GMイネ生産者ねっと#229

02/12/02 アエラより

 

フランケン・フード 無表示で市場に

米国で遺伝子操作鮭、クローン肉が出荷直前

 

遺伝子操作によって、早く成長する魚、優良な牛や豚のクローン肉が米国で近々、流通しそうだ。だが表示義務がなく、消費者は見分けられない。

 

ライター エリコ・ロウ

 

「フランケン・フィッシュは買わない!」

米国の有名レストランのシェフ数百人や食品業者らが今年9月、こう発表した。発売前の食材の不買宣言として話題となった。

 

 フランケン・フィッシュとは、「遺伝子組み換え(GE)魚」を指す造語だ。人造人間・フランケンシュタインをもじって、フランケン・フード(遺伝子組み換え食品)の反対派が名付けた。

 

 やり玉に挙げられているのは、マサチューセッツ州にあるアクアバウンティ社。天然の鮭の4倍〜6倍の速さで成長するGE鮭の販売の認可を申請中だ。既に養殖試験場に15万匹のGE鮭を泳がせ、養殖場向けの魚卵の出荷準備は万端だという。環境保護団体は、

「天然魚より早く大きく育つGE魚が川や海に交じれば、天然魚の餌や領域を奪い絶滅に追い込む」と、GE魚が生態系を破壊するとして認可の反対を叫んでいる。

 

 ついに魚にまで及んだGEだが、背景として、米国内では既に、「遺伝子組み換え作物(GMO)」が当たり前に流通している。

 

 スーパーの食品の約70%がGMOだ。米国産大豆は74%、コーンは32%がGMO。それが大豆油、大豆粉、レシチン、タンパク質抽出物質、コーンシロップやコーンスターチとして多用されている。サラダドレッシング、マーガリン、クッキー、チョコレート、キャンデーなどにも含まれる、カナダ産カノーラ油も60%はGMOだ。

 

 また、食品加工用に使われる、酵素を生むバクテリアや菌の遺伝子組み換えも盛んだ。ビールやパン、ジュースにもGEバクテリアやGE菌の酵素が使われている。

 

 だが、GMOの人体への影響などの安全審査はない。米食品医薬品局(FDA)が、「GMOの生物特性は天然の作物と同等」とするバイオ産業の主張を受け入れ、総じて問題ないとしてきたためだ。

 

GMO排除の方法なし

 しかも、GMOは表示の義務がない。農作物も加工食品も、何がGMOか、原材料にGMOが使われているかどうか分からない。

 

 米国では今年10月下旬にオーガニック食品表示法が制定された。当初政府はGMOをオーガニック食品として認める方針だったが、消費者やオーガニック農場から批判が殺到、GMO含有食品はオーガニック食品の認定を受けられないことになった。つまり、オーガニック表示のある食品を選べばGMOの摂取を避けられる。逆に、オーガニックを選ぶ以外に、GMOを明らかに排除する方法がない。そうした中で起きた、今回のGE鮭の問題である。

 

 一方で、GE鮭はFDAが審査する食用GE動物の第一号としても注目されている。GE鮭は、成長を促進するホルモン分泌を増す遺伝子を親鮭の卵子に埋め込む。この卵がかえると、ホルモン分泌遺伝子を持った鮭となる。ここで埋め込む挿入遺伝子が動物薬に該当するとして、医薬品の扱いで審査されることになった。

 

 医薬品審査は慣例として、申請者や認可過程の情報は企業秘密保護のため非公開だ。そのため、GE鮭の他にどんなGE魚が申請中か、どんなデータが検討されているのかは分からない。

 

 アクアバウンティ社は食品としての安全上は、普通の鮭と変わりはないと主張する。そのうえ早く大きく育つGE魚は世界の食糧難解消にとって朗報だ、という。

 

 だが、海洋生物学者のアン・カプリスキー博士によれば、遺伝子組み換えでは、挿入された遺伝子に刺激されて他の遺伝子の働きが強まったり、新たな生体化学物質が分泌されたりといった予期せぬ異常が起こりがちだ。

 

 ヒトへの影響では、ホルモン分泌を増強されたGE魚を生で食べれば、残留ホルモンが腸から吸収されることもある。挿入遺伝子の種類によってはさらに多くの問題も生じるという。

 

 また、GE魚の養殖が広まれば、魚の病気感染防止のために抗生物質を乱用することは目にみえている。その残留抗生物質がヒトに蓄積されて耐性をつけることで、抗生物質が効きにくくなるという、別の問題に繋がる危険もあると指摘する。

