反GMイネ生産者ねっとNo.392

2003年7月3日

農業情報研究所(WAPIC)

 

・EU:GMO新規則に前進、GM世界戦争は不可避

・追補:声 明

    フランス農民同盟

    フランス農業協同組合連合(CFCA)

 

 7月2日、EUの欧州議会は、遺伝子組み換え体(GMO)を追跡し・表示し、またGMOから派生する食品と飼料の販売と表示を規制するための明確なEUシステムを確立する欧州委員会の二つの提案を最終的に採択した。

 

 

欧州議会採択の最終案

 

 最終採択案は、議会自身の以前の案をいくつかの点で修正するとともに、昨年12月に閣僚理事会が採択した案を多くの点で修正した。

 

GM食品・飼料の販売と表示の規制については、特に重要な修正は次のとおりである。

 ・偶然的な、または技術的に不可避なGMOの存在の場合の表示に関しては、(表示が要求されない)最大限許容量を各成分について0.5%とする以前の欧州議会の案から後退、0.9%とする妥協を行なった(0.5%案については、今後理事会と調整する)。

 

 ・GM生産と非GM生産の共存を確保するための措置が取られるべきとした(EU構成国は他の製品中のGMOの偶然の混入を回避するために必要なあらゆる措置を取る)。共存の技術的詳細は「コミトロジー手続」(※)により決定されるべきである。これは欧州議会が義務的措置の導入に失敗したことを意味する。

 

 ・種子としても利用できる食品と飼料は、これらのすべての利用目的で許可された場合にのみ販売されるべきである。

 

 ・緊急措置に関して、深刻なリスクがあり得る場合にはEU構成国が(単に欧州食品安全庁や欧州委員会に知らせるだけでなく)自身で緊急行動を取ることを可能にするというGMO放出指令に定められた条項の言い方を取るべきである。

 

 その他、閣僚理事会案が最初の承認申請はEU構成国に提出されるが、承認の更新の申請は欧州委員会に対してなされるとしている点について、この責任の分割は適切な管理の原則に反するとして、更新の申請も最初の申請がなされたEU構成国に対してなされるべきとするなど、販売承認手続についても多くの修正を採択した。

 

 

  GMOのトレーサビリティー・表示規則に関しては、

            製品中にGMOが混ざっているという正確な記述の代わりに「使用の申告」を事業者に許すという理事会採択案に反対、

            また、GMOから派生した予めパックされた製品は、ラベルでも、広告などでも、「この製品はGMOから生産された」という言葉を使用して、その旨記述されるべきとした。

 ・ さらに、EU構成国の要件達成を支援するために、欧州委員会が、EUで流通が許されるGMOについて利用可能なすべての遺伝子配列情報と基準物質を含むEUレベルの中央レジスターを創設することにも合意した。このレジスターには、利用可能な場合、EUで許可されてないGMOに関する情報も含まれる。

 

 なお、欧州議会は、これらの規則は、一定のEU構成国における新たなGMOの販売承認「モラトリアム」の自動的解除につながるものではないが、政治的には解除を容易にすると注意している。

 

 これら二つの規則は、閣僚理事会による討議を経て、9月までには最終的に採択されると見られている。新規則の下でのGMOのトレーサビリティーと表示、及び関連規制は次のようになる。

 

 

  新規則の下でのトレーサビリティー・表示と関連問題

 

1.トレーサビリティー

 GMOを含む製品、GMOから派生した製品の生産から流通の末端までの追跡が可能になる。GM製品を利用するか扱う事業者は販売の各段階で、製品中のGMO存在の情報を伝達し、5年間保存しなければならない。

 

 これにより、GMOの環境影響や表示の監視が容易になる。また、予期されない悪影響が生じた場合には、製品の市場からの撤去も可能になる。

 

 欧州委員会は、情報の伝達と保存は製品のサンプリングと検査の必要性を減らすとしている。欧州委員会は、この規則の実施に先立ち、サンプリングと検査の方法についての技術的指針を開発する予定である。

 

