反GMイネ生産者ネット#195
2002.9.19
農業情報研究所(WAPIC)HPより
GM作物は米国とカナダに経済的災厄をもたらした
イギリス政府は、来年にも遺伝子組み換え(GM)作物の商用栽培の許可を決定しようとしている。この差し迫った状況のなか、GM作物導入に強く反対しているイギリス最大の有機農業団体・土壌協会(Soil
Association)が、『GM作物は米国とカナダに経済的災厄をもたらした』という研究報告を発表した(Soil Association:
(Executive Summary)Seeds of Doubt,02.9.17,(PressRelease) GM CROPS ARE ECONOMIC
DISASTER SHOWS NEW REPORT,02.9.17)。
この研究は、米国中西部諸州の慣行・有機農民に対する2002年1月、2月のインタビューと、米国・カナダの独立研究者、アドバイザー、産業アナリストからの証言に基づくもので、反バイオテクノロシー産業の視点からなされた最も包括的な状況レビューであると主張されている。それによれば、GM大豆・トウモロコシ・油料種子菜種は、1999年以来、農業補助金、価格低下、主要輸出市場の喪失、製品リコールで、米国経済に120億ドルのコストをもたらしたと推定される。GM食品市場の崩壊のために、農民はバイテク企業が約束した利益を得られなかった。食品産業と農業のあらゆるレベルで広がったGM汚染がこれらの困難の主因である。GM作物の深刻な問題のために、米国とカナダの農民と有機部門を代表する200以上のグループが、来るべき小麦の導入の禁止またはモラトリアムを要求しているという。
この研究に基づき、同協会は、GM作物導入により農民は財政的に脆くなり、イギリス農業の競争力が削がれると警告している。また、政府はGM作物により有機農業の拡大が妨げられないように約束しているが、この研究は両者が共存できないことも示していると言う。
この研究の主要な発見は次のとおりである
●除草剤耐性大豆と害虫抵抗性Btコーンの栽培の収益性は、非GM作物よりも低い。これは最大40%も高い種子コスト、GM作物価格の相対的低さ、大豆収量の減少による。
●GM作物導入後数年にして、米国のEUへの年間コーン輸出のほとんどすべて、3億ドルとカナダのEUへの年間菜種輸出3億ドルが消えた。輸出市場の喪失は価格低下を引き起こし、政府補助金(年間30〜50億ドルと見積もられる)の増加の必要性が生じた。
●収量増加という主張は、Btコーンにおける若干の例外を除き、全体的には実現しなかった。主要GM品種(ラウンドアップ・レディ大豆)の収量は非GM品種より6〜11%低い。ミシシッピの農民は、収量低下のためにモンサント社から16万5千ドルを受け取った。
●GM作物による汚染が、この2年、食品・農業産業全体に大問題を引き起こした。これには、カナダ・サスカチェワン州の有機菜種のほとんど全部の損失も含まれる。非GM種子の購入は難しく、購入できたものも汚染されている可能性がある。また、首尾よく非GM種子を調達できても、隣りのGM圃場により汚染されるリスクがある。多くの有機及び非GMコーン農民が、汚染を理由とする販売の喪失または価格低下のコストを払っている。
●非GM作物の栽培に成功した農民は利益を刈り取っている。一農民は、有機大豆販売で200%のプレミアムを得ると報告している。
●訴訟の増加と複雑な法的問題の出現。ライセンスを持たないGM作物が農地にある多くの農民が、特許権侵害でバイテク企業に告訴されている。作物がGMOに汚染された非GM農民が、モンサントに40万ドルの訴訟を起こされた。農民側は、汚染の結果としての所得と市場の喪失の補償を求めて企業を逆提訴している。カナダでは、サスカチェワンの有機農民が非GMの有機菜種を市場に供給できないと訴訟を開始、これはバイテク企業に数百万ドルのコストとなる可能性がある。
●バイテク企業の主張と反対に、除草剤使用が増加している。1回の施用でよいとされているのに、数回の施用が行なわれている。雑草は除草剤への抵抗性を発展させており、収穫後に成長する(自生)植物も現れ、広がっている。結果的に、農民は施用回数を増やし、旧来の、一層毒性の強い農薬に戻っている。
●リコールの費用。最も高くついたのはスターリンク事件である。アヴェンティスのリコール費用は10億ドルにのぼったと見積もられる。1998年には、テキサスで、GMコーンによる有機コーンの交雑汚染が疑われた。これは、有機トルティーヤとしてヨーロッパに輸送されて一度だけ発見されたものであるが、小企業に15万ドルの費用を課すことになった。
正反対の研究
この研究によれば、米国・カナダにおけるGM作物導入は、多大な経済的損失ばかりか、深刻な環境汚染ももたらしている。このような結論を支持する研究は今までにも数多くある。しかし、まったく正反対の結論を出す研究もあることに触れておきたい。今年、米国の政府・民間産業の資金で運営される非営利研究機関・食料農業政策センター(NCFAP)は、40のケーススタディに基づき、米国農民が採用している8つのGM作物は、2001年には、生産を18億Kg増加させ、生産コストを120億ドル減らし、農薬使用量を100万Kg減らしたと報告している。また、今月10日には、カナダの独立シンクタンク・ジョージ・モリス・センターが、オンタリオ州の大豆生産者の調査により、除草剤耐性大豆は、化石燃料使用を減らし、温室効果ガスの排出を削減し、農薬使用を減らし、土壌侵食のレベルを下げるなど、環境保全に貢献するというという報告を出している。
このような違いはどこから出てくるのだろうか。それを解き明かすような研究は、いままでのところ見当たらない。研究方法、研究対象の選び方が大きく関係するであろうが、GM作物の本格的商用栽培は1996年に始まったばかりであり、確定的結論を出せるほどには事実そのものが安定していないこともあるであろう。当面は、研究とはいえ、イデオロギー的要素が入り込むのは避けられないであろう。ただし、収益性や市場の問題は、GM作物に対する社会の受容性によって大きく変わる可能性がある。そして、社会の受容性は、GM作物の安全性や環境影響の評価に影響を受ける。GM作物の悪影響を確認する研究が増え、一層慎重なリスク評価を求める動きが強まっていることは、当ホームページの諸情報を追っていただければ了解できると思う。
また、北林寿信「遺伝子組み換え作物をめぐる国際情勢と再出発めざすEU」、『レファレンス』(国立国会図書館調査局) 2002年7月号(抜き刷りあり)、河田昌東「遺伝子組み換え作物−深まる健康と環境に対する影響の懸念」、『世界』、2002年10月号なども参照されたい。
* 詳しくは、農業情報研究所HP http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/