反GMイネ生産者ねっとNo.575
04.6.16
農業情報研究所(WAPIC)
国連、インド種子保存・利用運動を表彰
生物多様性の保全と利用による貧困軽減のモデル
インド南部・バンガロールに本拠を置く遺伝資源・エネルギー・エコロジー・食物(GREEN)財団が、2004年度熱帯賞(Equator Prize)を受賞した。この賞のまとめ役を務めるのは国連開発計画(UNDP)で、そのパートナーには国際開発研究センター、国際自然保護連合(IUCN)、国連財団などが含まれる。UNDPによれば、熱帯賞は、「熱帯地域における生物多様性の保全と持続可能な利用を通じて貧困を軽減するための世界規模の運動のモデル」として、創意に富むコミュニティーの努力を表彰するものである。GREENを含む数団体の今年度受賞者は、2月18日、マレーシアで開かれた生物多様性条約締約国第7回会議(COP7)に際して発表され、19日には表彰式が行われている。UNDPは6月4日、GREENの受賞を伝える報道発表をニューデリーから発した。
GREEN財団は11年前に発足、インド南部のカルナタカ州とタミールナドゥー州で、主としてsanghasと呼ばれる婦人農民グループと協同、種子と遺伝子銀行に取り組んできた。現在までに31のコミュニティーの種子銀行の樹立を助け、在来種子を保存する農民の数は10から1500に増えた。UNDPは、農民コミュニティーの種子供給システムと家庭菜園の創出を通じて、食糧安全保障を改善した、そうすることで、農民と科学者の価値ある多数の連携を作り出したと言う。
ニューデリーで発せられた報道発表は、運動はコミュニティーが耕作システムへの外部からの投入を抑えることを可能にする草の根レベルでの能力建設を狙いとしている、種子の問題をめぐって農民を組織することに焦点を当てることは、種子供給システムを改善し、保存者及び生産者としての農民の役割を強化することを意味すると強調する。
関連報道の一つによると、活動家は、農村地域の食糧安全保障を改善するインド人グループの国際的表彰が、多国籍企業に脅かされているインド農民の種子保存の努力を勇気づけると考えている。「農民の権利を保護するための非政府諸組織」は、これは南アジアの国全体で農民が主導する運動の国際的顕彰だと言う。ヴァンダナ・シヴァにより創設されたニューデリーの科学・技術・エコロージー研究財団(RFSTE)のジャフリ特別理事は、「種子企業の支配力強化を求める自由化の過程に脅かされている種子を保護する必要性を国連が認めた」と語る。
GREENのプロジェクト調整者であるS.B.ナダグーダ氏は、財団は今、カルナタカとタミールナドゥーの3000の小・限界農民と協同していると伝える。しかし、このような活動をしているのはGREENだけではない。RFSTEのジャフリ氏は、インド農村では、農民が在来種子に対するその権利を保持できるように、GREEN同様のいくつかのグループが活動しており、RFSTEの努力も2000の稲品種の保存につながったという。彼によれば、農民は、模範を示すために常に10種から12種の稲を持っており、これはいつでも自由に使える在来農民品種だ。農民運動は、種子と植物の特許に焦点を当てる国際的種子企業の活動に対抗するために、インドで地歩を築いてきた、これは3年前に施行された植物品種保護法に農民の権利に関する一章を加えさせた農民運動のためだと指摘する。
ともあれ、国連機関がこのような組織の運動を貧困軽減のための運動の「モデル」として認めたことは意義深い。だが、貧困軽減のための主流農業開発モデルが、外部=巨大アグリビジネス依存の深化を不可避にする大規模単作化にある現状には変わりがない。所得増大=大規模化という方程式が固定観念化している結果である。この観念に従えば、小農民には存続・存立の基盤がないことになる。だが、実際には、世界の大部分の農民は小農民として生計を立てている。その最大の存立の原理は「自律」である。これは一切の交換を排除した「アウタルキー(自給自足)」ではない。かつて、フランスの一研究者は、近代化・工業化の大波が襲うなかで生き残り、なお数としては大半を占めるフランス小農民の存立の基盤を探求した。彼は、その一部が、70年代に「農民労働者運動」を組織し、ラルザック高原の基地拡張阻止闘争に加わり、今日の「農民同盟」に結集することになるこれら多様な「抵抗農民」に共通な第一の存立原理として、「自律」を上げた。
