反GMイネ生産者ねっとNo.284
2003年2月26日
農業情報研究所(WAPIC)
「食糧第一か、貿易第一か」
輸入数量制限は権利−ヴァンダナ・シヴァ
2月25日付のインド・ザ・ヒンドゥ紙で、ヴァンダナ・シヴァが、「食糧第一か、貿易第一か」と問い、国レベルでの食糧安全保障と農業を保護するために、関税以外の国境措置を認めないとしたWTO農業協定第4条を廃止し、輸入数量制限を認めるようにルールを変えることを主張している。彼女の主張の概略は次のようなものである。
食糧と国の安全保障の基盤は、ウルグアイ・ラウンドの間に通商問題として定義され直した。WTO農業協定(AoA)は、実際には食糧と農業については何も言及していない。土壌や作物、食糧あるいは農民、持続可能性や生計、食糧安全保障や公正な価格には何も触れていない。核心的問題である食糧安全保障、農村開発、環境的持続可能性、小農民の生き残りと存続は、一まとめにして「非貿易関心事項」あるいは「貿易障壁」に投げ込まれてしまった。AoAでは、貿易通商が第一であり、企業の利潤が地球や人々の健康、農村コミュニティーの生き残りに優先する。WTOの貿易自由化の実施が農民を自殺に、貧者を飢餓に、地球を気候災害の形でのエコロジー的破局に駆り立てているのはそのためである。
貿易自由化のインパクトのアセスはAOA第20条の義務である。このレビューは2000年にスタートした。しかし、実施問題あるいはAoA見直し問題では、現在まで何の前進もない。東京で最近開かれたミニ閣僚会合に提出された議長・ハービンソンのモダリティー草案は、どんなコストでも輸出を望む国々と国内食糧安全保障や農村開発問題に関心を寄せる国々との間での合意に失敗した。
農業交渉に関するWTOの危機は二重である。第一は、国々が異なる目標を追求し、異なる利益に奉仕する事実から来る。米国やケアンズ・グループなどの大輸出国は、どんな価格でも輸出市場へのアクセスを望み、市場アクセスを否定するすべては解体すべき貿易障壁だと言う。後発途上国、途上国、ヨーロッパや日本は、社会的・経済的・環境的持続可能性を貿易に勝る目標とする。途上国は、社会的・経済的持続可能性に高い優先権を与える。ヨーロッパにとっては環境的持続可能性が重要である。しかし、大きな違いにもかかわらず、大多数の国々は「食糧・農業第一」であり、「貿易第一」ではない。これがWTO改革の目標でなければならない。
インド商務相は、途上国は、特に先進国の高い補助に直面して、農業における関税を決める自由をもつべきだと主張した。「我々の関税は農民の生活に直接の影響を与える。我々は社会的不安定を許すことはできない」。貿易自由化は、食糧がどのように生産されるか、農業はいかに組織されるのかを決定する枠組をつくることはできない。諸国は社会的、経済的、環境的持続可能性を無視できない。WTOの第一の間違いは、これらの基本的問題をAoAから外部化していることだ。
危機の第二の原因は、プロセスそのものにある。システムとしてのWTOは途上国の関心を排除し、マージナルなものにしている。シアトル閣僚会合の失敗のあと、最も頻繁に使われた言葉は、WTOは「加盟国に引っ張られる組織」であるということであった。ドーハ以後のプロセスは反対のことを示している。
WTOプロセスの排除的性質はハービンソンが草案を準備した方法でさらに悪化した。途上国が挙げた問題は落とされるか、マージナルにされた。数量制限(QR)の問題は、農業紛争の中心にあるにもかかわらず、除外された。米国とEUの紛争はEUのGMO禁止に収斂している。南北の紛争は、OECD諸国の4億ドルの補助金とQRの強制排除から生じるダンピングに収斂している。
先進国の補助金とダンピングに直面する貧しい農民と貧しい国にとって、輸入数量制限の導入または関税引き上げが唯一の防衛手段である。これはインド、アルゼンチン、フィリピンが提案したことだ。ハービンソン草案はこれらの提案を完全に無視した。代わりに、それは特別セーフガードの権利さえ取り除こうと提案している。
必要なことは、関税化を定めたAoA第4.2条を取り除くことである。増加する補助金とダンピングに直面し、輸入制限と相殺関税は権利であり、生き残りのために不可欠である。WTOは、第4条でこの権利を奪い、第5条廃止の提案により一時的セーフガードまでの取り除こうとしている。3月31日の[農業交渉モダリティー決定の]デッドラインへのアプローチ、メキシコ閣僚会合へのアプローチとして、諸国はAoA第4条廃止によるダンピング停止に焦点を当てるべきである。これが除去されれば、諸国は、持続可能性を確保し、小農民を支持し、公正な価格を確保し、ダンピングを阻止し、田園と環境を護り、すべての人々にモノ、安全、適切な食糧を確保する市民のイニシアティブと国家の優先事項に基づく世界システムの建設に着手できる。