2.表示

1)GM食品の表示

 現在、小売業者にはGMOから構成されるか、GMOを含む食品の表示を義務付けられている。遺伝子組み換えから生じるDNAや蛋白質が最終製品に検出される場合(GMトウモロコシから生産された粉など)、GMOから生産された食品にもこの義務がある。ただし、一部の食品(GM大豆やGMトウモロコシから生産された高度に精製された食用油など)や食品成分(GMトウモロコシから生産された油を使ったビスケットなど)にはこの義務がない。

 

 新規則の下では、このような食品や食品成分にも表示が義務付けられる。ラベルには、「この製品はGMOを含む」、あるいは「この製品はGMO(その名称)から生産された」と表記しなければならない。

 

2)GM飼料の表示

 これまでは表示義務がなかったが、今後はGM食品と同様な表示が義務付けられる。例えば、GM大豆ミールやGM大豆を成分に含む配合飼料、GMトウモロコシから生産されたコーン・グルテン飼料など。

 

3)義務的表示を免除される最大許容量

 現在、通常食品中のGM物質が1%以下で、この混入が偶然か、技術的に不可避な場合には表示義務はない。今後は、欧州議会の最終案がそのまま通れば、この最大限は0.9%になるであろう。

 

3.未承認GMOの偶然の混入

 現在、EUで承認されていないが、EUのリスク評価でリスクはなさそうとされたGMOの偶然の食品・飼料中の存在の最大限許容量はない。欧州議会は、事業者がこの存在が技術的に不可避と立証する場合、この限界を0.5%とする案を採択した。

これを超えないレベルの未承認GMOを含む食品の販売は許される。ただし、これは規則発効後3年間だけである。

 

4.共存問題

 1999年6月、閣僚理事会は、イギリス・アイルランド・フィンランドの3カ国を除く賛成で採択された宣言(法令ではない)により、GMOの新たな承認の「モラトリアム」を決めた。新規則の採択は、このモラトリアムを「自動的」に解除するものではないとしても、EUにおけるGM作物の大規模栽培に大きく道を開く。この場合、新規則によってもGMOに対する不安を払拭しきれない重大問題が生じる。通常・有機作物のGMO汚染を回避できるのかという問題である。

 

 前記のように欧州議会は、通常製品・有機製品中の意図せざるGMOの存在を回避するための適切な措置をEU構成国が取ることができるとした。欧州委員会は、これを実行するための枠組みを構成国に提供する勧告を出す。しかし、この措置は構成国により大きく異なるものになる恐れが強い。通常・有機作物のGMO汚染のレベルが抑えられない場合、上記諸規制も意味をなさなくなる恐れがある。

 

 

  欧州議会決定への反応とGM作物の将来

 

 GMOの人間の健康と環境への悪影響を恐れる諸団体は、欧州議会の決定を消費者の情報と選択への権利を強固にすると一応の歓迎を表明している。しかし、いくつか点で不満を残している点でも共通している。

 

 「地球の友」は、とりわけ、欧州議会がGM作物による通常作物・有機作物の汚染を防止する措置を各国が取ることを許したことを高く評価する。それにもかかわらず、GMO汚染の許容値が高すぎること(欧州議会と理事会は0.9%で合意したが、現在の検査では0.1%まで検出できる)、未承認GM物質による食品・作物汚染が3年間許されたこと、構成国が近隣農場の汚染防止措置を取るWべき”としないで、取ることがWできる”としたことを懸念している。また、バイテク企業に環境汚染の責任を取らせる厳格な「責任義務(ライアビリティー)」を要求している。イギリスの有機農業団体・土壌協会もほぼ同様な見解を発表、GMO営業栽培の禁止を要求した。

 

 グリーンピースは、欧州議会がGMOの表示に関する世界一厳格で・包括的なルールを採択したのは消費者の「歴史的勝利」であり、GMO規制を廃止しようと世界中でキャンペーンを強化している米国政府やバイテク産業への抵抗の模範例と最大限の賛辞を送っている。それでも、GMOで飼育された動物からの乳・肉製品に表示義務がないことは重大な抜け道であると批判、「地球の友」同様、共存のための措置が「義務」とされなかったこと、GMO汚染の許容値が高すぎることにも懸念を表明している。

 

