反GMイネ生産者ねっとNo.449
農業情報研究所WAPIC
2003年9月22日
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イギリス:GM作物フィールド実験評価報告を王立協会が拒否
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「インディペンデント」紙によると、遺伝子組み換え(GM)作物の商用栽培解禁を目指して行なわれてきた3年間のフィールド実験の結果を評価する報告書の公表をロイヤル・ソサイエティー(王立協会)が拒否したらしい。政府は今年中の解禁を目指し、国民論争を組織、GM作物の経済的便益とコスト、及びGM食品・環境影響の評価を独立委員会に諮問した。しかし、7月に終わった国民論争は、GM食品・作物に対する国民の不信をかえって強める結果になったと言われ、二つの独立委員会の7月の報告も政府への逆風を強めるものとなった。
ただ、最も論議が集中するGM作物の環境影響については、独立委員会の報告は、「現世代のGM作物に関するフィールド実験は、田園地帯を侵略し、問題のある植物になる可能性が非常に少ないことを示している」と言いながらも、フィールド実験の結果の最終的評価は秋を待たねばならないとしていた。政府の決定に大きな影響を与えるであろうこの評価は、10月16日にロイヤル・ソサイエティーにより発表される予定となっていた。
ところが、ロイヤル・ソサイエティーは、八つのテクニカル・リポートの複雑な結果を説明し、要約するこれらリポートの一つを拒否したというのである。このリポートの起草者は、審査を行なう科学者から、これは新しいデータを含まないからと、発表を止めるように勧告されたという。しかし、この結果は、GM作物が野生動物に悪影響を与える可能性を明かにするだろうと予想されており、ロイヤル・ソサイエティーのこの行動は、そのGMびいきの立場への偏向を示すものとの疑いを強めるだろう。
実験を立ち上げた前環境相・ミーチャーは、この概観ペーパーの発表の拒否は、ロイヤル・ソサイエティーの動機をめぐる疑惑を生むと語ったという。
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モンサント、ブラジルの違法GM大豆輸出企業に補償を求める
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ブラジルに遺伝子組み換え(GM)ラウンドアップ・レディー大豆を正式承認させるために6年間にわたり苦戦してきたモンサント社が戦術転換を決めた。違法栽培されたGM大豆を輸出する企業に補償を求めるのだという。18日付のSouthwest
Farm Press(Magagine)の記事(Monsanto sues over RR soybeans)が伝えている。
政府は、ブラジルで最近収穫された大豆の8%から22%がラウンドアップ・レディー大豆と推定している。南部のヒオ・グランデ・ド・スゥ州では、この比率は70%に達すると見られる。これらの種子の大部分はブラック・マーケットで販売されるか、前期の収穫から保存されたものである。モンサント社は、その知的所有権を認め、同社に適正な補償を支払う協定を結ぶ企業にこれら大豆の輸出を許することにするという。
ブラジルでGM大豆が広範に栽培されていることは、世界で公然の秘密となっている。正式承認していない政府も、これを知りながら、有効に抑えることができなかった。今年に限っての輸出も認めざるをえなかった。モンサントの戦術転換は、これを逆用して実利の確保に走ったものであろう。ブラジル政府も、GM作物を正式に認めるのか、禁止するのか、早急な決断を迫られている。
2003年9月25日
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ブラジル、GM作物合法化か
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25日付のニューヨーク・タイムズ紙の報道(Brazil to Lift Ban on Crops With Genetic
Modification)によると、ブラジルが今日、遺伝子組み換え(GM)作物の栽培にゴー・サインを出す。副大統領がGM作物禁止を解除すると語ったという。
取り敢えずは今年収穫されたGM大豆の販売を合法化した政令(⇒ブラジル:GM作物を禁止 既不法栽培収穫の輸出は許可,03.3.18)の拡張を行ない、10月の作付に間に合わせるが、政府関係者は、これが今年議会に送られるGM作物解禁の立法への道を開くと考えている。ブラジルでGM大豆の違法栽培が広範に行なわれていることは公然の秘密であり、現実の追認に過ぎないが、現実には重大なインパクトを持つであろう。合法化によりGM大豆栽培農場が大きく増えることも予想されるだけでなく、世界第二の大豆生産国がGM導入に踏みきったとなれば、GM作物導入に抵抗してきた途上国等、多くの国も追随する可能性がある。そうなれば、GM作物をめぐる「世界戦争」(注)のバランスが一気に崩れ、バイテク企業による種子市場の世界制覇の野望が実現することになる。消費者の抵抗もそれまでである。
ルーラ・ダ・シルヴァ大統領は、選挙前、環境保護団体や早期の土地改革を求める土地無し農民運動に同調する姿勢を見せていたが、最近は環境・小農民保護よりも、経済開発・輸出促進優先に傾いていた(⇒ブラジル大豆生産が急増、アマゾン破壊に拍車,03.9.19)。GM作物解禁に強く抵抗してきたマリア・シルヴァ環境相と、ロドリゲス農相を中心とするGM促進派の政府部内のバランスが崩れたものと思われる。ブラジルの大豆生産は過去5年間で60%も増加、今年の輸出は昨年より34%増えて、世界トップの輸出国となったが、いずれ生産も米国を抜いてトップに踊り出るであろう。
ただ、ヨーロッパや日本の市場がGM大豆を簡単に受け入れる情勢にはない。中国市場や国内牛の飼料用の需要が拡大しているかぎりは成長が見込めるが、やがて行き詰まることになるかもしれない。貿易摩擦がますます激しくなり、WTO貿易交渉も一層複雑化し、難しくなる可能性がある。GM解禁がブラジルに吉と出るか、凶と出るか、即断はできない。
輸出拡大ー貧困撲滅がブラジル政府の狙いであるが、GM作物導入は巨大農場の土地集中を加速、貧困層を一層増大させる恐れもある。土地無し農民運動グループは、23日、予想されるGM解禁に抗議して農業省に押しかけた。モンサント社は先週、GM大豆の非合法栽培に特許料支払いを求める決定を行なったが(モンサント、ブラジルの違法GM大豆輸出企業に補償を求める,9.22)、合法化されればそんな面倒もなくなる。利益を上げるのはモンサント社だけかもしれない。