反GMイネ生産者ねっとNo.438
農業情報研究所
1.米国等、EUのGMO承認モラトリアムでWTOパネル設置を要請
2.除草剤・グリフォサートがカビ増殖を速める?
3.インド、中国、ブラジル等、WTO農業交渉で新提案
4.意見:自由貿易協定の根本的見直しを
----------------------------------
1.03.8.20
農業情報研究所(WAPIC)
米国等、EUのGMO承認モラトリアムで
WTOパネル設置を要請
----------------------------------
8月18日、WTO紛争処理機関(DSB)の会合で、米国、カナダ、アルゼンチンが、EUによる遺伝子組み換え体(GMO)新規承認の1998年以来の事実上の「モラトリアム」とEU既承認のGMOのフランス始め6ヵ国による禁止継続をWTOの衛生植物検疫(SP)協定及びその他いくつかの協定に違反するとして、これらを法的に裁くための紛争処理パネルの設置を正式に要請した。
EUは、これらの国が、バイオテクノロジーのあり得るリスクとこれに対する社会的関心に真剣に取り組みながら、その発展のための適切なフレームワークを構築するための国際協力の道を選ばなかったと遺憾を表明、すべての国が自身の決定を行ない、市民の適切な保護のレベルを決定する自由を与えられるべきだとしてパネル設置には合意できないと応じた(⇒WTO
News)。
米国、カナダ、アルゼンチンの提訴の内容と理由は、それぞれWTO文書、WT/DS291/23、
WT/DS292/17、 WT/DS293/17.を参照。EU側の反論は、
⇒EuropeanCommission
regrets the request for a WTO panel on GMOs(03.8.18)。
----------------------------------
2.03.8.21
農業情報研究所(WAPIC)
除草剤・グリフォサートがカビ増殖を速める?
----------------------------------
除草剤・グリフォサートが、小麦に多大な被害を与えている赤カビ病原菌(真菌=カビ)の増殖を促進するかもしれないというカナダ研究者の発見がわが国でも反響を呼んでいるようである。グリフォサートは、世界で最も広く使われ、除草剤耐性遺伝子組み換え(GM)作物の栽培にも必ずといってよいほど使われる除草剤であるから、これが決定的結論であるとすれば、確かにことは重大である。現在商品化されて
いる除草剤耐性GM作物の導入の是非に関する議論にも大きく影響する可能性がある。しかし、当研究所は、この研究が進行中のもので、最終的結論が可能になるのは来春であるということから、無用な混乱を避けるために、敢えて報じることを止めてきた。ところが、この研究について報じたNewScientist.comの8月14日付の記事がわが国でも翻訳されて紹介されたり、専ら懸念を強めるような情報の流れもあるようなので、正確なところを伝えておきたい。要は、今のところ、グリフォサートが真菌増殖を速めるというのは、「可能性」であって、最終的に確認されてはいないということである。
この問題は、数年前、カナダ農業・農産食料省により運営される半乾燥平原農業研究センターのミリアム・フェルナンデズ(読みが正確かどうかは保証できません。原語ではMyriam
Fernandez)が注目したもので、このとき、彼女は、前年にグリフォサートが施用されたいくつかの圃場の小麦のフザリウム穂枯れ病による被害が大きらしいことに着目した。この病気は、穀粒を損傷し・ピンクの変える破壊的真菌病である。彼女は、これをより正確に確認するために、小麦圃場の罹病のレベルを測定する追試験を行なった。彼女の同僚であるケイス・ハンソンは、その結果、前年にグリフォサートが使用されたときに罹病のレベルが高くなることがわかったと言う。また、彼の実験室での研究は、穂枯れ病を引き起こす真菌であるFusarium
graminearum(フザリウム・グラミネアラム)とFusarium avenaseumu(フザリウム・アベナシューム)の生長が、グリフォサートをベースとする殺草剤を加えた培地で、より速いことも示した。
