反GMイネ生産者ねっとNo.333
国内で試験栽培が予定されているGMイネ2種類について
1990年代後半から始められてきた、遺伝子組み換え作物の研究の多くが具体化されつつあり、農水省からの『模擬的環境利用』(多くの場合隔離ほ場での栽培試験)、あるいはそれを踏まえたうえでの、『開放系利用』(一般ほ場での栽培試験)といった環境での安全性認可がされるという段階になってきています。
これらの研究の結果として、目的のGM作物の種の固定の作業がなされ、品種として登録されるのを待つばかりとなります。そして、厚生労働省への食品としての安全性の認可申請という段階へと進み、認証されれば食用を目的としてのGM作物が誕生することになります。
現在、2つのGMイネについて問題が持ち上がっています。岩手生物工学研究センターのSub29と、北海道農業研究センターのPE2、PE84です。
今年4月、Sub29とPE2、84に対しては、試験栽培のための環境安全性が農水省から確認されています。そして本年度、岩手生物工学研究センターでは隔離ほ場で、北海道農業研究センターでは一般ほ場において試験栽培の実施が決まっています。
それぞれのGMイネについて、河田昌東さん(遺伝子組み換え情報室)からのコメントをいただいていますので、参考にしてください。
以下、河田昌東さんコメント:
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■岩手生物工学研究センターの遺伝子組換え低温耐性イネ(Sub29-17) の遺伝子について
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岩手生物工学研究センターが今回隔離圃場における栽培試験を行う低温耐性イネ(Sub29-17)の遺伝子構成は以下のとおりである。
1)導入遺伝子:
グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GTS):イネ由来Sub29系統の87個体の一つ(?)
プロモーター:ユビキチン(Ubiquitine)のプロモーター:由来不明(イネ?小麦?)
ターミネーター:不明
2)選択マーカー遺伝子
:ハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT)
:カナマイシン耐性遺伝子(NPT)
(両方とも大腸菌プラスミドベクター由来の抗生物質耐性遺伝子)
GTS酵素は動植物、微生物にも普遍的に存在し、細胞内で含硫黄還元性物質グルタチオンをさまざまな毒物に結合して弱毒化し、あるいは水に可溶性にすることで解毒作用を発揮していると考えられている。また近年の研究により、体内の代謝で生ずる活性酸素を還元、無毒化するなど多機能の酵素であることが分かっている。細胞には5種類のGSTが存在し、それぞれの役割を担っている。このようにGST酵素群は毒物を中心とした各々の環境ストレスに耐性を与えるが、低温耐性という特別な機能を持つGST酵素(遺伝子)があるわけではない。今回利用されたGST遺伝子は、いもち病感染イネから分離したGST遺伝子の作るGST酵素による代謝の変化や低温ストレスで発生する活性酸素消費などの間接的結果として低温耐性が獲得された、と考えられる。
明らかにすべき点:
(1)導入されたGST酵素の種類(アルファ、パイ、ミューなど)と細胞内の所在、機能。
(2)イネが持つ本来のGST遺伝子の他に何コピーのGST遺伝子が新たに導入されたか。
その結果、細胞内のGST酵素の活性は何倍に増幅されたか。
(3)導入GST酵素が低温耐性を付与するメカニズムについて。
(4)本来のGSTプロモーターでなく、ユビキチン遺伝子のプロモーターを採用した理由
(注:ユビキチンもあらゆる細胞に存在し、エネルギー依存性のタンパク質分解に関わる小タンパク質)
問題点:
(1)GSTはさまざまなストレス応答を行うことが知られており、低温耐性付与に伴い予期しないストレス応答機能が同時に付与される可能性がある。そうした点を事前に十分解明する必要がある。例えば除草剤耐性、カドミウムなどの重金属蓄積性などを獲得していないか、など。
