反GMイネ生産者ねっとNo.577
04/06/17
消費者リポートより
1.GMウォッチ市民ネットワーク設立へ
2.シュマイザーさん裁判、ついに最高裁判決
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1.遺伝子組み換え(GM)作物の栽培試験広がる
GMウォッチ市民ネットワーク設立へ
遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン
代表 天笠啓祐
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栽培試験拡大、説明会で中止や延期も
2004年もまた、全国で遺伝子組み換え作物の栽培試験が始まり、それにともなって説明会が開かれています。03年に比べて試験栽培の数は増えました。
04年の特徴は、開発者として前面に出てきているのが、農業生物資源研・究所のような、かつての農水省の研究機関(現在は独立行政法人)であることです。もともと農水省が予算をつけて、遺伝子組み換え作物の積極的な開発を進め、栽培試験を行なってきた経緯があります。03年は、北海道・茨城県・香川県の野外圃場で遺伝子組み換えイネを試験栽培しましたが、04年はそれを上回る勢いです。
地方自治体は、予算削減の影響を受けて撤退するところが目立っています。03年は岩手県が遺伝子組み換えイネを、島根県が遺伝子組み換えメロンを試験栽培して、市民の強い反対の声に押されて撤退した経緯があります。04年は各都道府県ともに食品からは撤退、花に限定して開発を進めています、
日本で積極的に商業栽培を推進してきたバイオ作物懇話会(長友勝利代表)は、04年も栽培を行なうと宣言しました。この組織は、アメリカの多国籍企業モンサント杜と共同で除草剤耐性大豆の作付け運動を進め、01年は全国9か所、02年は6か所、03年は3か所で栽培を行ないました。最初の2年は、花粉の飛散が起きる前に刈り取り、デモンストレーションとしての意味合いが強かったように思います。しかし、03年は収穫まで進もうとしたため、茨城県谷和原村で近くの農家が強制的に刈り取るという出来事が発生し支した。
そのリアクションで、各自治体で遺伝子組み換え作物栽培を規制する指針や条例づくりの動きが出てきました。そのため04年は、茨城県河内町にあるモンサント社の圃場で実験を行ない、収穫までして、遺伝子組み換え国産大豆第1号とする予定です。もし収穫されれば、日本も「非栽培国」ではなくなります。「国産だから安心」という前提が崩壊するだけに心配です。
民聞では、外国企業の動きが目立ちます。モンサント社が自社の圃場で栽培試験を行なっています。シンジエンタシード社、ダウ・ケミカル社、デュポン社などは、茨城県の独立行政法人などの圃場で栽培試験を進めようとしています。
日本企業の場合はイネなど食品からは撤退傾向にありますが、花の開発は積極的であり、医薬品や健康食品用の遺伝子組み換え作物の開発にも熱心です。04年になって行なわれたり、行なわれる予定の栽培試験は、現在掌握しているだけで、表のようなものがあります。
遺伝子汚染拡大の危険性
04年の試験栽培の特徴は、04年2月19日に施行された生物多様性条約カルタヘナ議定書国内法に基づく、生物多様性への影響評価の試験が多い点にあります。また、同時期に「第一種使用規定承認組換え作物栽培実験指針」という、農水省にかかわる研究機関にだけ適用する指針がつくられ、遺伝子組み換え作物の栽培に関しては、周辺住民の理塀を得ることが求められたことから、各地で説明会が開かれています。
その説明会では、開発した作物のよい点だけが述べられ、問題点などは一切触れられず、参加者から強い不満が出ています。その結果、参加者からの質問に回答できないところが続出して、説明会が一度では終わらないなど異常事態が続き、西東京市の東京大学大学院の圃場で栽培されようとした収量向上ジャガイモの実験は中止に追い込まれました。また、平塚市のJA圃場で行なわれる予定だつた花粉症予防効果イネは、圃場実験を中止、温室内での試験に切り替えられました。シンジエンタシード社、デュポン社のトウモロコシの場合は、2度目の説明会が開けない状態になっています。