しかし、研究者たちは、すべてのデータが揃うまで判断は延ばすと慎重で、屋外圃場・温室実験を計画しているという。ハンソンは、真の問題は、この真菌が土壌中により多くの胞子を残すかどうかだと言っている。影響は、単に、除草剤が真菌生長のための死んだ植物物質を土壌中により多く残すためで、グリフォサートにより直接引き起こされたものではない可能性もあるという。彼によれば、答えは来春までわからない。
これが記事の伝えるところである。他の決定的研究がないかぎり、我々も、来春の結論を注目して待ちたい。
なお、グリフォサートについては、一般に急性毒性は低いとされている。また、生殖への悪影響、神経毒性、変異原性、発癌性も認められないとされているが、これを疑わせる研究もないわけではない。
------------------------------
3.03.8.21
農業情報研究所(WAPIC)
インド、中国、ブラジル等、
WTO農業交渉で新提案
------------------------------
8月13日、米国とEUは、WTO農業交渉の行き詰まりをカンクン閣僚会合で打開すべく、交渉の枠組みに関する共同提案を行なった。ウルグアイ・ラウンドでは、米国とEUの間の合意が交渉妥結の決め手となった。同様に、この妥協さえあれば、交渉は成功に向けて動き出すという思い込みが両者ともにあるようだ。しかし、これは“思い上がり”にすぎないのではないかと感じてきた。インドは、いち早く米欧妥協案に強硬な反対を表明した。インドは途上国中の大国として途上国への影響力は大きいが、それだけならばウルグアイ・ラウンドのときと同じである。しかし、今回は違う。インドは中国という巨大な勢力のバック・アップが保証されていたからである。今回も米国とEUの思惑でことが運ばれると見るとすれば、余りに事態の変化に鈍感ではないか、この妥協案は今後の交渉の土台にもならないのではないか、そう考えて、マスコミのさも重大気な報道にもかかわらず、これを取り上げるのは控えてきた。案の定、20日、インドとメキシコは米欧案に対抗する枠組みを提案したが、この提案には、中国ばかりか、ケアンズ・グループの有力国も含む他の13の途上国―ブラジル、アルゼンチン、ボリビア、チリ、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、ペルー、タイ、南アフリカ、グアテマラ、パラグアイ、フィリピン―もサインしている。米欧案がそのままたたき台になるなどと考えるのは、もはや幻想にすぎない。
提案は交渉の主要分野をほとんどカバーしている。輸出補助金について、米欧案は、途上国の特別の利益にかかわる品目については[ ]年で撤廃するとしているが、インド案では早期の撤廃が提案されている。国内助成では、「青」の政策について、米欧案は新しい枠組みを提案しているが、インド案は廃止を要求、米欧案に言及がない「緑」の政策についても、一定のものには上限の設定、厳格な規律を要求している。作物保険や災害援助のための直接支払いに上限を設けることが特別に言及されている。「黄」の政策の削減の大幅削減は米欧案と同じであるが、これは品目特定的に行なわれねばならない。特定の商品に対する補助の削減を免れる逃げ道を塞ぐためである。また、助成が輸出の一定の比率に達するときには、国内助成を廃止することも提案している。
関税に関しては、米欧はウルグアイ・ラウンド方式とスイス・フォーミュラを混ぜ合わせた削減方式を提案し、インド案もこの点に変わりはないが、このミックス方式は先進国にのみ適用し、途上国は平均での・最低限の削減に従うのみ、高率関税の大幅削減を課すようないかなる方式にも従わない。センシティブな品目に関する関税削減を関税率割当によるアクセス拡大で償うといった、恐らくは割当拡大につながる米欧案の微妙な言い回しは、インド案には含まれない。しかし、先進国については、国内消費量に対する比率を拡大し、割当内関税率ゼロとする関税割当を要求している。途上国については、割当拡大や割当内関税率削減は要求されない。さらに、インド案は、一定のセンシティブな品目をフォーミュラ方式関税削減の対象から除外、交渉に委ねるべき特別品目とすることも提案している。食糧純輸出国である途上国には特別かつ異なる待遇に関する異なるルールや規律を求めるというブラジル等を狙った米欧案の条項も、インド案は落とした。
