反GMイネ生産者ねっとNo.318
2003年4月12日
農業情報研究所(WAPIC)
欧州委、EU12ヵ国にGMO環境放出指令実施を迫る
欧州委員会は、4月10日、EU12ヵ国に対し、遺伝子組み換え体(GMO)の環境への意図的放出に関するEU法を実施する国内法を採択し、通知するように公式に要求した。対象国はフランス、オランダ、ルクセンブルグ、ベルギー、ドイツ、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン、オーストリア、フィンランドで、国内法を採択したのはイギリス、スウェーデン、ポルトガルの3ヵ国にすぎない。ここに言うEU法とは、GMOの意図的環境放出に関する1990年の指令を廃止し、改めて制定された2001年3月12日の欧州議会及び理事会指令である。
一般的に、EU法における「指令」は、EU構成国が実施すべき政策の目標や大枠を定めるものであり、構成国政府に対して、各国の実情に応じてこれを実施するための国内法の制定を求めるものである。従って、指令が求める政策は、このような国内法なしには、有効に実施できない。この指令に関しては、各国の国内法制定の期限は2002年10月17日とされていた。それにもかかわらず、15ヵ国中、なお12ヵ国が実施体制を整えていないことになる。
このことは、欧州委員会が強く求め、米国がWTO提訴を構えて迫るGMO新規承認の事実上の「モラトリアム」の解除が不可能であることを意味する。モラトリアム解除に慎重な国は、米国が機能しないし、多分違法であるとみなす表示やトレーサビリティーに関する特別な規則の完成にこだわっている。昨年末に閣僚理事会が政治的合意に達したこれら規則は、現在、欧州議会で最終審議が行なわれているが、特に事故や偶然によるGMO混入の許容レベルをどう定めるかなどをめぐる対立はなお深く、承認は、早くても今年の秋以降であろうとみられている。
この状況のなかで、欧州委員会の焦燥感はつのるばかりである。今回の12ヵ国に対する決定は、欧州共同体(EC)条約第226条に述べられた違反行為是正手続の第二ステージに当たる「理由書付き意見書」の各国への送付であり、各国が特定された期限内(通常は2ヵ月以内)にこれに従わなければ、欧州委員会はEUの司法機関である欧州裁判所に提訴できる。
各国が実施のための国内法を求められている指令は、GMOやそれから構成され、あるいはそれを含むすべての製品の環境中への放出と販売の承認の手続を定めるもので、人間の健康と環境へのリスクの評価を義務づけている。2001年の新指令は、環境リスク評価の原則を改訂、あり得る環境への長期的影響の監視を含む環境放出(販売)後の監視を義務付け、公衆への情報伝達・販売のあらゆる段階での表示とトレーサビリティーの確保・承認の最大限10年への限定などを承認の要件とし、科学委員会への諮問・承認決定に関する欧州議会との協議を義務化し、閣僚理事会には欧州委員会の承認提案を特定多数決で承認または拒否する可能性を与えるなど、リスク評価や承認決定過程に関する新たなルールを導入した。欧州委員会は、この指令が以前の指令を廃止し、一層安全なステップ・バイ・ステップのアプローチを助けるために採択されたと言う。「ファイナンシャル・タイムズ」紙によれば、欧州委員会スポークスマンは、「我々にはほかの選択肢はない。これは各国が望んだフレームワークだ。・・・できるかぎり早く採択されねばならない」と語ったという。
詳しくはWAPICのHPをごらんください。
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/
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