逆に、モンサント社のように自杜の圃場をもつ民間企業の場合は、説明会をもつ必要がないため、「自由」に栽培を行なっています。
04年は試験場所が茨城県に集中しましたが、さまざまな形で栽培実験が行なわれており、花粉の飛散による遺伝子汚染が広がっていく可能性が高まっています。作物は、いったん野外で作付けされるとコントロールを失う危険性が高まります。現在起きているメキシコでのトウモロコシの原生種汚染など、一連の生態系破壊がそのことを雄弁に物語つています。
遺伝子汚染に加えて、特許権侵害で訴えられる危険性も強まっています。5月21日、カナダの最高裁判所はパーシー・シュマイザー事件で、事実上のモンサント社勝訴の判決を下しました。近くにある遺伝子組み換えナタネ畑から飛んできた花粉によって自分の非遺伝子組み換えナタネ畑を汚染された上に、かってに遺伝子組み換え作物を栽培したとして訴えられた事件です。たとえ自分では種子を蒔かなくても、花粉が飛んできて遺伝子組み換え作物ができれば、特許権侵害になるのです。
このような理不尽な論理がまかり通っている以上、遺伝子汚染を引き起こさせてはならないのです。
市民の力で遺伝子汚染を監視しよう
遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンは、遺伝子汚染の拡大をストッブし、日本の農家を守るために、「GM(遺伝子組み換え)ウオッチ市民ネットワーク」をつくり、私たち自身が、独立行政法人、自治体の実験、大学や民間企業の実験、バイオ作物懇話会の一般圃場での栽培を監視する運動を進めることを提案しました。
このネットワークは、各都道府県ごとに個人・団体が栽培を監視し、事前に阻止したり、翌年の栽培を阻止し、遺伝子汚染を食い止めるのを目的とします。実際、04年の場合、西東京市の東大大学院の圃場での試験、平塚市のJA圃場での野外試験などが、市民の声を集め事前に阻止することができました。このような市民の動きをつくりやすくするのが狙いです。
また、このGMウォッチ市民ネットワークをつくること自体が、栽培そのものの抑止効果にもなります。活動が進めば、遺伝子組み換え作物栽培規制のための、各自治体での条例・指針・議会決議などをバックアップすることができます。さらには、学校給食に遺伝子組み換え食品を使わない運動や、食品表示の改正を国に求める運動の基盤にもなります。多くの方の参加を呼びかけます。
◆GMウォッチ市民不ツトワークづくりに関しては、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン事務局=TEL:03(5155)4756/FAX:03(5155)4767にお問い合わせ下さい。
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本年予定されている屋外栽培実験
実験作物 実験場所 開発者
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花粉症予防効果イネ 平塚市JAほ場 農業生物資源研
(生物多様性評価試験・温室試験へ変更)
直立葉半矮性イネ つくば・農環技研 農業生物資源研
(生物多様性評価試験)
半矮性イネ つくば・農環技研 農業生物資源研
(生物多様性評価試験)
収量向上ジャガイモ つくば・農環技研 農業生物資源研
(生物多様性評価試験)
同 上 西東京市・東大大学院 同上
トリプトファン高蓄積イネ つくば・中央農総研CT 作物研究所
(生物多様性評価試験)
除草剤耐性・殺虫性コーン つくば・農環技研 ダウ・ケミカル
(生物多様性評価試験)
除草剤耐性・殺虫性コーン 牛久市・植物調整剤研究協会 デュポン
(生物多様性評価試験・説明会延期)
殺虫性コーン 牛久市・植物調整剤研究協会 シンジェンタ・シード
(生物多様性評価試験・説明会延期)
除草剤耐性大豆 つくば・農環技研 モンサント
(長期モニタリング試験)
除草剤耐性ワタ 河内町・モンサント モンサント
(説明会なし・長期モニタリング試験)
除草剤耐性大豆 河内町・モンサント モンサント
(バイオ作物懇話会による商業栽培)
除草剤耐性コーン 西那須野・畜産草地研 モンサント
(長期モニタリング試験)
除草剤耐性大豆 西那須野・畜産草地研 モンサント