国内助成の大幅削減につながり、途上国への市場アクセスの大幅拡大が望めないこの提案は、米国が到底飲めるものではないだろう。また、一般理事会議長や農業交渉議長がこれを取り上げれば、交渉のたたき台となるのは米欧案だけではなくなる。そうなれば、交渉はますます混迷を深める。といって、これだけの強大勢力の共同提案が無視されれば、交渉決裂は不可避だ。WTOの権威は失墜、自由貿易協定(FTA)を武器とする米国の一方的攻勢が世界を席捲する。世界は破滅へのコース、イラク戦争への道と同じ道を突進することになる。真に危機的な状況だ。
----------------------------------
4.意見:自由貿易協定の根本的見直しを
----------------------------------
メキシコとの自由貿易協定(FTA)交渉が大詰めを迎えている。10月のフォックス・メキシコ大統領訪日までの大筋合意を目指し、農水省も今月末までに関税撤廃品目のリストを示すことを約束したという。農業者団体は、メキシコ側が強い関心をもつ豚肉・小麦・蜂蜜・砂糖などの関税撤廃を拒否するように要求しているが、FTA締結を目指す以上は、その実現は極めて困難だ。農水省もFTA締結自体を阻止するのでないかぎり、農業問題がネックとなってFTA交渉が躓くのは避けねばならないだろう。
WTOのFTAに関する基準は、原則としては貿易額の「実質的にすべて」を自由化の対象とすることを求めている。FTAは「無差別」を基本原則とするガット/WTOが「貿易促進」に寄与するかぎりで認めた例外的協定なのだから、これは当然のことだ。実際には、「実質的にすべて」というのは「90%以上」という暗黙の了解があると言われ、EUはこの了解に従って関税撤廃例外品目を設ける協定を結んでいる。しかし、この基準を適用しても、農業者団体の要求するすべての品目を例外とすることは不可能である。欧州自由貿易連合(FTA)のように、初期の協定では農産物すべてを例外とし、ガットの異論にもかかわらずこれを追認させた例はある。だが、その後このような協定は生まれていないし、強化されたWTOのFTA審査制度の下でこれが認められる保証はない。この審査制度もWTO加盟国の対立により機能不全に陥っているから、これに乗ずる可能性がまったくないわけではない。しかし、そうなれば日本に対する国際的信用は完全に失われる。とても採用できない外交的選択だ。それでも敢えてこれを選択するとしても、今度は、協定から何の利益も引き出せず、日本企業のみが利益を得る協定にメキシコが同意するはずもない。WTOの基準を歪め、審査を無視し、国際的信用を失墜することも覚悟で交渉を進めるとしても、交渉の成否は相手次第である。
筆者は農業者団体の要求を批判するつもりはない。だからといって、あくまでFTA締結を目指すのが国の政策として確認されている状況の下では、農水省の動きを批難することもできない。問題は、貿易自由化の手段としてFTAや二国間交渉・協定が世界の主流となってしまっていることにある。そのために、財界、政府関係者、マスコミ界に、世界の潮流に乗り遅れれば企業が多大の損失をこうむり、日本経済の将来にも大きな影響が及ぶという焦燥感が高まっている。それが、日本が堅持してきた多角的交渉・協定(WTO)重視から二国間・地域交渉・協定重視への戦略転換を生んだのだが、農業がネックとなってこの戦略の実現が遅々として進まない。これに対する不満が頂点に達しつつあるのが現状である。8月25日付の”「FTA大競争」に遅れをとるな」と題する日経新聞社説は、WTO自由化交渉では時間がかかり、合意内容も薄いから、二国間で貿易・投資自由化などに関する「内容の濃い」協定を結べば、「グローバル化した企業の活動を促して互いの経済活性化に役立つ」、「ひと握りの人々を手厚く守るために国益を犠牲にしてはならない」と言い、「農産物の市場開放などの難題を乗り越えて協定締結を急ぐ必要がある」と主張する。
極めて説得力ある主張に見えるかもしれない。しかし、ここに主張されているようなFTAの経済的利益は本当に確認できるのか。FTA締結交渉に先立つ影響評価では、協定により貿易量やGDPが何%増加するとされるのが常である。また、協定がないために大きな損失が生じているといった言い方もよく聞く。しかし、協定締結後にこのような利益があったとは、世界のいかなる研究も確認していないのだ。