 

天然魚と交雑の危険性

 しかし、それ以上に大きな問題は、生態系全体への影響だ。GE魚だけが成長速度が速いことで食物連鎖のバランスが崩れる危険性がある。食糧難の解消どころか海洋の食資源を枯渇させかねないと、米政府や議会の調査報告書も指摘している。すでにGE魚の河川への放出を禁止した州もある。

 

 そのためアクアバウンティ社も、GE鮭の養殖には陸上の水槽利用を条件付ける、生殖機能を持たない雌しか売らない、と発表した。

 

 だが、反対派は、魚の養殖は海や川、湖の一部を囲って出なければ採算がとれないはずで、そうなれば逃げ出す魚は必ず出てくると主張する。また魚の不妊化技術は不完全だという。不妊のはずのGE魚が生殖可能だった場合、天然魚と交雑すれば遺伝子汚染がとめどなく広がってしまう。

 

 こうした懸念から、環境への影響も含めたより慎重なGE魚の審査をFDAに求める声が高まり、結局、FDAは新たな環境調査報告書の提出をアクアバウンティ社に命じ、認可を延期した。

 

 それでも認可は時間の問題とみて同社はティラピア(いずみ鯛)や鯉などのGE化も進めている。

 

 同社だけではない。食用GE魚の開発は世界各国で進んでいる。アワビ、バス、ドジョウ、カワカマス、エビ、ニジマス、鯛などの品種について、カナダ、英国、イスラエル、キューバ、中国、台湾などで研究が進められている。成長が早い、寒さに強い、病気にかかりにくい、といった生産の効率化が目的だ。

 

 中国ではウイルス耐性を高めるため、ヒトの免疫遺伝子を挿入したGE鯉も開発したと伝えられている。これと、早く育つキューバのティラピアは認可寸前という。世界中の魚市場にGE魚が出回る日も近そうだ。

 

 一方で、遺伝子操作は米国では、チーズやミルクなど乳製品にも及んでいる。これも表示義務はない。

 

 米国産チーズの60%は、ミルクをチーズになりやすくするGE酵素が使われている。また、乳の分泌を促進するため、乳牛の30%は遺伝子を組み換えた牛成長ホルモンを摂取されている。このホルモンは、欧州では乳牛への使用が禁止されている。「FDAは有害性を承知で牛の成長ホルモンを認可した」とガン予防センターのサミュエル・エプスタイン医学博士は怒る。

 

 ホルモン摂取された乳牛からとったミルクには発ガン性のインスリン様成長因子が多い。明確な因果関係は立証されていないが、ホルモン摂取乳牛が導入された後、米国では乳ガン、直腸ガン、前立腺ガンが増加した。またこのホルモンは乳牛に乳腺症を招く。乳腺症からくる膿や、予防・治療用に投与する抗生物質によるミルク汚染も有害だ、と博士は指摘する。

 

クローン牛も出荷待ち

 さらにクローン肉も米国内では現実化している。食牛、食用豚、乳牛で、優良な固体を培養したクローンの精子などを生産している。

 

 米国の畜産農家は、子牛を育てる農場と、子牛を買ってきて育てて出荷する農場に分かれる。クローン農場は前者にあたり、全米で約100頭のクローン子牛が流通寸前だ。バージニア州キャッスルヒル牧場のアンガス牛(肉牛)や、メリーランド州フューチャーランド牧場のホルスタイン乳牛などだ。

 

 だが、クローンについても米国では、販売を規制する法律も、食品としての表示義務もない。クローン農場からひとたび出荷されれば、その後はクローン牛かどうか追跡できないわけだ。ハム・バター・チーズなどの加工品や食肉として市場に流通しても分からない。

 

 イリノイ州にあるプレーリー・ステート・シーメン農場は、養豚業者向けに精子を販売している。クローン豚の精子の発売をこの9月に予定していた。「FDAから、安全確認をしたいから販売開始を待ってくれ、と非公式だが有無をいわせぬ電話を受け」(同農場主のジョン・フィッシャーさん)、待機中だ。だが、来年早々には販売・流通が可能だと見ている。日本向けの輸出にも意欲的だ。

 

