反GMイネ生産者ねっとNo.342
2001年8月2日
毎日新聞(シュマイザーさん関連記事)
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ゲノムが世界を動かす 新世界への挑戦 第4部
農業支配を強める企業 遺伝子組み換え作物浸透
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遺伝子組み換え技術は農業の世界も変えつつある。農産物を消費する側も、この流れに無縁ではない。「主役」は、ここでも営利を追い求める企業である。
カナダ・サスカチュワン州で農業を営むパーシー・シュマイザーさん(70)は、世界的な科学企業、モンサント社(本社・米国)に特許権侵害で訴えられた。同社が開発した遺伝子組み換えナタネを勝手に栽培したという理由だった。
シュマイザーさんの畑のナタネには、確かに組み換えナタネが混じっていた。だが、身に覚えはなかった。彼は「隣の畑から組み換えナタネの花粉や種子が飛んできた」と主張した。今年3月、カナダの連邦裁判所は、シュマイザーさんに2万カナダドル(約170万円)の賠償金支払いを命じた。意図的でなくても遺伝子組み換え作物を栽培したら特許料を払わなくてはならないというわけだ。シュマイザーさんは「混入で被害を受けたのは私の方だ」と憤り、控訴して係争中だ。
このナタネは遺伝子組み換えでモンサント社製の除草剤「ラウンドアップ」に抵抗力(耐性)を持たせたものだ。普通のナタネは、強い除草剤をまくと枯れてしまうから、除草剤の種類を工夫して何度もまかなければならない。このナタネならラウンドアップだけでいい。散布回数も少なくてすむ。
農作業の手間が省ける遺伝子組み換え作物の作付面積が着実に増えている。害虫に強くなるように遺伝子を組み換えた作物もある。米国では大豆の作付面積の70%、とうもろこしの33%を組み換え作物が占める。カナダでもナタネの55%が組み換えだ。
モンサント社は、自社製除草剤とそれに耐性を持ったさまざまな組み換え作物の種子をセット販売し、作付面積に応じて技術料を徴収している。収穫した種子は使えない契約である。農家は毎年種子を購入しなければならない。同じような企業はほかにもある。カナダの判決は、こうした企画による“農業支配”にお墨付きを与えるものだった。
日本ではどうか。組み換え作物への抵抗感は強い、東京都が昨年行ったアンケートでは、消費者の90%が「食べることに抵抗を感じる」と答えた。菓子や豆腐メーカーなど食品業界はこぞって非組み換え原料への切り替えを図っている。
しかし、日本でも組み換え作物を試験栽培は始まっている。愛知県農業総合試験場は、モンサント社と共同で除草剤耐性イネの開発を進めている。水を抜いた田は雑草が繁殖しやすい。このイネなら発芽直後でも除草剤を使えるから、種をじかにまいて育てられる。
井沢敏彦・育種研究室長は「田植えや草取りの手間が省け、生産コストが抑えられる」と話す。遺伝子組み換えで、アレルギー物質を除去した小麦や、鉄分が豊富なコメなどを作る研究も進んでいる。生産者の利点ではなく、消費者に魅力ある作物を作ろうというわけだ。「こうした作物ができれば、日本の消費者も組み換え作物を受け入れるかもしれない」と高倍鉄子・名古屋大教授(環境資源学)は言う。
だが、難問がある。組み換え技術の基本特許の多くは、外国の企業に押さえられているのだ。今年1月には、スイスの科学企業、シンジェンタ社がイネゲノム(全遺伝子情報)を解読したと発表し、アジア市場に進出する意向を示した。コメ輸入はすでに自由化され、輸入米に高額の関税をかけ続けるのも困難とみられる。 「海外で組み換えによる安いコメができたら、日本のコメは対抗できない。地球環境の悪化などで食糧は世界的に不足する恐れがある。組み換え作物を拒否していたら、食糧を確保できなくなるかもしれない」
農業生物資源研究所の肥後健一・分子遺伝部長は警告する。