反GMイネ生産者ねっとNo.571
2004年6月7日
消費者リポートより
東大実験農場,遺伝子組み換えジャガイモ屋外実験延期
市民セクター政策機構
倉形正則
東京大学は、その付属農場(西東京市)で実施しようとしていた遺伝子組み換えジャガイモの屋外栽培実験を延期するこどとしました。2004年5月17現在、延期期限は発表されていませんが、マスコミ報道や関東地方での栽培適期かち考えると、今年の実験実施は無理という情況です。
安全性試験はせずに屋外栽培へ
4月に開かれた説明会では、今回計画された遺伝子組み換え作物は、ジャガイモ(メークイン)に、トウモロコシのスクロースリン酸シンターゼ(SPS)ほか計6種類の遺伝子を、収量の増加効果を目的として1セットもしくは2セツト組み込んだものだとの説明でした。
遺伝子組み換えで懸念されているのは、組み込みによる新規生成物の問題もさることながら、組み込みの意図せざる効果、しかも予測不能な効果です。コーデックスも日本の食品安全委員会による遺伝子組み換え食品基準も、その点を考慮に入れて、不十分ながら組み換え前後で遺伝情報にどのような変化が起きているのかを、ある程度把握することを規定しています。
しかし、今回の遺伝子組み換えジャガイモは、「実験用であり、食品として実用化する予定はない」ということを理由に、遺伝情報変化の把握は、ほとんど行なわれていないことが質疑の中で説明されました。
意昧のない人為区分
スターリンクコーン事件では、人為的な「飼料用」と「食品用」の区分が、実際の栽培、流通の場、さらには生物の訟理では意味を持たなかったことが明らかになりました。それを契機にアメリカ(その後日本でも)では飼料用と食品用、双方の安全審査をクリアすることが必要とされるようになりました。「隔離圃場」という名称であっても屋外栽培は自然界への放出につながり、そうなれば人による区分は意味を持ちません。現在の基準では、本栽培実験に限らず、屋外栽培にいたるまでの安全性チェックは、従来物との簡易比較というきわめてゆるやかなものです。
コーデックスでは次のバイオ特別部会の議案侯補として「未承認GM(遺伝子組み換え作物)の混入基準」を挙げているということです。
限定的な拡散肪止措置
今回の屋外栽培実験では、開花前の摘花や、植物組織の腐食等によって拡散を防ぐとしていました。
遺伝情報の拡散は、微生物を介した伝搬などの事態も考慮すべきですし、植物組織の拡散防止措置は、台風などによる飛散を考慮しなければなりません。現状の拡散防止措置は、科学的常識には限界があり、予測困難な事態は常に起き得るといった環境ホルモンやBSE(牛海綿状脳症)での教訓が活かされていません。
初めてのリスクコミュニケーション?
今回、はじめに設定された4月27日の説明会では続出した質間や疑問に応えきれなかったため、2回目の説明会及び都議会議員有志による「説明を聞く会」が持たれました。その結果、実験責任者で東大付属農場場長でもある大杉立東大教授は、「市民の理解を得られないまま、実験を進めることはできない」との見識で実験の延期を決めたものです。
食品問題でも語られ出した「リスクコミュニケーシヨン」は、日本の場合、とりわけ形式的なものでした。疑問や反対意見がどれほど存在しても、当初スケジュール通りに事態が進むというのが通常です。その情況にあっては、今回の大杉教授の判断は画期的なものです。
実験推進の側の説明責任は、「安全は確認済み」の連呼で果たされるものではありません。本来の説明責任は、判っていることと判っていないことの境界線を具体的に明示することであり、最悪の事態を含めた予想されるべきリスクを共有することです。今後はそうした実質のあるリスクコミユニケーションを、制度としても整備し、内実でも確保しなければなりません。