権利を主張するようなことはしない、と否定している。遺伝子組換え食品はすでに南アフリカで大量に使われている、とヨハネスブルグにあるモンサント社の主席バイテク研究者のアンドリュー・ベネットは言う。「これらの国々の政府は自分の失敗を誰かのせいにし非難する相手を探している。人々は飢え食料を必要としている。今は議論なんかしている時じゃない」と彼は言う。ベネットの言うには、モンサントが知的財産権を主張する可能性は「極わずか」で、「どのみち、アフリカでは知的所有権なんか無視されている。訴訟沙汰になるチャンスなんかゼロだ」在来作物が「汚染」することは貧農にとって利益になるだけだ、とベネットは言う。「我々の製品は病害虫に強く収量の良い。もし誰かが我々の商品を植え、結果を見たら誰も文句なんか言うはずがない」とベネットは締めくくった。

 

 

訳注;河田

この新聞記事は、アメリカ人の善意と独善にみちている。今、アメリカ国内でどのような議論が行われているかを知っていただくために、あえてこの記事を訳す。

確かにアフリカ諸国政府の政治は最悪で、飢餓は人災かもしれない。政府の遺伝子組換えコーン受け入れ拒否は、政治的には間違いだろうが、長期的観点にたてば恐らく正しい選択である。在来種が駆逐され、毎年高価な除草剤を買わなければならなくなったり、種子を毎年買わなければならない、といったことだけではない。栽培に余力が出来てもGM作物はヨーロッパ向けには輸出できない。しかし、拒否を続ければ多くの人々が飢え、状況はますますひどくなる。国際社会の批判が高まり、選択の余地なくGM作物受け入れざるをえなくなろう。こうして、モンサントはアフリカ進出の機会をつかむ。今年6月ローマで行われた国連食糧サミットが、アメリカ主導によるGM作物の援助食糧採用決定の舞台となったことは記憶に新しい。アメリカの世界食糧戦略は着実に進行している。モンサントがいかに否定しようとも、種子を通じたアフリカの支配は間違いなく起こる。ヨーロッパや日本のGM反対の立場の人々は、この不条理にどう向き合えば良いのか。あなたはどう思うだろうか。

 

 

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