GMイネ生産者ねっとNo.264

2003年1月17日

農業情報研究所(WAPIC)

 

1.GMカノーラ、汚染を恐れる農民(オーストラリア)

2.Btコーン種子購入に補助金(フィリピン)

 

オーストラリア:GMカノーラ、分離帯は5m、汚染を恐れる農民

 

昨年のクリスマスの2日前、オーストラリアの遺伝子技術穀物委員会(Gene Technology Grains Commitee)が、遺伝子組み換え(GM)カノーラ(ナタネの一種)2品種の商用栽培に関するガイドラインを発表した。これは、GMカノーラの商用栽培に関する産業の自主規制の根拠をなすものである。しかし、それはGMカノーラと非GMカノーラの分離帯を5メートルとしており、環境・農民団体は、これでは花粉飛散による非GM作物の遺伝子汚染が避けられないと猛反発している。

 

 除草剤耐性のこれらのカノーラ種子は、モンサント社とバイエル社が遺伝子技術規制官(Commonwealth Gene Technology Regulator)に販売承認を求めているもので、承認されれば4月から栽培が可能になる。オーストラリアで今までに栽培されてきたGM作物は棉とカーネーションに限られる。規制官は、この新たなルールの発表を待って承認すべきかどうかの判断を下すことになっていた。

 

 この新ルールは汚染を1%未満に維持すれば問題はないという前提に立っている。5メートルの分離帯を設ければ、商業的に受け入れられるこの基準を十分に満たすことができるというのである。恐らくは、昨年7月にオーストラリアの研究者が「サイエンス」誌に発表した研究を根拠にしたものであろう。この研究は、カノーラ新品種の花粉は最大2.5Kmまでの範囲に拡散するが、他のカノーラが受精する比率は微小であり、汚染は、オーストラリアや海外の当局が非GMと認める限界レベルの1%をはるかに下回るとしていた。

 

 しかし、このような基準でGMカノーラ栽培が広がれば、僅かな汚染も許されない有機農業者は存続の危機に立たされる。「オーストラリア有機農民」のスポークスマンは、5メートルの分離帯は「馬鹿馬鹿しい」(リディキュラス)と言い、16キロメートルの分離帯と規則違反への厳罰を要求している。有機農民ではない非GM農民も、彼らの非GMカノーラがGMカノーラに汚染されれば、非GM品が受け取る高い価格を失うことなり、分離のための高いコストを払わねばならないと反発している。

 

 グリーンピースの活動家は、カノーラは2.6Kmの遠方からも汚染され、これは一シーズンで50万の種子が汚染されることを意味する、汚染は時とともに指数関数的に増加、1、2年の間は汚染を低レベルに抑えられても、それ以後は至るところに汚染が広がるだろうと言う。昨年、カナダの研究者は、カナダが設けている100メートルの分離帯は汚染を完全に防げるものではないが、要求される99.75%の純粋性を保つには十分すぎるほどであるとしながらも、自生カノーラをコントロールするための追加措置がなければ、多年の間に外来遺伝子の存在は容認できないレベルに増加する可能性があると警告している。

 

 カノーラの花粉移動については、前記のオーストラリアの研究のほか多くの研究があるが、オーストラリアの従来の実験に適用されてきたGMカノーラと他のアブラナ科作物の間の400メートルの分離帯は、これらの研究に照らして十分に適切なものとみなされてきた。しかし、オーストラリアの農業関係団体が構成するAgrifood Awareness Australia紙は、昆虫(蜂)がGMカノーラの花粉を集めるとすれば、さらに15メートルの昆虫トラップ(罠)が必要であり、これがない場合には1Kmの分離帯が必要だと述べている。

 

 

フィリピン:Btコーン種子購入に補助金

 

 昨年12月、フィリピン農業省の植物産業局が、モンサント社の開発した害虫抵抗性遺伝子組み換え(GM)コーン・'YieldGard'の商用栽培を承認した。数ヵ月先に栽培が始まりそうだというが、そうなればフィリピン、というよりアジア初の食用GM作物の商用栽培となる。

 

 しかし、農民が実際にこの種子を使うことになるのかどうか、まだはっきりしない。この種子の価格は慣用の種子よりも相当に値段が高いからである。「ビジネス・ワールド」が伝えるところによると、植物産業局は、種子購入のために利用できる財政援助を与えることになりそうだという。またモンサント社も、現在、この種子が農民にもたらす有償・無償の便益を量的に確定、慣用種子との価格差を設定する作業を進めている。フィリピン・トウモロコシ連盟会長は、「慣用種子よりも50%高くても、農民は与えられた生産性改善の約束にプレミアムを払うつもりでいる」と言う。

 

 途上国を最大のターゲットと定めたバイテク企業のGM作物売り込み戦略は、アフリカやインドのGM食糧援助拒否に見られるように、行き詰まりの様相を呈してきた。しかし、執拗に売り込みを続けてきた東南アジアで、突破口が開かれるのであろうか。今後数ヵ月の動きに注目する必要がある。

 

 

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