反GMイネ生産者ねっとNo.320
2003年4月12日
農業情報研究所(WAPIC)
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba
体細胞クローン牛は食品として安全
厚労省研究班
厚生労働省の研究班が体細胞クローン牛の食品としての安全性を認める最終報告書をまとめたという。これを受けた同省は、今年7月に設置される予定の食品安全委員会に諮り、最終判断する意向という。
毎日新聞によれば、報告書は、(1)クローン牛の方が一般牛より流産・死産・生後直後の死が多い(2)その時期を乗り切ったクローン牛の生育や生殖能力は一般牛と変わらない(3)クローン牛のたんぱく質などが、新たな毒性や病原を生む可能性を示す材料はない、としたという。しかし、日本農業新聞は、死亡率が高いなど不確定な要素も残ることから、「新しい技術のため慎重な配慮が必要」とも明記、市場に出荷された場合、問題に対応できる仕組みづくりを求めたと報じている。
他方、農水省は、既に受精卵クローン牛由来の食品については、平成12年6月に出された厚生省のクローン牛の食品としての安全性を研究する中間報告書が「食品としての安全性を懸念する科学的根拠はない」としたことから、販売を推進してきたが、体細胞クローン牛については、より新しい技術であることから出荷の自粛を要請、厚生労働省の安全性評価の結論を待ってきた。この評価のための資料として、昨年8月には「受精卵クローン牛及び体細胞クローンの生産物(生乳、肉)については、成分分析試験、飼料添加による動物給与試験等において、一般牛の生産物との間に生物学的有意差は認められなかった」とする研究結果を報告しているという。
クローン動物由来の食品の販売を認めるかどうかについては、現在、米国やカナダでも検討が進められている。米国食品医薬局は、昨年8月の全米科学アカデミーの遺伝子操作動物の安全性に関する報告を受け、クローン動物やその子の食品としての流通の可否や流通させる場合のルール検討を続けており、今年末には結論が出されると予想されている。全米科学アカデミーの報告は、クローン動物製品の人間による消費については、今までのところでは安全でないという明証はないが、食品の構成に関する追加情報がなければ懸念事項を確認するのは難しいとしていた。更生労働省の最終報告が未だ見られないので、こうした問題がどう解消されたのかについてはわからない。
一般的に、クローン動物は、その元となる動物の遺伝的コピーであるから、理論的には、それを食べることにより、元となった動物を食べる場合と異なる特別の問題は生じないとされている。しかし、FDAは、クローニングは、多少の遺伝子型を、少なくとも僅かに変えるから、それによって肉または乳が影響を受ける小さな科学的可能性があり、予備的比較では、心配はほとんどなさそうであるが、一層決定的なデータを待っているという。
このような食品としての安全性に関する問題に決着がついたとしても、その販売を認めるためには、さらに別の重要な問題がクリアされねばならない。全米科学アカデミーの報告に応え、FDAは、クローニングに出費する育種業者が、多分低カロリー化や乳生産改善のために、動物の遺伝子改変を試みるかもしれないということを懸念している。このような遺伝子操作は、単なるクローニングよりもはるかに大きな潜在的問題を生むから、FDAは、遺伝子改変動物が食べて安全であるという完璧な証拠を要求することになりそうだという。
さらに、全米科学アカデミーが最大の問題として強調した動物福祉の問題がある。全米科学アカデミーは、「バイオテクノロジーの適用は、いつの日か、食料や繊維の生産のために必要な動物の数を減らす可能性があるとしても、動物福祉に悪影響を及ぼす可能性がある。体内(外?)受精またはクローンを通して生産された子牛や子羊は、出生体重が大きく、妊娠期間も長い傾向があり、これは難産につながる。さらに、現在使われている技術のあるものは極度に非効率的で、生き残る胎児は少ない。生き残る動物の多くは、挿入された遺伝子が適切に発現せず、しばしば解剖学的・生理学的・行動的な異常が生じている。乳中での薬品生産のための遺伝子が動物体内の他の部位に移り、悪影響を引き起こす可能性もある」と指摘していた。
米国動物福祉協会は、工業的農業による大量のクローニングが、今でも支配的になりつつある工場農業への動きを加速すると批判している。クローン動物の食品としての販売を認めるかどうかは、農業の基本的あり方にかかわる問題でもある。FDAは、食品安全の観点ばかりでなく、さらに広い視野から販売の可否を考慮しなければならないであろう。
今回の研究報告がストレートに出荷の承認に結びついてはならないであろう。