(長期モニタリング試験)
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2.シュマイザーさん裁判、ついに最高裁判決
特許権侵害
企業の権利を優先する不当判決
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除草剤耐性遺伝子組み換えナタネ(RRナタネ)を無断で栽培したとして、モンサント社から特許権の侵害を理由に訴えられていたカナダの農民、パーシー・シュマイザーさんに対する最高裁判決が、2004年5月21日にありました。9人の裁判官は、5対4でシュマイザーさんがモンサント社の「特許権を侵害した」との判決を下しました。
特許権は侵害、賠償は不要
カナダは、生命特許を限定的にしか認めず、農民の権利を比較的重視する国と見られていました。シュマイザーさんは、「植物は高等生物で、特許の対象にはなり得ないので、特許遺伝子と細胞を含む『植物の栽培』は特許権の違反を構成しない」と主張し、最高裁の少数意見はそれを支持しました。これに対して、モンサント社は遺伝子組み換え植物そのものではなく、それを構成する遺伝子と改変細胞の特許を保護すべきだと主張しました。最高裁の多数派の裁判官は、シュマイザーさんはビジネスの一環として積極的にこのRRナタネを栽培し、特許遺伝子と細胞を利用したので、特許権を侵害したことになると判断しました。
判決によれぱ、シュマイザーさんがRRナタネを栽培、販売(搾油用として)したことは、モンサント社が特許をもつ「発明」を「使用」したことに当たるので、「特許権の侵害」となるとしています、しかし、このことでシュマイザーさんが得たのは従来のナタネの販売利益と変わらないので、「特許権の使用から得た利益はない」と認定され、モンサント社がシュマイザーさんに対して求めていた技術使用料の支払いは免除されました。また、訴訟の費用もモンサントとシュマイザーさんとで各自の分を負担するという判決でした。
世界中の農民の権利を否定することに
RRナタネを育てて販売することが、この遺伝子という「発明」を使用したと解釈されれば、実際のところは、植物全体に特許が与えられたのと同じ結果になります。バイオ企業に植物全体にまで影響が及ぶような特許を認める最高裁レベルでの判決は世界で初めてのもので、この判決は、世界中の農民の伝統的慣行である種を自家採種し、保管し、播く「農民の権利」の否定につながりかねません。多数の同様な訴訟の対象となっているアメリカの農民だけでなく、世界の食料安全保障や生物多様性の保全など、人類が直面する、差し迫った基本的問題にまで影響が及ぶと懸念されます。
「世界の人々にとっては敗北」
企業の特許権と農民の種子を守る権利のどちらを優先させるのか、世界中が注目する中で争われてきた裁判は、企業の権利を優先するという不当な結果となりました。
最高裁でモンサント社に一切の賠償をしなくてよいとされたシュマイザーさんは、「この判決は私にとつては勝利ですが、世界の人々にとつては敗北です」と評しています。農民がRRナタネの栽培によって在来種を栽培するより多くの利益を得たことを証明しなければ、特許権が認められてもその侵害に対する賠償が認められないということは、今後モンサント社が同様の訴訟を起こすことは難しくなることを意味します。
カナダの支援団体は、今後は政治の場でこの問題を取り上げていくと意見表明しています。(古賀真子)
*シュマイザーさんへは、皆さまから頂いたカンパと、ブツクレツト『GM汚染』の利益より合計200万円をお渡ししました。皆さまのご協カに心から感謝いたします。
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シュマーザーさんからの日本の支援者へのメッセージ
2004/5/21
カナダ・サスカチュワン州サスカツーン
みなさんのご多幸をお祈りするとともに、モンサントに対する裁判を支援してくださった日本の皆さんに大いに感謝します。皆さんのご支援のおかげで、はるか遠い最高裁まで訴訟を持ち込むことができました本当にありがとうございました。
パーシー・シュマイザー
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