 ヨーロッパ最強の農業者団体・フランスの農業経営者連盟(FNSEA)は、「GMO品種の消費者と農業者の利益が証明されないかぎり、国土上でのその生産に引き続き反対する」、「非GM部門、特に有機農業部門の維持を重視する」という声明を出した。

 

 他方、米国のコーン栽培者協会(NCGA)は、欧州議会の決定による新たな表示義務は生産者にはコストが高すぎ、欧州諸国へのバイテク作物の輸出をさらに禁ずるのみ、事実上の「モラトリアム」もすぐには解除されないと失望を表明した。全米ファーム・ビューローも、新規則は事態を一層悪化させるだけと、WTOで一層攻撃的に行動するように政府に要請した。

 

 GM作物営業栽培の解禁をめぐって、イギリスでは政府主催の国民的論議が続いている。政府は解禁に向けて極めて積極的である。しかし、抵抗も日ごとに強まっている。先月末には、政府のお膝もとの「イングリッシュ・ネイチャー」が、新たな世代の除草剤耐性作物の営業栽培が始めまれば、厳格な規制が課されないかぎり、最悪の場合、パラコートや2.4Dのような古い除草剤を使わないかぎり退治できない「スーパー雑草」が生まれ、昆虫も小鳥も野生動物も死に絶えて、カントリーサイドが破滅する(「沈黙の春」どころではない)と警告した。解禁に反対してきた国々のみならず、イギリスでさえ、GM作物営業栽培への道はならされていない。

 

 米国の攻勢は止まらないだろう。WTOでのEU・米国の協議は決裂した。米国はパネル設置を要請した。米国は勝算を信じている。EUのモラトリアムばかりか、トレーサビリティー・表示規則も「科学的根拠」のない貿易障壁だと主張している。しかし、7月1日、FAO/WHOのコーデックス委員会は、リスク管理の手段としてのトレーサビリティーの原則を確認、GM食品がアレルゲンやその他の毒性物質を含

むかどうかを決定する手続も決めた。これはGMOの強力な規制を支持するであろう。通常食品・作物と同様に安全であるからGMOに関するトレーサビリティーや表示は無用であり、貿易障壁であるという米国の主張は、パネルでも全面的には認められない可能性がある。

 

 その場合には、米国はWTO脱退さえ選択するかもしれない。そこまでいかなくても、一方的貿易戦略をますます強めるであろう。自由貿易協定交渉などを通じての途上国の個別撃破戦略に拍車がかかる。

 

 ブラジルに対しては、政治家・科学者・環境団体の代表者に旅行費用を支給、米国と南米でのGM作物利用状況の調査に駆り立てた。スケジュールには、一行のモンサントお偉方とのディナーも組まれている。ブラジルのGM政策の将来を左右する、差し迫った立法がGM作物導入を容易にするように働きかけるキャンペーンの一環である。

 

 先月、サクラメントでの米国農務省後援の農業技術国際会議では、デモ隊が米国政府のGM作物のエネルギッシュな売り込みに抗議、GM作物は貧しい国の小農民に損害を与えると訴えるなか、農務長官・アン・ベナマン等は、この会議は途上国の飢餓削減を助ける農業方法を検討すると言いながら、GM農業の途上国にとってのメリットを強調するばかりであった。ワシントンのバイオテクノロジー産業機関(BIO)

の年次会合に「出演」したブッシュ大統領は、ヨーロッパ諸政府が「根拠がなく、非科学的な恐れに基づいて」バイオテクノロジーの輸入を阻止しているために、アフリカ諸国はEU市場へのアクセスを失う恐れでGM作物の利用に踏み切れないと、「飢餓に脅かされる大陸を救うために、私はヨーロッパ諸国がバイオテクノロジーへの反対を止めるように要請する」と演説した。BIOは、この大会にアフリカの科学者と農民を招き、ケニヤ・ハーベスト・バイオテクノロジー在団理事長のフローレンス・ワンブグに「アフリカは緑の革命の機会を失した。バイテクノロジー革命の機会を失してはならない。食糧生産を改善するためにGM作物を含む農業バイオテクノロジーを緊急に必要としている」と語らせた(しかし、同じ会議で、アフリカ消費者国際事務所(CI−ROAF)の地域理事を務めるジンバブエのアマドゥ・カヌートは、米国のGM作物の普及は小規模アフリカ農民を不利にすると語っている)。