先頃発表されたWTOの2003年貿易報告は、利用可能なデータによれば、多くの地域貿易協定(RTA、FTAはその一形態)について、加盟国間の貿易が拡大したとか、域外よりも急速に拡大したという経験的証拠はないとしている(参照:WTO世界貿易報告、地域貿易協定に懸念,03.8.22)。その大きな理由として、RTAにつきものの「原産地規則」がある。これは、当該商品が協定を適用される協定国で生産されたものであることを確認するための規則であり、域外国の商品が関税撤廃の恩恵に便乗することを防ぐために不可欠な規則である。しかし、製品、原材料、部品、あらゆるものが大量に、頻繁に行き交う時代、域内産でるあることの立証はますます難しくなる。そのために、原産地規則は非常に複雑なものになってきた。取引業者が域内産であることを立証するためのコストは大変なものになり、関税撤廃から得る利益を超えてしまうことが多い。利益を享受するためには、メーカーも立地を変える必要に迫られる。FTAの数が増えれば、この選択もますます難しいものになる。結局、大部分の企業はFTAの利益に与ることを断念してしまう。その利益を享受できるのは、極めて「有能な」ごく一部の企業に限られる。今年、シンガポールと米国がFTAを締結したが、大部分のシンガポール企業は、どうしたらその恩恵に与ることができるのかと戸惑うばかりだ。
米州開発銀行(IDB)は、主としてラテン・アメリカの最近のRTAを包括的に研究した2002年の研究報告で、過去10年、こうした協定の貿易パターン・世界の福祉・多角的貿易制度に対する影響の大量の研究が現われたが、経験的証拠は限られており、「特恵に基づく貿易障壁の変化の程度とその結果としての二国間貿易量のの変化についてはほとんど何もわからない」と結論している。これも、複雑化し・制限的になる原産地規則が大きな非関税障壁となる可能性が高いと述べている。WTO報告も指摘するように、FTAによって異なる多数の原産地規則や様々な技術・安全・環境・労働基準、様々な規制(知的所有権保護、投資・資本移動規制、サービス規制などを含め)が適用されるようになり、国際貿易は一層複雑で、コストのかかるものになる。企業は相手国ごとに異なる基準・規制に対応せねばならず、ビジネス・コストは増大するばかりだ。
その上に、多くのRTAの経験は、その締結によって地域格差の拡大や貧富の差の拡大が起き得ることも示している。これについては、「反グローバリゼーション」運動が強調してきたが、先のIDBの研究報告も、それを否定も肯定もせず、その可能性を認め、これを防止するための様々な方策を考究している。少なくとも米国と北米自由貿易協定(NAFTA)を結んだメキシコでは、このような悪影響が甚大で、食うに困った多くのメキシコ人が職を求めて米国への「不法移民」を試み、国境を超えた砂漠地帯で息絶えるという悲劇が頻々と起きている。豚肉自由化でわが国農民がこうむる被害などはるかに越える悲劇を生んでいるのである。RTAの元祖であるEUは、もともとの格差がNAFTAほどには大きくない国々の集まりであるが、それでも統合の深化と拡大に応じて、地域格差を是正し、貧富の差の拡大を防ぐための措置を拡充してきた。そのための予算は、いまやEU予算の半分近くを占める共通農業政策(CAP)予算に匹敵するまでに拡大している。FTA推進論者は、このようなコストは無視するのだろうか。それとも、ついて来れない地域や人々は切り捨てるのみなのか。「ひと握りの人々」のために「国益」を損ねてはならないと。しかし、その「国益」さえ、だれも確認していないのだ。
今となっては何を言っても無駄であろうが、FTAは、世界の潮流に乗り遅れるのを恐れて急ぐのではなく、このような視点から根本的に見直される必要がある。農業者団体も、自由化例外を求めるだけでなく、このような視点からFTA戦略の根本的見直しを迫るのが本筋と思われる。幸い、WTO事務局がFTA増殖に警報を出したばかりである。事務局のこの警告に従うようにWTO加盟国政府に対して圧力をかけること、そこに市民・農民の役割がある。
詳しくはWAPICのHP
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/
をご覧ください。