反GMイネ生産者ねっとNo.539

2004年4月2日

週刊 金曜日

 

開発が進むGM稲とGM小麦

日本の食卓が狙われている!

天笠啓祐

 

 今、GM作物のターゲットは稲(コメ)と小麦。稲については日本の農林水産省も加わって、花粉症に効く稲の開発などが進められている。小麦は北米産GM小麦が遠からず、日本に入ってくる可能性大だ。消費者としてはまた心配事が増えそうだ。

 

 現在、遺伝子組み換え(GM)作物の種子は、90%を越える市場占有率で、米モンサント社の独占状態になっている。栽培されているGM作物は、大豆、ナタネ、トウモロコシ、綿の4種類だが、たとえば大豆の場合、GM大豆の栽培面積は昨年4140万fに達し、世界の大豆畑の実に55%にまで拡大した。

 モンサント社の種子が世界の食料市場を制覇しつつあることが、この数字から見てとれる。いまやGM作物とモンサント社は、米国の食糧戦略の中で重要な位置を占めるようになった。

 そのモンサント社が、次の世界市場の制覇をもくろんでいる作物が、稲と小麦である。しかし両者は、少し違った展開を見せてきた。

 

「食べる医薬品」めざし開発が活発化

 

 稲は90%以上がアジアでつくられ、90%以上がアジアで消費される、アジアの人々の主食である。そのためアジアでの売り込みがポイントになる。

 モンサント社のGM稲は陸稲用に開発されたため、アジアで売り込むためには、水田で使えるよう改良が求められた。そこで目をつけたのが、愛知県で行われている「不耕起・乾田直播」方式である。田起しを行なわず、水の入っていない田んぼに直接種子を蒔き、後で水を入れる独特の方法だ。これだと田植えを行なわなくてすみ、農繁期を分散化できるメリットがあり、しかも陸稲に近い方法で栽培が可能になる。

そこで同社は愛知県農業総合試験場との協同で、ジャポニカ種の「祭り晴」で開発を進めてきた。そのGM稲開発が2002年末、日本の消費者の力によって開発中止に追い込まれたのである。

 しかしモンサント社の稲開発がストップしている間隙を縫って、同社では今年、カリフォルニア州で、パイエル・クロップサイエンス社の除草剤耐性稲「LLライス」の栽培が始まる可能性が出てきた。日本でも、農林水産省などが開発したGM稲の実験が相次いで行なわれている。昨年は北海道、茨城県、香川県、岩手県にある4つの研究所でGM稲の実験栽培が行なわれた。このうち岩手県だけが県の研究機関であり、ほかはすべて農水省の研究機関で開発された品種である。

 さらにこれから特に開発が活発になりそうなのが、「食べる医薬品」と呼ばれる次世代のGM作物だ。2つの稲が注目されている。

 ひとつは、農水省の研究機関である農業生物資源研究所の高岩文雄氏らの研究チームが開発した「花粉症対策稲」で、動物実験が進められている。この稲は、スギ花粉症のアレルゲンを米粒の中につくらせて、徐々にならしていく減感作療法(アレルギー症状を起こす原因物質のエキスを長い時間かけて少しずつ注射し、体を徐々に慣れさせている治療法。このコメの場合は食べることによってアレルゲンに慣れさせる)を目的にしている。すでに東京慈恵会医科大学、東京大学医科学研究所と共同でマウスを用いた予備実験が行なわれ、成果があったとして実用化に向けて動き出した。その二大学に加えて日本製紙とJAが参加し、農水省の「アグリバイオ実用化・産業化研究」の一環として開発が進められている。

 もうひとつが米カリフォルニア州で進められている、病原菌から健康を守るというGM稲栽培計画である。計画しているのは、サクラメント・バレーにあるベントリア・バイオサトフェリンとリゾチームの2種類の蛋白質を生産する。ともに母乳の中に含まれ、病原菌などから乳児を守る成分だが、このGM稲は感染症や下痢などの予防に用いる予定である。地元の農家は、GM稲から風や虫によって花粉が運ばれ、遺伝子汚染が広がり、カリフォルニア産米が売れなくなることを恐れている。同社は1997年から栽培実験を行なってきたが、昨年11月にFDA(米食品医薬品局)に申請を出し、いま認可を待っている状態である。

 

来年日本に入ってくる可能性大

 

 一方、モンサント社は、GM稲が挫折に追い込まれたことから、GM小麦の開発を先行させている。2002年末に、米国とカナダに除草剤耐性小麦の認可を申請し、米国では早ければ2005年には承認される可能性が出てきた。

 このGM小麦は、北米大陸の北部で栽培されている春蒔き小麦で開発された。この品種はグルテンを多く含んでいるため、パンづくりに最適な小麦で、私たちが日頃食べるパンのほとんどに原料として使われている。日本のパンは大部分を北米産の小麦に依存しており、申請が承認されてGM小麦の栽培が始まれば、否応なく食卓や学校給食に登場することになる。

 現在、このGM小麦をめぐって、米国とカナダでは対応が異なっている。米国では予定通り承認されそうだが、カナダでは、小麦を一手に扱っているカナダ小麦局が、国内外での反対の声に押されて、当初の推進の立場から慎重な姿勢に変わり、モンサント社に対して小麦の承認申請を取り下げるように求めている。またカナダ農務省が、1997年以来取り組んできた、GM小麦でのモンサント社との共同開発から手を引くことを明らかにした。

 3月21日から28日にかけて、日本の消費者団体がカナダ政府と米国州政府に対して、GM小麦の申請取り下げや、栽培をさせないよう求めて、414団体(構成員約124万名)の署名を添えて申し入れた。

 

 このように新しい展開を見せながら、GM作物の開発は活発であるが、他方、日本国内では、自治体の間でGM作物の栽培を規制する動きが活発になっている。 2002年12月につくられた山形県藤島町の条例から始まり、都道府県レベルでの規制の動きが活発化している。特に北海道、茨城県、岩手県、滋賀県で活発化しており、いずれもGM作物を一般圃場で栽培することを規制している。このような自治体での規制の動きは、ヨーロッパや米国内でもみられ、世界的な流れになってきた。GM作物を推進している政府や企業と、反対している世界の市民との戦いの前線が、いま地域レベルになってきた。

 

●世界の遺伝子組み換え栽培面積

 年   1996    97     98    99    00    01    02    03

--------------------------------------------------------------------

万ha   170  1100   2780  3900  4300  5260  5870  6770

 

●作物別作付面積

作物名  大豆 コーン  綿  ナタネ  その他

--(2002 5870ha)-----------------------------

作付面積 3650    1240    680     300万ha  わずか

 %    62%     21%     12%     5%

--(2003年 計6770万ha)-----------------------------

作付面積 4140    1550    720     360万ha  わずか

 %    60      23      11      5

 

●国別作付面積

国 名     米国   アルゼンチン   カナダ   ブラジル   中国    その他

作付面積    4280      1390         440       300       280    80万ha

 %       63%       21%          6%        4%        4%      1%

※データはすべてISAAA

(国際アグリバイオ技術事業団)発表

 

 

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