 

 中東との自由貿易協定交渉の要となるはずであったエジプトとの交渉の約束は、EUとの関係悪化を恐れるエジプトがGMOモラトリアムをめぐる米国とのWTO共同提訴を降りたために、米国が一方的に反故にした。これにより、エジプトは親米アラブ諸国が勝ち取るであろう米国市場への有利なアクセスを失うことになる。アメとムチを使い分ける米国の途上国へのGMO強要作戦は、EUと米国の争いを超えた世界「戦争」を引き起こしている。これを止める力は今の世界のどこにもない。

 

※コミトロジー手続:法案採択に先立って欧州委員会が様々な委員会に諮問することを定めた手続を意味するが、EUの立法・政策決定過程の不透明性や非民主性を象徴する言葉としても使われる。

 

 

 

  追補(03.7.5)

 

1.フランス農民同盟:GMO解放にあらゆる手段で反対 欧州議会の新規則反対を受け、フランス農民同盟は、「GMO解放!欧州議会のスキャンダラスな決定と題する7月4日付の声明で、農民同盟は、GMO製品の国土参入・その播種・GM植物耕作のあらゆる試みに、あらゆる手段で反対を続けると発表した。以下はその全文である。

 

 「欧州議会は、無責任な投票で、99年以来ヨーロッパ領土をGMOの侵入から<護っている>モラトリアムの解除への道を開いた。

 

 農民同盟は、モラトリアムが遺伝子改変植物を抜き取る行動と多くの社会的当事者によるフランスとヨーロッパの世論の覚醒キャンペーンに続くものであったことを喚起する。

 

 この時以来、また安定的に、ヨーロッパの人々の70%以上が、遺伝子組み換え(GM)植物の食料と自然への導入への反対を常に表明している。同時に、何十人もの研究者が、その同僚と社会に対し、GMOの食料と環境への導入が引き起こすリスクに警告のメッセージを出している。

 

 いまや、他家受粉による多様な植物の汚染が明白で、不可逆的なものであることが確実となり、科学界、さらには種子企業自体もこれを認めている。これは多くのタイプの農業の共存を不可能にし、保険会社も国土上でのGMOの存在が生み出すリスクをカバーすることを拒否するにいたっている。いわゆる二重部門の設置は絶対に不可能であり、汚染は誰も食い止めることができない。

 

 欧州議会のこの決定は、自身による生物の再生産と選抜を禁止することで農民を自らに依存させようとする農産食料産業の支持者と種子・農芸化学産業圧力団体を、またも喜ばせるであろう。

 

 生物の私物化、そして特許により、健全で十分な食料への権利が一握りの多国籍企業に奪い取られるであろうことは、ますます多くの人々が意識するようになっている。然るに、ヨーロッパの政治家は米国の圧力と企業の要求に屈し、それによってモラトリアムが可能にした国土と政治の保護を犠牲にした。

 

 農民同盟は、このような政治家に対し、数週間前に獲得され、50ヵ国が批准したカタルヘナ議定書の存在と価値を喚起する。それは、国家が政治的意志をもてば、WTOの規則をこれに従わせることができるものだ。

 

 農民同盟自身は、他者とともに、国土にGMO製品が入ること、国土でのその播種、そしてGM植物の耕作のあらゆる試みに、あらゆる手段によって反対することを続ける。」

 

2.フランス農業協同組合連合(CFCA):許容限度を高めよ

 CFCAは7月4日、欧州議会が0.9%を表示を免除されるGMO最大限許容量としたが、これは低すぎて様々な部門の共存を困難にすると批判する声明を出した。

それは、フランスとヨーロッパの農業生産者が、多少なりとも加工された製品をヨーロッパに輸出する他の国の農業者と同等な条件でGM技術にアクセスできるように、経済的・技術的に現実的な付随措置の決定に参加することを望むとしている。

 

以上、詳しくは農業情報研究所『WAPIC』のHP

http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/GMO/highlight/euGMO/label01.htm

をご覧ください。

 

 

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