反GMイネ生産者ねっとNo.301
2003年3月19日
農業情報研究所(WAPIC)
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インド:科学は遺伝子組み換え(GM)産業の主張を支持しない
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3月18日付のインド・「ヒンドゥ」紙は、「遺伝子工学産業の精度・予測可能性・安全性の主張は、それ自身の経験、あるいは遺伝学の科学によって裏打ちされない」という生理学者・Debashis
Banerji氏の意見を掲載している。以下は、この意見を要約・紹介するものである。
●遺伝子操作承認委員会(GEAC)は、1年前、インドにおける栽培用Btコットンを承認した。種子を供給したモンサント社は、5万以上の農民が4万ha以上にBtコットンを栽培したと主張している。しかし、これら農民の経験は極度にムラがあり、インド中で収穫の失敗や失望が報告されている。
●種子は明らかに高価で、1ha当たりのコストは非Bt種子の4倍になるが、収量は会社が約束した量の半分以下であった。Btは収量を増加させるために作られたものではなく、世界的に見ても生産性改善のために商用販売された遺伝子改変作物はない。遺伝子組み換え(GM)作物の作付面積の85%は除草剤耐性作物、15%は耐虫性作物で占められており、Btコットンは、農薬コストを大きく削減することも狙っている。しかし、これは実現しなかった。Bt植物は綿実蛾幼虫にのみ抵抗性を持つように作られたものであるが、農民はアリマキ(アブラムシ)、ヨコバイ、白蚊の被害を受け続けている。その上、綿実蛾幼虫耐性も弱かった。Btコットンは農薬として作用する植物の一例である。もし植物がうまく生長しなければ、内部で生産される毒も綿実蛾幼虫を殺すのに必要な致死的レベルに達しない。
●Bt植物は涼しい米国で作られたもので、インドの厳しい乾燥地ではうまく育たない。特に小農民が栽培するときには、会社が処方する「避難地」を休耕するのは難しい。農民はBtコットンの品質(材質感と繊維の長さ)にも不平を述べている。
●GEACに委嘱されたマディア・プラデーシュ州・カルゴネ地区での調査の報告書がBtコットンの失敗の驚くべき証拠を提供している。調査はシャカハルラル・ネルー農業大学の棉病理学者・生理学者・農学者・昆虫学者・土壌学者・植物育種家のチームが行なったものである。サク形成期におけるBt植物の立ち枯れと乾燥の証拠が大規模に発見され、葉が垂れ下がり、落ちたり、未熟なサクが破裂する現象も伴っていた。非Bt植物ではその程度は小さかった。「避難地」植物の方がましだったほどである。微生物・栄養の研究により、立ち枯れの原因が微生物(菌類)や栄養不足でないこともわかった。同じ播き穴に二つ種子が播かれた多数のケースで、Bt植物だけが立ち枯れ、他は健康であった。報告書は、「遺伝的に制御された生理障害」に起因する可能性を示唆している。
●この失敗を喜ぶにしても、悲しむにしても、科学的に理解することが決定的に重要である。Btコットンの失敗は、現在の遺伝子工学が1958年にフランシス・クリックにより提案された分子生物学の「セントラル・ドグマ」の余りに単純化された理解に基づくものであるのか? それ以来のこの分野でのすべての科学的発展が無視されているのか?一生物のゲノムが完全に、また専らその遺伝形質を決定するという幻想をなお抱きつづけているのか? それを考慮に入れれば遺伝子工学者の試みそのものの土台を掘り崩すことになるであろう分子生物学の最新の発見を完全に無視するのか?
●過去30年を通して、ヒトゲノム・プロジェクト(1990−2001)で頂点に達した分子生物学の基礎研究は、この過度に決定論的な遺伝学の見解をめぐる困難な問題を提起した。ヒトゲノム・プロジェクトは、遺伝子の数の種の間の差異が多様な特徴を説明するためには余りに小さいことを明らかにした。Nature誌に報告された最近の研究は、これらの変異を理解するために決定的に重要なのは、ほとんど未解明のRNAベースの遺伝子制御ネットワークではないかと示唆している。従って、単に遺伝子を挿入するだけでは、望む形質を生み出すのに十分ではない。
●予期されない危険もあり得る。遺伝子工学者の主張とは反対に、外来遺伝子と遺伝子改変ホスト植物のゲノムの間の相互作用は本来的に予測不能である。最近、ベルギーの研究者は、挿入外来遺伝子がモンサントの遺伝子改変大豆のゲノムを偶然に改変したことを発見した。この異常なDNAは新たな、有害であり得る蛋白質を生産するのに十分なものであった。別の経路でも問題が起きた。Kohli et alは、全米科学アカデミーのProceeding誌に、いくつかの遺伝子改変稲において、酵素が外来バクテリア遺伝子のヌクレオチド配列を改変したと報告した。これは全く予想できない結果であり、そのような起こり得る事態をモニターする試みはなされていない。遺伝子改変植物が、もともとのバクテリア蛋白質と同じアミノ酸配列をもつ蛋白質を生産するのかどうか、それを知るテストは行なわれていない。GM会社は、予期されない影響の追跡を助ける外来遺伝子の生化学的活性に関する情報の提供を求められてもいない。従って、インドのBtコットンが非常に異なる結果を示したのは驚くべきことではない。
●このことは、遺伝子改変作物栽培のほとんどすべてが米国を筆頭とする4カ国に限定されている理由も説明する。米国におけるGM作物栽培面積の80%までが除草剤耐性大豆で占められていることにも注目せねばならない。モンサントは、最初、米国農民に大豆畑の雑草を退治する除草剤を提供した。この除草剤が作物そのものを殺し始めると、除草剤に「耐える」ように遺伝子を組み換えられた大豆を供給した。これにより、除草剤とGM大豆の両方の販売を維持できる。インド大豆農民がこのような作物を持つべき理由はない。
●遺伝子工学の危険な結果に関する証拠は蓄積され続けており、それは理論的懸念を確認させるものである。JacnischとWilmutは、「人間をクローンするな」と題するペーパーで(Science,2001)、出生前または出生後のクローンの欠陥の発展の恐ろしい証拠を提供している。彼らは、外見上正常なクローンが、いかに腎臓または脳の形成異常を示すか報告する。GM豚では、高頻度の心臓拡大・胃潰瘍・関節炎・腎臓病が発見された。2002年12月には、Natureは、生命を脅かす重症複合免疫不全症(SCID)の遺伝子治療を受けた子供が白血病になったという悲しいニュースをもたらした。子供の体内に挿入された矯正遺伝子が、予想外に別の遺伝子を活性化させ、彼の細胞の一つに制御不能な増殖を引き起こしたらしい。
●遺伝子工学産業の精度・予測可能性・安全性の主張は、それ自身の経験、あるいは遺伝学科学により裏打ちされない。実際には、我々のゲノミックス理解は、まったく初歩的なままである。従って、この科学の基礎的ブロックを積みながら、技術的応用には大きな注意を続けるのが最善である。利益よりも命を優先せねばならない。