(2)ストレス応答には非常に多くの(30種類近い)遺伝子が関わっており、一種類の遺伝子を増強することで、他の遺伝子の働きにも影響を与える可能性が高い。このことはこれまで遺伝子組換え作物の安全性を確保すると言われてきた、いわゆる「実質的同等性」で保証する「1個の導入遺伝子の発現」の概念をそのまま当てはめられない可能性がある。
(3)大腸菌由来の抗生物質耐性遺伝子が2種類入っているが、これはコメの中では発現しなくとも、遺伝子が存在すれば食べたあとに腸内細菌に取り込まれ、腸内細菌が抗生物質耐性になる危険性が高い。イギリスの実験で除草剤耐性大豆を一食たべた被験者の腸内細菌が除草剤耐性になった例がある。もし、コメのように常食する食べ物に抗生物質耐性遺伝子が入っていれば、人間の腸内で抗生物質耐性菌が出来る可能性がある。こうした危険性はWHO(世界保健機構)などでも指摘されている。
(4)イネは自家受粉性植物であるとはいえ、0.2%程度は他の株にも受粉する。ストレス耐性が近隣の非組換え体に拡散する危険性はないか。国内には交配可能な野生のイネが存在しないが、将来寒冷地など海外に輸出された場合の交配可能性を事前にどう防ぐか。
(5)ユビキチン遺伝子のプロモーターは、通常遺伝子組換え作物の作出に使われるカリフラワー・モザイク・ウイルスの35Sプロモーター(CaMV35S)よりも強力な構成的プロモーターと言われるが、この導入でGST遺伝子以外の遺伝子の発現に影響はないか。
(6)ユビキチン・プロモーター配列の内部には通常、熱ショックタンパク質の発現に関わる配列が含まれる。今回使用した配列には入っているか。入っていれば高温に対する挙動も変化する可能性がある。
結論:この組換え体には未解決の問題あるいは未公開の問題があり、情報を公開し広く一般の意見を聞く必要がある。
GST:Glutathione Transferases グルタチオン転移酵素
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■北海道農業研究センターの酸性土壌耐性イネについて
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(1)農水省生物資源研究所との共同研究である。
(2)農水省の一般圃場栽培の認可を申請したのは、農業資源研究所である。
(3)試験は開放圃場で行われる。
(4)イネの品種は「キタアケ」
(5)導入遺伝子はトウモロコシのC4PEPC(C4型ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ)という酵素の遺伝子
注:この酵素は糖を分解し、エネルギーを生産するTCAサイクルに関わる重要な酵素で、全ての生物が持っている。ブドウ糖が分解して出来たホスホエノールピルビン酸に炭酸ガスと水を加えて、オキザロ酢酸を合成し、これがTCAサイクルの中で分解し、エネルギー源として利用される。即ち、炭酸同化作用に大きな役割を持つ。この酵素は、炭酸同化作用の他に、気孔の開閉、種子の形成などに幅広く関わっているが、この酵素が何故酸性土壌耐性を与えるかは不明。この酵素が増加すれば、光合成と糖代謝が活発になると思わる。
(6)その他、組み換え体の選択マーカー遺伝子として2種類の抗生物質耐性(カナマイシン・ネオマイシン耐性とハイグロマイシン耐性:どちらも大腸菌由来)が入っている。ハイグロマイシンはイネの中でも発現している。
(7)遺伝子組換えの方法は「アグロバクテリウム法」。使ったベクターは、PIG121HmにC4PEPCを組み込んだPIG121Hm−PEPC。したがって、ここで使われているプロモーターはカリフラワー・モザイク・ウイルスの35Sプロモーターで、ターミネーター配列は、よく使われるNOS3'である。
(8)その他に、遺伝子発現マーカー(レポーター遺伝子とも言う。植物には存在しないので、導入遺伝子が植物で発現しているかどうかを検出するために使われる。発現していれば特殊な試薬で植物組織が青く染まる)であるGUS遺伝子(βーグルクロにダーゼ遺伝子:大腸菌由来)が入っていると思われる。
(9)北海道農業研究センターはこの他に「縞はがれ病耐性イネ」「耐寒性イネ」の研究も行っている。
以上、河田昌東さんコメント