これら農業者は、経営生産物の自己消費、生産資材の自己生産により、農業生産資材や消費財の他産業依存をできるかぎり減らそうとしている。経営生産物の自己加工や地方市場での直販により、加工・流通産業への依存をできるだけ減らそうとしている。そして、大規模経営がすっかり見放してしまった自然資源・生産物・活動・技術・社会関係などの「地方資源」(経営内資源とコミュニティーの資源)を最大限に活用している。これは経営費の大きな削減につながる。それに、小規模経営故に可能になる補完活動(兼業)により所得を補完している。これら経営は、時に平均的規模の経営以上の所得を得ていた。「生物多様性の保全と持続可能な利用を通じて貧困を軽減する」戦略は、熱帯地域だけのものではない。
「自律」は小農民の存立・存続を可能にするが、外部依存農業は破滅的結果をもたらす恐れがある。インドにおける自殺率は世界最高だ。6月10日付のザ・ヒンドゥー紙の伝えるところでは、新政府が発足した5月14日以来、アンドラ・プラデシュ州で農民161人が自殺している。政府は、打ち続いた干ばつと病虫害などの自然災害によるワタの不作が理由だと言う。だが、これではこの3週間半の自殺の急増は説明できない。自殺者の大部分(130人)は最高の生産性を誇る25から50歳のグループに属する。今年は雨も順調に降り、棉作農民も十分な価格を保証されている。同紙は、高利貸しや肥料・農薬・種子販売業者からの積もりに積もった借金が理由ではないかと言う。アンドラ・プラデシュ州は、モンサント者の遺伝子組み換え(GM)ワタの最大の栽培州の一つである。
同じ国連機関である食糧農業機関(FAO)はつい先ごろ、バイオテクノロジーは途上国農業、食糧安全保障と貧困軽減に大きな希望を与えるという報告を発表した。それは、バイオテクノロジーは「万能」ではなく、「慣行農業技術を補完すべきもので、それに取って代わるべきものではない」と断ってはいる。だが、現実には、それは農業の外部依存を強めるのに加え、大規模単作化の流れを加速、小農民を直接駆逐することにもつながるだろう。
GM作物の大々的導入により大豆の大生産・輸出国となったアルゼンチンからの最近の報道によると、長らく権勢を誇ってきた半封建領主が県知事の地位に就いた北部の州のある県では、大豆の拡大のために、先住民とその混血住民の土地が、大豆栽培のための土地に飢えた大規模農民とアグリビジネス関係者により奪い取られている。これと戦う一農民は、彼らは、「畑に入り、ドアを倒し、家畜を畑に放ち、農具と収穫物を盗み、我々を監獄にぶち込む」のだと言う。司法省報告書は、土地所有権の問題はこの州の人権に関する主要問題の一つだ、大豆に導かれた農業フロンティアの無統制な前進が農民コミュニティーの所有権と文化的財産を台無しにしているからだと言う。
インドは既にアジアのバイテク大国の一つであるが、つい先頃も、農業バイオテクノロジー促進策が勧告された。バイオテクノロジーは「補完的」なものだというFAOの留保にもかかわらず、一度導入されれば、UNDPが貧困削減の「モデル」と称えたインド農民の運動も存立の基盤を失うことになるかもしれない。矛盾する開発戦略をどう調整するのか、大きな課題がある。
ついでに言えば、わが国の農業「改革」は、持続可能な農業・食糧生産の基盤である「生物多様性の保全と持続可能な利用」に貢献できるのだろうか。はなはだ心もとない。既存農業自体、品種の単純化や農薬使用により生物多様性を大きく毀損してきたが、それが一層進む恐れがある。土木建設業者が農業に進出、地域資源の保全と活用を無視した大規模な外部投入企業農業を展開するくらいなら、草木生い茂る「耕作放棄地」のままにしておく方がまだましかもしれない。