GMイネ生産者ねっとNo.326

2003年4月27日

消費者リポート

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クローン牛見学記・・

意図的に導き出されていた安全性

ますます食べたくない!クローン牛

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 3月27日、消費科学連合会の呼びかけで、農水省から助成を受けて畜産新技術の普及推進事業を行なっている畜産技術協会が主催する「クローン技術に関する現地説明会」に参加しました。

 

 バス車中では、優良牛などの育種や日々の飼育がいかに大変かを強調した学校教材向けビデオが上映されました。

 

ダチョウとたった1頭のクローン牛

 最初に、日本農業研究所(財団法人)の実験農場で、環境保全型の畜産農業研究として飼育されている20数頭のダチョウを見せられました。ダチョウは、雑食性が高く飼料資源を活用できる、環境適応性が高い、繁殖力が高い、食肉以外に皮も羽も利用できるなどの理由で国内飼育が進んでいるとのことでした。クローン技術との関連性はなく何のための見学なのか疑問に思いました。

 

 次に、農業技術研究機構(独立行政法人)の畜産草地研究所に移動しました。ホームページによれば、畜産草地研究所は「クローン胎子の発育と正常分娩誘起法の開発に関する研究」をしているとのことで、これを見せてもらえるかと思いきや、牛舎にいる雄の黒毛和牛の体細胞クローン牛「隼人2号」1頭が耳を掻ゆがっているのを見せてもらっただけでした。この牛は、雄牛の耳の体細胞を利用して作られたこと、鹿児島にいる「隼人1号」とともに、体細胞クローンによる種牛として利用されているなど、「普通の牛と変わらないこと」を強調されました。この牛の精子による牛もいるとのことでした。

 

中途半端で納得できない説明ばかり

 その後、つくば国際会議場「エポカルつくば」に移動し、国際シンポジウム「クローン家畜とその安全性」に参加、体細胞クローン由来畜産物(食肉・牛肉)の安全性についての議論を深め、消費者にも理解してもらうという主旨のものでしたが、ますます不安をかき立てられる内容でした。

 

 畜産草地研究所の高橋清也さんは「体細胞クローン牛の成功率の低さには原因究明が望まれ、繁殖性や泌乳能力にも異常例があり、より多くの調査が必要」と話されました。

 

 インフイジエン社のエリック・フォルスベルグ博士は「クローン動物だけでなく、その子孫もFDA(アメリカ食品医薬品局)では承認されていない。消費者の容認は政府の認可と生産物の質とコストによる」とした後、「クローン牛由来の乳の成分比較では一般牛とほぼ同様であつた」と報告されました。シンポジウム会場では体細胞クローン牛の牛乳が試飲されていました。農水省は02年8月13日に、「クローン牛は食べても安全」という畜産生物科学安全研究所の実験結果を発表、その後の厚労省の動向が注目されていました(注:)。

 

 ところが、この研究について講演した同研究所理事・伊藤義彦さんに「消化試験に通常食用にならない生後1〜4日の子牛の肉を用いたのはなぜか」と質問したところ「それぞれの牛に歩行までの期間に差があったため」という見当はずれの回答でした。さらに「マウスによる染色体障害(変異原性)検査は1群たった6匹で行なわれているのはなぜか」と質間したところ、「厚生労働省のガイドラインが5匹からとなっているからだ」との回答でした。

 

 また、@ラットを用いた消化試験は実質3日間のもの、A14週間飼料給与し、30cmから落下させた場合の感覚反射機能検査や、自発運動量、血液・組織学検査では差は認められなかったとしているのも、雌雄各10匹のラットを用いたものであることがわかりました。

 

 この研究は農水省のプレスリリースとしてホームページにも載せられていますが、対照群の数字などは巧みに隠されています。ダチョウや1頭のクローン牛を見せ、安全性を強調するためのシンポジウムで「消費者が食べても安全」と強調されても、とうてい納得することはできません。(古賀真子)

 

 

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厚労省が体細胞クローン牛「安全」報告書

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 報道によれば、体細胞クローン牛の安全性を検討していた厚生労働省の研究班が、「食品としての安全性が損なわれるとは考えがたい」という報告書をまとめたことがわかりました。同省では、報告書の内容を7月に設立が予定されている「食品安全委員会」に諮問して、最終的な結論を出す予定です。これにより、これまで出荷白粛を求めてきた農林水産省でも、流通を解禁する方向で検討に入るとのことです。

 

 体細胞クローン牛は、死産や育成中の死亡が多いことが分かっています。国内で生まれたもののうち、30%以上が死産か出生6日以内に死亡しているほか、病死も17%もあります。なぜ異常が多く、まともに生育しないのか、原因はよくわかっていません。

 

 「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」では、3月14日に体細胞クローン牛を食品として認めないことを求めた申し入れ書と質問状を、厚労・農水両省宛てに提出していますが、4月17日現在、厚労省からの回答はありません。日消連とキャンペーンでは4月14日、「回答する前に、市販を前提とした報告を発表することは、消費者無視もはなはだしいといわざるを得ません」とする抗議の申し入れ書を、坂口力厚労大臣宛てに提出しています。

 

 報道によれば、報告書では「新たな毒性や病原を生む可能性を示す材料はない」ことを安全評価の根拠としているそうですが、逆に、安全であることを積極的に裏付ける材料も示されていません。厚労省は、予防原則に則って、安全性が証明されていない体細胞クローン牛を解禁すべきではありません。

(吉村英一)

 

 

 

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