反GMイネ生産者ねっとNo.402

2003年7月16日

農業情報研究所(WAPIC)

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英国:GM作物の経済的便益は小

首相府戦略ユニット

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英国首相府戦略ユニット(http://www.number10.gov.uk/output/Page77.asp)は、7月11日、遺伝子組み換え(GM)作物のコストと便益を探るレポートを公表した。

 

 この研究は、今年6月に始まり7月18日に終わる政府資金による国民論争・「GM nation」、今月末に発表される予定の「GM科学レビュー」と並び、英国政府が3年間に及ぶGM作物営業栽培の「モラトリアム」を解除するかどうかを決定するためのGM作物評価プロジェクトの一環をなす。先頃、国際科学評議会(ICSU)がGM作物の包括的と賞する評価を発表したが、後に発表される科学的評価と合

わせたこの戦略ユニットの評価は、熱烈なGM技術推進論者であるブレア首相のためのワーキング・スタッフによるものとはいえ、また英国という限られた地域に限定されているとはいえ、ICSUの評価を上回るGM作物の包括的で・公正な評価を提供すると思われる。GM推進論者であれ、GM反対者であれ、今後、無視するとのできない重要なレポートとなろう。

 

 今回のレポートは、首相のGM作物への大きな期待に沿うものとはならなかった。政府のお膝元から出されたこのようなレポートは、この秋にはGM作物の営業栽培にゴー・サインを出す心づもりの首相に、またも痛烈な打撃を与えるであろう。やはり政府お膝元の「イングリッシュ・ネイチャー」が、除草剤耐性GM作物が英国カントリー・サイドに破滅的影響を与える恐れがあると警告した直後のこの報告である。

 

 このレポートの最終結論は、GM作物は、国民の激しい反対に直面する英国にはほとんど経済的便益をもたらさないだろうというものである。GM作物が長期的には「農民や消費者に広範な便益を提供する潜在力をもつ」としても、「現在の英国には狭い範囲の既存GM作物が適するだけであり、また消費者の需要の弱さが摂取を制限するから」、短期的には経済的便益は限定されそうだ。GM作物はアレルギー源を減らし、栄養を付加し、薬品やワクチンの源泉として利用されるなど、長期的には英国国民に直接的な健康便益を提供することができるが、将来のコストと便益のバランスは国民の態度と不確実性を管理する規制システムの能力に依存するという。また、GM作物が非GM作物の耕作に与えるかもしれない影響においてあり得る「トレード・オフ」(一方の便益は他方のコストになる)の関係を強調、非GM作物からGM作物を隔離するコストが政策決定に影響を与える要因となることも指摘している。報告の主要な結論は以下のとおりである。

 

 ・GM作物は英国農民に若干のコストと便益を与え、またGM作物の将来の開発は農民と消費者に広範な便益を与える可能性がある。しかし、少なくとも短期的には、消費者の弱い需要がGM食品を含む製品の需要を制限し、従って現在の世代のGM作物の経済価値を制限すると予想される。長期的には、国民の態度と不確実性の有効な管理のための規制システムはコストと便益を中心的決定要因となる。

 

 ・近い将来に利用でき、英国に適した作物は除草剤耐性のトウモロコシ・甜菜・油料種子ナタネに限定されている。これらの作物は農民に多少の便益を与えるが、消費者には目に見えるような便益を与えない。将来は小麦やポテトのようなより広範な作物が開発される可能性がある。また、英国の普通の病害虫に抵抗性のあるGM作物、アレルギー源を減らしたり、栄養を付加した食品、非食用作物からの薬品やワクチン

の生産などが開発される可能性もある。同様な開発の一部は通常・有機技術からも生じる可能性がある。

 

 ・GM作物に関する将来の決定は、一分野におけるコストと他の分野における便益の間のトレード・オフにかかわる。例えば、厳格な規制は消費者にとって重要なリスクを減らすが、GM作物の開発企業やそれを栽培する農民の財政コストを課すことになる。

 

 ・GM作物耕作の非GM作物・有機作物耕作への影響もトレード・オフを生み出す可能性がある。GM作物栽培に関するルールの性質が農場レベルでGM作物を非GM作物から隔離する有効な方法を決定することになる。それは、GM作物を栽培する農民が直面するコストのレベルと、非GM・有機農民が製品の純粋性を確保するために投じねばならないコストの大きさを決定することになる。

 

 ・コストと便益は作物と形質により変わり、ケース・バイ・ケースの評価が必要である。

 

 ・GM政策の決定は国民生産に大きな貢献をなす英国の広範な科学ベースの産業、英国産業の国際競争力、情報に基づいてGM選択を行なう途上国の能力にも影響を与える。

 

 環境保護団体・「地球の友」(http://www.foe.co.uk/)は、レポートがGM作物の短的経済的利益をほとんどなしとし、国民の反対が続く限り、長期的に同様だと認めたことを評価、政府は、英国農地にGM作物を入れないことで英国農民と食品製造者がGMフリー食品の世界的需要を充たすのを助けるべきだと発表した。「将来は消費者・農民・環境の利益となる持続可能な農業への投資プログラムを優先すべである。これを達成するために、政府は作物バイテクへの執着を止める必要がある。このレポートは、多分その第一歩だ」と評価している。

 

 環境担当相・エリオット・モーレイは、「レポートはGM作物はGM技術が英国の将来の経済繁栄と持続可能性に貢献する大きな潜在力をもつ分野であることを際立たせた」と政府に有利な側面を強調するが、同時に、「レポートはGM作物が我々の目標を達成するための一つの可能な手段でしかないー作物生産における発展は通常・有機技術からも生じるーことも指摘した。レポートがGM作物の将来の役割を形作るうえで消費者と小売業者が重要な役割を演じると指摘したことはまったく正しい」と認めた。政府の政策選択が一層難しいものとなったことは確かなようである。

 

 

 

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