食品起因?の疾患急増

 クローンについては、バイオテクノロジー企業や農場はいずれも、「クローンは双子と同じ。遺伝子自体は変えていないから、その肉や乳製品は食べても問題ない」と主張する。だが、「食用クローンなど狂気的」と語るのは、遺伝子生物学者のジョー・カミンズ博士だ。クローンは受精卵や胎児の死亡率も高く、育っても、その多くは先天性異常やガン、呼吸器障害などに罹っており、極めて不健康だという。クローン畜産は全面禁止すべきだ、と主張する。

 

 一方で、米国内では一般人のGMO含有食品への認識は極めて薄い。世論調査機関、ピューセンターの調べでは「スーパーの食品の多くにGMOが含まれている」と認識している米国人は、半年前には11%に過ぎず今でも55%だ。GMOを食べ続ける危険性を主張する識者は多い。「責任ある科学技術利用のための医師と科学者の会」のメー・ワン・ホー博士は、「遺伝子組み換えで生物が起こす反応は個別で予測不能だ。突然変異やアレルギー源、毒素を生み出す危険は大きい」。

 

 前述のカミンズ博士も、「最大の問題はGMOの90%にB型肝炎やHIVウイルスに似たカリフラワーモザイク・ウイルスが使用されていることだ。侵略力の強い同ウイルスが生体内で他のウイルスと反応すれば危険な新種のウイルスが生まれかねない」と警告する。

 

 米国では、食品が原因とみられる様々な疾患や感染症、抗生物質耐性を持つウイルスが急増している。これがGMOの普及と時期的に重なる、と因果関係を疑う識者もいる。だが、どの食品にGMOが含まれているかが不明な中では、実証研究は不可能だ。

 

 「北米では商業利益重視で食品安全が追いやられ、遺伝子工学は野放し状態。食品製造は工業化し、われわれは工業性産物を食べさせられている」(カミンズ博士)

 

日本で食べている?

 ヘドロから吸収した有害重金属を、食べない部分に蓄積するトマトやポテト。有毒菌の増殖を招きかねないカフェインレスのコーヒー豆。自らの繁殖を阻止する遺伝子を持つ作物。・・・こうしたGMOの開発も進行中だ。

 

 ところで、食料輸入大国の日本は、多くの食品を米国からも輸入している。だが、米国内でGMOの表示義務も規制もない中、日本向け輸出食品の中にGMOがどれだけ入っているかは、全く分からない。GMO種子の大手モンサント社によれば、「GMOが穀物として日本に輸出されている可能性はある」。特別に輸出用にGMOを排除しない限り、混入が推測される。フランケン・フードは他人事ではない。

 

 日本では厚生労働省が昨年4月、安全審査を経ないGMOは輸入禁止とした。だが、審査済みのGMOも既に作物44品種、添加物10種ある食品衛生法で、GMOを含むと表示しなければいけないのは、最終製品として消費者に渡るものだけだ。しかも成分に占める割合が、上位の3品目、かつ5%以上の場合のみだ。日本で知らずにGMOを食べている可能性は十分にある。米国では、クローン畜産物も日本で認可される方向だと報道されている。

 

厚生労働省が安全審査手続きを終えた遺伝子組み換え食品および添加物

・ジャガイモ(6種類)

・大 豆 (4種類)

・なたね (15種類)

・わ た (7種類)

・てんさい

・コーン (12種類)

・リボフラビン

・グルコアミラーゼ

・プルラナーゼ(2種類)

・アルファアミラーゼ(4種類)

・キモシン

・リパーゼ

 

日本は米国からこんなに輸入している

(総輸入量に占める米国からの割合:%)

・牛 肉          46.9%

・豚 肉          34.4%

・鮭マス          12.4%

・果 実          21.9%

・野 菜          21.0%

・穀物および同調製品    69.2%

・ミルクおよびクリーム   14.0%

・ビール          11.5%

・ぶどう酒          9.1%

 

米国市場の遺伝子組み換え食品・添加物

《現在市場に出回っているもの》

コーン6種類 麦 米 ピーナツ サンフラワー

カノーラ5種類 大豆  ChyMax(ミルクを凝固しやすくする酵素)

トマト なたね BST(牛のミルク分泌を促進する牛成長ホルモン)

わた2種類 Chymogen(ミルクが含むミルクをチーズにする酵素)

《今後6年以内に市場に導入予定のもの》

りんご 新種の米 新種のトマト アルファルファ

バナナ 新種の大豆3種類 シュガービーツ

いちご 新種のコーン6種類 長持ちする野菜・果実

レタス 新種のわた3種類    その他 鮭 ます

新種の麦 新種のサンフラワー  ひらめ ティラピア

 

 

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